2 ◆ ユンのプロポーズ初挑戦
第五部(18話+幕間2話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
アルディートが結婚した。
年度が変わってすぐ。
おめでたい新年度の幕開けに合わせて、四大公爵家の後継ぎらしく、アルディートは超絶豪華な結婚式をした。
場所が王城じゃないってだけで、あとはもう普通に「王子様の結婚式です」って言われても信じられるくらい、とにかく豪勢な式だった。
ずっと両想いだった仲のいい婚約者様と。二人で純白の衣装に身を包んで。
……アルディート、すっごく幸せそうだったな。
アルディートってあんな顔もできたんだ。俺の前なのに全然隠しきれずにめっちゃデレデレしてて、こっちが恥ずかしくなった。
俺は結婚式自体は例のごとく不参加だったけど、式の前に、裏で両家のご家族が揃っているところにお邪魔させてもらって、そこでアルディートに「おめでとう」って伝えた。
そのとき向こうのご両親が、セレンディーナ様と俺を見て、笑顔でこう声を掛けてきた。
「アルディート様と娘のシラーが結婚したら、次はすぐにセレンディーナ様とユン様ですね。
アルディート様とセレンディーナ様は、双子のご兄妹ですから。」
って。
それで……そうしたら俺の隣にいたセレンディーナ様が、俺が何か言う前に、はっきりこう言い放った。
「嫌です。わたくし、すぐにユンと結婚する気なんてありませんわ。
間を空けずに立て続けに式を挙げてしまったら、わたくしが霞んでしまうでしょう?そんなの、あり得ませんわ。
それにわたくし、あなた方の娘様の『後に続いた』だなんて、絶対に思われたくありませんもの。
双子だというだけでお兄様と一緒にしないでいただけます?不愉快ですから。」
……って。
向こうのご両親はギョッとして固まってたし、セレンディーナ様のご両親は慌てて「セレンディーナ!」って怒って、向こうのご家族に謝ってた。
花嫁のシラー様は式の直前なのに物凄く気を遣って、俺に「ごめんなさい。セレナちゃんと私の両親が……。ちょっと会話が噛み合わなかっただけだと思うの。本当に、ごめんなさい。」って、申し訳なさそうに謝ってきた。
でも、俺はそのとき思った。
──あ。俺、セレンディーナ様に庇われちゃった。
って。
もしかしたら、セレンディーナ様はただ本当に「自分の結婚式が目立たなくなるのが嫌」と思っていただけなのかもしれない。
でも、俺はなんとなくだけど、違うと思った。
……多分、最近俺がずっとセレンディーナ様に対して弱気になってたこと、普通にバレちゃってたんだ。
だから今、俺がもっと臆病になっちゃわないように、プレッシャーを感じないように──……セレンディーナ様、俺に気を遣ってくれたのかも。
そんな風に感じた。
…………どうだろう?
