『ぬるぽ』と言っても誰も『ガッ』て殴ってくれずむしろ顔を赤らめるんだが
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「へぇ『ぬるぽ』って言ったら『ガッ』って殴られるのが定番ネタなんだ」
俺はあまりネットを見ないからこの手のインターネット界隈のネタやミームにかなり疎い。
そんな俺がこのネタを知ったのは、プログラミング授業の課題を解くためにネットで調べものをしていた時に、某掲示板のかなり古いスレッドが検索にひっかかったからだ。
そこでこの謎のやりとりが書かれていて、気になって調べたら有名なネタということが判明した。
「寺田なら知ってるだろうな」
寺田は俺の同級生の男子で、俺とは逆にネット事情に詳しい奴だ。
時々リアルでもネットミームを口にしているようなのだが、俺はそれの意味が分からないのでその度にあいつは残念そうにしている。
試しに寺田にメッセージを送ってみよう。
『ぬるぽ』
『ガッ』
自動応答じゃないだろうかと思えるくらいに光速で返事が来た。
やはり有名なネタなんだな。
俺がネットの話題を出したらみんな驚くだろうか。
明日学校で披露してみよう。
まずはクラスメイトで俺の幼馴染の瑠々だ。
こいつは俺の話をいつも楽しそうに聞いてくれる良い奴だ。
良い奴から良い仲になりたいとは思っているが、良い雰囲気になるといつもはぐらかされてしまい進展する気配が無い。
それはそれとして、瑠々ならきっとノリノリで返してくれるはずだ。
「るる」
「和賀くんどうしたの?」
うん、今日も可愛い。
瑠々ならガッじゃなくてポカって感じで可愛く叩いてくれるかも。
「ぬるぽ」
「え?」
あれ、おかしいな。
反応してくれないぞ。
もう一回だ。
「ぬるぽ」
「……?」
まさか瑠々は知らないのか?
いやいや、そんなことはないだろう。
だって誰もが知っている有名なネタって書いてあったぞ。
俺みたいな高校生なのにネットに疎い特殊な奴ならともかく、暇さえあればスマホを弄っている最近の高校生なら誰だって知ってると思うんだが。
最後にもう一回だけ試してみよう。
「ぬるぽ」
「(和賀くん何言ってるんだろう。『ぬるぽ』って聞いたこと無いけど、どういう意味なのかな。何かの略っぽいよね。ええと、ぬるぬるの……………………!)」
おお、瑠々が何かに気付いたような顔になったぞ。
良かった思い出したらしい。
「和賀くんの変態!」
「え?」
「(ぬるぬるの……おち……アレなんて、なんでそんな卑猥なことを突然言うの!?)」
瑠々は顔を真っ赤にして教室を飛び出してしまった。
解せぬ。
一体どこに変態要素があったというんだ。
何か妙な勘違いをしているのかもしれないな。
後で誤解を解いておこう。
仕方ない、他の人で試してみよう。
「先輩、丁度良いところに」
「和賀君か。どうした」
「『ぬるぽ』」
「…………女性にそんなこと言うのはどうかと思うぞ」
「由奈さん、こんにちは」
「こんにちは、本を借りに来たんですか?」
「『ぬるぽ』」
「…………そういう本は置いて無いです」
「龍久慈さん、こんにちは。部活中?」
「こんにちは先輩。いえ、自主トレ中です」
「『ぬるぽ』」
「…………ヘイ、ポリスメン」
何故だ、誰も俺を叩いてくれない。
それどころかみんな顔を真っ赤にして俺を詰るじゃないか。
もしかして間違っているのは俺の方なのか?
実は『ぬるぽ』には卑猥な意味があるから変態野郎と思われているとか?
だとしたら大惨事じゃないか。
そうだ、こういうときは寺田に確認すれば良いんだ。
「あっはっはっはっ!流石和賀、おもしれー男」
「笑い事じゃねーよ」
教室に戻って寺田に事情を話したら爆笑しやがった。
チクショウ。
「まぁ拗ねるなって。みんな単に知らなかっただけだろ」
「そうなのか?有名なネタって書いてあったぞ」
「有名っちゃあ有名だけど二十年近くも前のネタだからな。今の高校生なら知らない人がいても不思議じゃないさ」
「マジかー」
てっきり一般常識レベルで浸透しているものなのかと思ってたわ。
「でもそうだとしてもなんで俺は詰られたんだ?」
「そりゃあお前……いや何でもない」
「なんだよ教えろよー」
「彼女達の名誉のために黙秘する」
なんじゃそりゃ。
まぁいいか。
ひとまずこのネタは封印だな。
せっかく俺みたいなネットに疎い奴がネットの話題を出すことで驚かせたかったのに。
でも覚えたばかりなのにもう封印するのは勿体ないな。
せめて一回くらいはリアルで反応が欲しい。
うってつけの奴が傍に居るな。
「ぬるぽ」
「ガッ」
いってええええ!
寺田の奴ガチで殴りやがった。
でもサンキュな。
もやもやとした気分が晴れてスッキリしたぜ。
「寺田の『ぬるぽ』気持ちよすぎだろ!」
今の俺の気持ちを素直に表現してみた。
正確には『ぬるぽ』の返しが気持ち良いんだが細かいところはまぁいいか。
すると何故か突然、教室内がざわめき出した。
「な、なんだ。どうしたんだよ、一体」
特に女子達がひそひそ話をしながらこちらを見ている。
その中の更に一部が特に熱い視線を投げかけてくる。
「寺田、何が起きたか分かるか?」
「ぷっ、ぐふっそりゃっおまっぐふっくっくっ……ぎゃはははは!」
「笑いすぎだろ!」
腹抱えて爆笑してやがる。
せめて説明してから笑えよな。
俺が寺田やクラスメイト達の反応に困惑していたら瑠々がやってきた。
「ごめんね。私が和賀君の気持ちを受け入れてあげなかったばかりにそっちの道に走っちゃったんだね」
「え?どういうこと?」
そっちの道って何。
というか瑠々はやっぱり俺の気持ち分かってたのか?
「お願い和賀君、戻って来て」
「何処から何処に?」
瑠々の言葉の意味が全く分からないんだけれど、どうしよう。
「まぁ……まてまて」
困った時の寺田様。
こいつならこの状況をなんとかしてくれるかもしれない。
「残念ながら和賀は俺の『ぬるぽ』に夢中なんだ、そうだよな!」
「お、おう。夢中って程じゃないがな」
それに良かったのは寺田の『ぬるぽ』の返しだからな。
自分でも少し間違えたからツッコミ辛いけれど、
「うわああああん。私、和賀君の『ぬるぽ』を頑張って受け入れるから、帰って来て!」
「うひゃひゃひゃひゃ!」
寺田め、場を混沌とさせただけじゃないか!
誰だよこいつならなんとかしてくれるなんて思ったのは。
ええとだ、つまり何がどうなったんだ。
瑠々が『ぬるぽ』を受け入れてくれるってことは『ガッ』って返してくれることになった、ってことで良いんだよな。
でもなんで悲しげなんだよ。
「瑠々、そんなに辛そうな顔するなよ」
「だってぇ」
所詮、たかがネットで流行った言葉遊びだろ。
辛気臭くやるものじゃない。
「こういうのは楽しくやって気持ち良くならないとな」
「和賀君のえっち!」
「え?」
ビンタされたけど、無事に瑠々と付き合うことになりました。
解せぬ。
ごめんなさいおこらないでくださいなんでもしますから