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毎日投稿チャレンジの最終日

作者: 唐揚げ

「書くネタがない!」


 私はリビングのソファで頭を抱えたままにそう叫んだ。

 あまりに深刻に、そして、唐突に叫んだために、同じようにリビングでくつろいでいた同居人の友人が、びくりと体を震わせて驚いた。あまりにも唐突な私の奇行に、不平を口にし、同居人はバイク雑誌を読み始める。この同居人をテーマにした一作を書き上げてもいいと思ったが、すでに、それは書いてしまっているので、二番煎じで嫌だった。

 もう一人、共用のデスクトップパソコンを使ってゲームをしている友人をネタに書こうとも思ったが、この友人はテーマにするには、あまりにも平凡すぎて、どうのしようもない。


「書くネタがない!」

「うるせぇな」

「書くネタがないんだよ!」


 私はリビングでついに立ちあがり、天井を見上げて叫んだ。

 友人は、呆れた様子で雑誌を閉じて、私へと顔を向ける。


「だいたい、書くネタがないなら、別にいいじゃないか。今日一日はネタ探しに使えって」

「違う違う、私は今、毎日投稿チャレンジをしているの」


 私は細かく毎日投稿チャレンジについて説明をした。毎日短編小説などの小説を投稿するというものだ。書き溜めはなくスタートする為、どんどんネタが消化されていく。おかげで、最初の頃はまだネタがあり、すらすらと書けたのだが、だんだんと追い詰められてきたのだった。

 私の説明を聞いた友人はただ、バカを見るように冷めた目を向けてきた。


「何? そのバカみたいなチャレンジ」

「うるさいなぁ。一か月でもいいから始めようと思ったのだから、仕方ないじゃない」

「で、その結果がネタ切れで二進も三進もいかない、と」


 心底呆れた様子で、友人はため息を吐き出した。


「別に肩ひじ張った作品を書き続けなくてもいいだろ。肩の力を抜いて書けよ」

「ぐぎぎぎ」


 私は歯を食いしばった。

 自分の中で、あまり完成度の高くない話を発表したくはない。あくまで、それは私一人のエゴでしかないというのは重々に承知しているのではあるのだが、それでいても、やはり、人の目に触れる以上はある程度は完成度を持った作品を提供しておきたいというのが心情としてあった。

 もちろん、肩の力を抜くという事が、即座に、手の抜いた作品を生み出して発表するという事につながるという訳ではないのだが、せめて、創作活動においては真摯に向き合っておきたいというのが、私としての意地としてあるのであった。


「じゃあ、どうするんよ。ネタ探し」


 腕を組んで考え込む私に友人は冷たく言った。

 なんと冷たい事か。

 友人甲斐の無い奴だ。

 と、ふと思いつき、ぱっと目を見開いた。


「そうだ。あんた、ネタになりなさいよ」

「え」

「そうじゃない。考えたら、あんたをネタにして書けばいいじゃない」

「待て待て、おい」


 今度は友人が頭を抱える番だった。その際に、頭髪がかきあげられ、十円禿が目立ち、それがネタにぴんと来る。

 円形脱毛症。そこのホールに吸い込まれていく話。

 いけるのではないか。


「十円禿、円形脱毛症で一本書くわ!」

「やめろやめろ」


 禿げているあたりを手で隠しながら、友人は抗議してきたが、創作をする私を止めることは出来ない。

 誰にも創作を止めることは出来ないのだ。


「ぼかすから! ぼかすから!」

「小説でぼかすからもねぇだろ!」

「イニシャルにするから!」

「せめて、仮名にしろ!」


 そういう事でなんとか許諾をとることは出来たが、友人は臍を曲げてしまった。お菓子でなんとか機嫌を取ろうとパンケーキを焼いてみると、美味しい匂いに友人は、態度を軟化させて、うきうきにハチミツまでかけてパンケーキを食べ始めたのだった。


「どう、美味しい?」

「あんたの性格は壊滅だけど、パンケーキはうまいよ」

「褒めてくれてありがとう。それで小説なんだけど」 


 パンケーキを食べるのに使っているフォークの先を、話し始めた私へと向けながら友人は、会話を遮った。


「とりあえず、なんだけど、さっきの会話の中でも見つけたと思うけどさ。日常生活においてネタっていうのはあるんじゃない」

「日常生活か」

「円形脱毛症をネタにされるのは好かないけど。それでも、日常生活からネタというかインスピレーションが湧くものじゃあないかな」

「なるほどな」


 私は友人の言葉に至極納得してしまうものを感じた。

 亀の甲より年の劫、持つべきは友というものだ。


「じゃあ、君との間の日常を小説にしてしまえばいいかな」


 かくして日常を元ネタとして、毎日投稿をしたが、それも最終日となり、また私は頭を抱えた。どうにも最後の最後になって、ついに頭の中にあるネタ帳からネタが消えたのだ。

 うんともすんともいかずに、また再び、友人に相談する事とした。

 が、今回ばかりは友人もお手上げという様子だ。

 もともと専門外の事でもあるので、これ以上に頼ることもできない。そう感じた私は、リビングでネタを考え出す事とした。が、私がひたすらに悩んでいるのを見て、友人が言った。


「毎日投稿チャレンジに悩む作家でも書いたら?」

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