振り返って改めて考え直してみると、やっぱり俺はただ単にショックを受けただけなのかもしれない。
「あ。セレンディーナ様、別に俺とすぐにでも結婚したいーってわけじゃないんだ。」って。
それで俺、無自覚に焦ってるのかもしれない。そこは自分でも正直、よく分からない。
でも、いずれにしても、俺が最近弱気になっちゃってたことはたしかだし、俺がセレンディーナ様に「結婚したいです」とか一度も言ったことないのは事実だし……
少なくともセレンディーナ様からしたら、俺の考えてることはよく分かんないだろうな──って、俺はその日一人で反省した。
俺の態度のせいで、セレンディーナ様を不安にさせちゃってるかもしれないなって。
それで、それから何日か一人で考えて……俺は決心した。
──セレンディーナ様に、全部話そう。隠してること全部。今までのことも全部。
ちゃんと謝るんだ。この前、クソジジイが言ってたみたいに。セレンディーナ様に「ごめんなさい」って。
俺は馬鹿だったから、馬鹿なことしか思いつかなくて……中等部の頃からセレンディーナ様と付き合うまで、ずっと馬鹿なことをしてました。そのせいで、セレンディーナ様のことも失望させちゃいました。……って。
全部、ちゃんと謝ろう。こんな奴でごめんなさいって。
「それでも一緒にいたいから、俺のことは見捨てないでください」って。
……それで、ちゃんと言うんだ。俺から。
「愛しています。俺と結婚してください。」って。
◆◆◆◆◆◆
振り返れば俺は、セレンディーナ様から全部もらってばかりだった。
セレンディーナ様は先に俺のことを好きになってくれて、まあ……いい思い出とは言い難い部分もあるけど、卒業式の日とパーティーで、2回も俺に告白をしてくれた。
初デートだってセレンディーナ様が俺をいろんなところに連れていってくれたし、キスもセレンディーナ様の方から頑張ってしてくれた。
あのときは驚いてうっかり変な感じの反応をしちゃったけど、でも今振り返ると……すごく可愛かったと思う。
それで……すごく申し訳なくなる。あんなにセレンディーナ様が可愛く頑張ってくれてたのに。俺は本当に酷い奴だった。
ってか、そもそも俺、歳下の女の人に好かれたの、初めてじゃないかな?少なくとも付き合ったのは確実にセレンディーナ様が初めて。
今まで俺はずっと「可愛い」って言われてばっかだったから。「格好いい」なんて言ってもらえたことは全然なかった。
……実際、不眠の応急処置をしてたときも、歳上に「可愛い」って興味を持たれに行く方が、超絶不本意だけど簡単だったし。
遊び相手を探してそうな女の人を適当に狙って「俺、こういうのにちょっと興味はあるんだけど……でも、初めてで、全然分かんなくて……。やっぱ、こんなところに来ちゃいけなかったかな。」みたいな嘘をつけば「あら、初心で可愛い子ね。……お姉さんが一から全部教えてあげる。」みたいな感じで勝手に向こうが面白がってくれたから、一番手っ取り早かった。それで、一通り終わってまあまあ上手く寝付けた次の日の明け方に「何でそんなに手慣れてるのよ!?全然話が違うじゃない!」とか文句を言われたときは「あ、ごめんね?でも寝させてくれてありがとう。」って言って逃げてた。
我ながらクズすぎる。何年間も初心者詐欺をしまくってた。
まあ、だから……今こんな風に、同級生で1こ下のセレンディーナ様に純粋に「格好いい」って言ってもらえるようになって……俺はようやく、まともに男になれたような気がしてる。
…………倍くらい「可愛い」も言われてる気がするけど。
最初はそれを言われるのがすごく嫌だったけど、最近はあんまり嫌じゃなくなってきた。
なんか……今まで言われてきた「可愛い」とセレンディーナ様の言う「可愛い」は、意味が違うんじゃないかなって。自分に都合のいい解釈をしてるだけかもしれないけど、そんな風に思えてきてる。
高級店とか、ご馳走とか。自分一人じゃ絶対に行かないような美術館とか、劇場とか。
平民の俺が「金じゃない!」って言うと、何だか見苦しい言い訳みたいになっちゃうけど……でも、本当に金じゃなくて……いや、金なんだけど。でも金じゃなくて、セレンディーナ様と付き合ってから、上手く言えないけどいろんなものをもらってる気がする。
金じゃなくて、物じゃなくて。……上手く言えないんだけど。
強いて言うなら「経験」かな?
セレンディーナ様とじゃなかったら一生楽しめなかったものが、どんどん増えてる気がする。
……今はちゃんと、セレンディーナ様のことを好きになれてると思う。
もう「出家しちゃっても知らない」だなんて思わない。もし今セレンディーナ様が出家しちゃったら、俺はその修道院まで行って、全財産寄付してでもセレンディーナ様を連れ戻すと思う。
「他の人と結婚してもいい」だなんて絶対に思えない。もしそうなったら俺は多分、一生立ち直れない。他の人と結婚してるセレンディーナ様なんて見たくないから、泣きながら王都を離れて死ぬまで独身で過ごすと思う。
俺、セレンディーナ様のこと、ちゃんと愛せてるのかな?
…………よく分かんないけど、多分、もう愛せてる気がする。
だから、嘘じゃない。本心からちゃんと言える──……と、思う。
大丈夫。今さら怖がることなんてない。本心を口に出せばいいだけだから。何も難しいことなんてない。
事情を知ってるオーレンも「お似合いだ」って言ってくれたし。
何か無駄に察してるアルディートも「信頼してる」って言ってくれたし。
俺の話聞いたクソジジイが「後悔するぞ」みたいなこと言ってきたけど……たしかに、クソジジイの言う通りだし。
……兄ちゃんが「相手のこと信じろ」って言ってくれたから。
それに、俺が何を言ったとしても……きっと……絶対、セレンディーナ様は俺のこと好きでいてくれるから。
…………だから、大丈夫。大丈夫だ。
考えてただけで喉のあたりがヒリついてきたけど、俺はそれでも決心をした。
大丈夫。やれる。俺はやれる。…………多分。
──それで、今度は俺が、ちゃんとセレンディーナ様を喜ばせてあげるんだ。
前向きなことを考えよう。
俺が「結婚してください」って言ったら、セレンディーナ様、喜んでくれるかな。喜んでくれるだろうな。
……もしかしたら、笑ってくれるかもしれない。俺の言葉で、セレンディーナ様が笑ってくれるかも。
ってか、そうだよ。今までは俺がセレンディーナ様を上手く喜ばせてあげられてなかったから、セレンディーナ様も笑えなかっただけなのかも。
だったらなおさら俺、頑張んなきゃダメじゃん。
……大丈夫、いける。頑張れる。
…………多分。…………多分だけど。
◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆
そう決意をしたのはいいけど、いざ言おうと思ったら、なかなか上手くいかなかった。
……みんなすごいなぁ。結婚してる人たちって。一体いつ、どうやって言ってるんだろう?
自分がいざ直面してみて初めて、その物事に対する理解度が上がって先人たちを尊敬できるようになるーみたいな経験、俺はけっこう、定期的にある。
魔法研究所に就職して、くたびれる度に「先輩たちはこんな労働を何年もずーっとし続けてきてるのか。すごいなぁ。」って思ったり。
貴族様のパーティーを実際に見て、ようやく「うわ!アルディートやアスレイ先生、いつも休日にこんな大変なイベントをこなしてたの?!忙しすぎない?!」って驚いたり。
あとは──……そうだなぁ。
俺はもうすぐ22歳になるけど。
父ちゃん、この歳でもう親になってたんだなぁ……とか。
母ちゃんなんて、19歳で兄ちゃん産んでたんだよな。そう考えるとすごすぎる。俺はまだこんなんなのに。
だから俺は今、自分が決心してみて、やっと気が付いてきてる。
「ラルダさんやハルさんって、本当に勇気があって格好良かったなぁ。」って。
あの宿屋で兄ちゃんやミリアさんにちゃんとプロポーズして、大切なことをちゃんと伝えてて。俺はあんな風にはできない……というか、現時点ではまだできてない。やんなきゃいけないんだけど。
ってか、本当。どう切り出せばいいんだろう?
デートの終盤あたりで?さり気なく会話の流れをそっちに持っていけばいいのかな?
それとも改まって「次のデートのときに、大事な話があります。」とか言えばいいの?……なんか、それはそれでちょっと怖いな。
……うーん。単純に「愛しています。結婚してください。」だけなら、もっと言いやすいのかも。
…………あ、そっか。
俺はその前に「自分はこんなクソ野郎でした。」って改めて自己紹介と過去暴露をしなきゃいけないから、こんな変な感じになってるのか。
………………はぁ。
まぁ……それはそう。…………だよね。
……………………はぁー。
全部自分のせいだって、分かってるけど。
…………セレンディーナ様だって、そんな話、聞きたくないよな。
〈俺、夜に上手く眠れなくて……それでずっと学生の頃から、適当に引っかけた女の人と寝て不眠を誤魔化し続けてました。ごめんなさい。
人数と回数はもう数えてません。ぶっちゃけ相手の顔とか、ほとんど覚えてません。……あっ、でもちゃんと覚えてる人もいます。相手探しが面倒になって学園外の知り合いに手を出しちゃったこともあるんで。
俺はそのくらいのクソ野郎です。
でも今はセレンディーナ様一筋です。本当です。
愛しています。俺と結婚してください。〉
…………クソじゃん。
こんなプロポーズ、誰が喜ぶんだろう。
絶対に聞きたくないでしょ。こんなの。
まあ、庶民の感覚からすると、割と
〈実は俺、100万リークの借金があります。武器買おうとしたら金が足りなくって。つい、ちょっとヤバめのところから金借りちゃったんですよね。
そしたら利息がまじでヤバくって。今は怖い借金取りに追われてます。
でも愛しています。俺と結婚してください。〉
といい勝負かもしれない。どっちもクソという意味で。
……でも大金持ちのセレンディーナ様からしたら、100万の借金の方がはるかにマシなんだろうな。
「馬鹿な男。最初からわたくしに言えばいいじゃない。たかが100万程度、すぐに払ってあげるのに。何故そんなことをするのよ。」とか言って、さっさと借金を返して……ヤバい人たちに法外な利息を付けられてたとしても、その利息ごとドカッと一気に支払うか──もしくは四大公爵家の権力をもって、ヤバい人たちの存在ごと全部無かったことにしちゃうんだろうな。
でも、俺がやってきた事実は、金じゃ「無かったこと」にはできないし。
ただセレンディーナ様に嫌な思いをさせるだけだ。
……そう考えると、金で解決できない分、俺の方がやっぱりタチが悪いよな。
…………嫌だろうなぁ。
俺がセレンディーナ様の立場だったら、嫌だもん。
多分、セレンディーナ様は俺に甘いから「仕方ない」って言って許してくれるんだろうとは思うけど。
でも、絶対にいい気分はしないよな。なんか……絶対に話を聞いたら「うわぁ……」って思うし……それ以降もずっと、ふとした瞬間に頭を過ったりしそう。
それで、そのことが頭を過るたびに……毎回、嫌な気分になり続けるんだろうな。セレンディーナ様。
俺がそれに対して「ごめんなさい」って謝り続けても不愉快だろうし……逆に俺が「全部昔のことなので。もう気にしなくていいですよね!」って開き直ってたら──
「ふざけんな!」って思うだけならまだいいけど……なんか──……悲しいだろうな。本当に嫌だろうな。
上手く言えないんだけど。
他の女の人をずっとそんな風に道具みたいに扱ってたクソ野郎と結婚して一緒になるなんて、
……セレンディーナ様、一人の「女性」として……普通に「気持ち悪い」だろうな。
………………。
……あ。でも、もしかしたら、
〈実は俺、今までずっと裏で浮気してました。ごめんなさい。
でもこれからはセレンディーナ様一筋です。もう向こうとは別れます。
愛しています。俺と結婚してください。〉
よりはかなりマシかもしれない。
現在進行形で二股してる男よりは過去にいろんな人と寝ちゃってた男の方が、セレンディーナ様的にはまだ許せるのかも。……ってか、現に今セレンディーナ様は、そうやって俺のことを受け入れてくれてるし。
さすがに婚約者を裏切って隠れて浮気してる人よりは、気持ち悪くない気がする。
そこら辺の感覚は、人によるとは思うけど。
──……って、俺はさっきから何を考えてるんだろう。
全然ダメじゃん。
「プロポーズ」って……本来なら最高な出来事のはずなのに。
ラルダさんと兄ちゃんや、ハルさんとミリアさんみたいに。相手に喜んでもらって周りもみんな幸せになれる、何よりもいいもののはずなのに。
何で俺はさっきから「『隠れて借金』よりもキツい」とか「『浮気してる』よりはマシ」とか、そんな下ばっかりを比較して、最悪を回避できるかどうかを考えちゃってるんだろう。
さっきからマイナスがどれだけ埋められるかしか考えてない。
……こんなんじゃ全然、セレンディーナ様を喜ばせて、幸せにできる気がしない。
…………いっそ別日にするとか?
〈俺、夜に上手く眠れなくて……それでずっと学生の頃から、適当に引っかけた女の人と寝て不眠を誤魔化し続けてました。ごめんなさい。
人数と回数はもう数えてません。ぶっちゃけ相手の顔とか、ほとんど覚えてません。……あっ、でもちゃんと覚えてる人もいます。相手探しが面倒になって学園外の知り合いに手を出しちゃったこともあるんで。
俺はそのくらいのクソ野郎です。
……今日言いかったのは、それだけです。〉
で、その次の週とか、1ヶ月くらい経った日に、改めて
〈セレンディーナ様、愛しています。俺と結婚してください。〉
って伝える。
………………何これ。クソじゃん。
ただ無駄にその空いてる期間、セレンディーナ様に不愉快な思いだけをさせて……その後まだ不愉快な話の記憶が新しいところに、いきなりプロポーズをぶち込まれる。
……どういうこと?間を空ける意味ある?
でも、じゃあ1年くらい間を空ければマシになるかって言ったら、それはそれで違うし。
そんなにセレンディーナ様を待たせるのもおかしいし。そもそもその期間ずっと嫌な思いさせるだけになりそう。
…………はぁ。
やっぱりあの初デートのときに、全部正直に言っちゃえばよかったんだ。
結果論だけど、あそこで言えてれば、まだ傷は浅かったと思う。
俺はまだセレンディーナ様のことを好きじゃなかったし、セレンディーナ様もあのときはまだ今ほど俺に思い入れもなかっただろうし。
でも、2年前は2年前で……元同級生のセレンディーナ様にいきなり自分のクズっぷりを暴露するほどの胆力は、あの頃の俺にはなかった。
…………でも、言うべきだったんだろうな。
セレンディーナ様があんなに頑張って2回も告白してくれたんだから。
俺は変に誤魔化したりしないで、ちゃんと嫌われる覚悟で、全部正直に伝えるべきだったんだ。
全部ずっと、俺が不誠実だったからいけないんだ。
セレンディーナ様に出会う前から。
セレンディーナ様と付き合うってなった日も。
……それから、今日まで2年も時間があったのに。
セレンディーナ様は何度も、俺に真剣に向き合うチャンスをくれてたのに。
俺は全部それを流して、酷い冗談まで言ってセレンディーナ様を必要以上に傷付けて……それで結局、今まで何もできてない。
そんなの、今から挽回なんて…………
でも、いつか言わなきゃいけないし。黙ったまま結婚する方が、もっと不誠実な気がするし。
だから今度こそちゃんと向き合おうって決めたんだし。
上手くここを乗り越えられたら、これからは本当に生まれ変わって、セレンディーナ様を大切にしたいって……ちゃんと本気で思ってるし。
だからいい加減うじうじ考えてないで、腹を括って言うんだ。
クソジジイが言ってたみたいに。
もう泣いて土下座してでも、何でもいいから伝えなきゃ。
──もういい加減、こんな酷い自分でいるのはやめるんだ。
◆◆◆◆◆◆
とか毎回うじうじ考えてたら、1ヶ月以上が経っちゃった。
俺は週末──最近はたまに平日の夜もあるけど──セレンディーナ様とのデートのたびに、「今日こそ言おう」って決心して……それで結局、毎回話を切り出すタイミングが分からなくて、「次こそ言おう」って自分に言い訳をして終わってた。
毎回言えないままセレンディーナ様と別れるたびに、どんどん自分に「不誠実ポイント」が蓄積されていく気がして、どんどん自分のクズっぷりに嫌気が差してくる。
だから、今日こそはちゃんとセレンディーナ様に伝えたいんだけど……
……でもやっぱり、いつ切り出せばいいのか、どう伝えればいいのかが分からなくて、俺は今回も何も言えないままダラダラといつも通りのデートをしていた。
「──……ユン?……ユン?
どうかしたの?何をボーッとしているのよ。」
「…………?
──あっ!すみません!」
セレンディーナ様に声を掛けられて、俺はハッとして意識を取り戻した。
……うーわ、やっば。
俺、今ちょっとだけ、多分だけど意識飛ばしてた。
人の話を聞きながら寝ちゃったの、けっこう久しぶりかも。
「貴方、どこか体調でも悪いの?」
セレンディーナ様が俺の顔を窺いながら、少し眉間に皺を寄せてキツめの口調で聞いてくる。
これまでのお付き合いの経験から、これは怒ってるんじゃなくて心配してくれてるんだということは分かる。でも俺はセレンディーナ様の話の途中でうっかり意識を飛ばした罪悪感から、申し訳なくなって謝った。
「ごめんなさい。
えっと……最近、ちょっと寝不足気味で。少しボーッとしちゃいました。」
と中途半端に答えたところで、ふと思った。
あ。今、もう言っちゃえばいいかも。この流れで。
──……「実は俺、もともとあんまり上手く寝れなくってー」って。
そう思って、軽く周りを見回して……それで、やっぱりやめた。
週末の休日1日目の、午後3時過ぎのカフェ。
なんか最近若者の間で話題になってる新しいカフェらしくて、満席でめっちゃ店内に人いるし。
それにセレンディーナ様、ここに入ったときに「あら。大衆向けの割に、意外と味は悪くないのね。」みたいなこと言って、初見の店に対して珍しく高めの評価してたし。
…………やめとこ。やっぱり今じゃないよな。
それに、休日だけど明日から俺、魔法研究所の出張行くし。出張直前にそんな怖い冒険はしない方がいいよな。
……うん。とりあえず出張を無難に終えて、それからまた考えよう。
来週。……来週にしよ。
俺はそうやって自分に都合のいい言い訳をして、また「不誠実ポイント」を貯めた。
すると、俺が周りを見回したのを見てセレンディーナ様は少し訝しそうにした後、軽くため息をついて俺に命令のような提案をしてきた。
「……そう。だったら、先に外に出て待っていて頂戴。
わたくしはお化粧直しをしてから行くから。貴方は風にでも当たって目を覚ましていなさい。」
「あっ、はい。……すみませんでした。」
…………はぁ。上手くいかない。
俺は情けない気分になりながら、セレンディーナ様に言われた通り先にカフェを出て表の通りに出た。
それで、何となく道の反対側にふらっと進んで、ガラス越しにボーッと知らない雑貨屋の中を眺めていた。
情けないなぁ、俺。
プロポーズ以前に、隠してることすらも正直に言えないし。
それどころか、ただのデートでも意識飛ばしてセレンディーナ様に呆れられる始末だし。
そんなことを考えていたら、不意に背後で人が立ち止まる気配がして、それから声を掛けられた。
「──あれ?……ユンさんですか?
偶然ですね!こんなところで会うなんて。」
セレンディーナ様じゃない明るい声に振り返って、俺は数秒間固まって……それから遅れて反応をした。
「──…………あっ!ミリアさんですか!
すみません。ちょっといつもと雰囲気が違ったんで、一瞬気が付きませんでした。こんにちは!」
うわぁ〜……すごい偶然。こんなことってあるんだ。
ぐだぐだな情けないデートをしていた俺が遭遇したのは、兄ちゃんがずっと世話になってる宿屋「クゼーレ・ダイン」のミリアさんだった。




