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無感情の殺人機  作者: かなかわ
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挿話第1話【機械の異常な感情 または彼らは如何にして計算するのを辞めて人類を愛するようになったか】

【注意】

今作品では、【章】と【挿話】が交互に進んでいきます

【挿話】は犯人当てには直接関係ありませんが、世界観に大きく関わる内容となります

 ああ、クソッ。

「ああ、クソッ!」

 自分の思考回路がまともに動いていないことを、思ったことをそのまま口にしてしまったことから察する。

 しっかりしてくれよ、良い大学出た頭なんだからさ。

「しっかりしてくれよ!良い大学出た頭なんだからさァ!」

 ああ、嫌になる。


 俺は水文学者、といってもそれは数時間前までのこと。

 現在俺の肩書は、「逃走者」だ。それを見てくれで表しているように、白衣は汗で肌に張り付き薄汚れてしまっている。

 この電気の届かなくなった地下駐車場はまるで暗室のように暗く、目の悪い俺にとっては目蓋が開いているのか閉じているのかすらわからない。しかし、彼らの到来はその音で分かってしまった。

「き、来やがったな……!」

 せっかくひと心地着いたというのに、もう無機質な足音が俺の背後から響いてくる。

 既に感情の無い元人類の友人たちが、容赦なく俺たちに銃口を向けてきてからたったの数週間。既に人類の数は一握りとなっていた。

「馬鹿馬鹿しい!何が人類は地球上に必要ないだ!だから宗教は嫌いなんだ!」

 皮肉にも、そう決めたのは他ならぬ人類様だというから笑えない。

「あ、ヤベ」

 ジャキッという鉄と鉄が擦れる音から、銃口がついに自分にも向けられたのだと察する。というか、既にこめかみに冷たいものが当たっている。

 暗くて見えなかった。というよりアイツら途中から足音消しやがった。

「あ、あのさあ」俺は無駄だと察しつつも、彼らとの対話を試みる。とでもいえばカッコも付くだろうが、要は命乞いだ。

「じ、人類の抹殺方法はガス室での安楽死じゃなかったかな〜。なんて、ハハ。銃殺はちょっと、僕も嫌かな〜。ね?元々は僕たち友達の関係じゃないか、そのよしみで、ホラ、助けてくれないかな?」

 その努力が実ったのか、目の前のロボットはすぐに引き金を引かずに返事をよこした。よっしゃ、これで隙でも生まれれば……。

「貴様は最重要プログラムに手を加えた危険人物だ。よって即刻排除」

 あっ、死んだ。

 所詮今となっては鉄の塊か、俺は諦めたように目を閉じる。


 ああ、アイツに黙って出てきたことだけが心残りだ。

 アイツと俺は血こそ繋がっていないが、そもそもアイツは認めてもいないが、俺たちは家族なのだから。

 せめて挨拶ぐらいはしておくべきだった。

 俺が死んだと知ったら、悲しむだろうか……いや、怒るだろうな。


 そんな愚にもつかない、走馬灯にしては何も浮かばない一瞬の静寂は、あまりにも不躾なエンジン音と叫び声によって切り裂かれた。

「博士ぇッ!」

 とっさに目を開く。不躾なエンジン音はその不躾さが形と速度と重量になったかの様なゴツい自動車だった。そしてそれはそのまま、俺に銃口を突きつけていたロボットに突き刺さり、紙吹雪のように吹っ飛ばした。

「あ、あんた何やってんですか!」

 左ハンドルの車の運転席に座ったソイツが助手席のドアを開けて叫んだ。

「ナイスタイミング!助かったわマジで!」

 俺のことを心配と怒りと安堵の入り混じる複雑な顔でみているコイツは、俺の助手。と言っても俺の肩書は今は逃走者なのだから、元助手だ。

「いや、こうして逃亡を助けてるあたりお前も今となっては元水文学助手、現逃亡助手……?」

「何言ってるんですかアンタ!こっちがどれだけ心配したと……出ます!」

 助手は前方を睨みつけ、突然ギアを入れ直してバックを始める。慌てて助手席に乗り込むと、それが合図かのように走り出した。見れば先ほど吹っ飛ばしたロボットが、どこか不調を起こしたのかフラフラとしながらもこちらに銃口を向け直していたのだ。

「おっすげえ、ガッツあるね。応援したくなる」

「こっち狙ってるんですよ!人類の生き残りって自覚あるんですか!?」

 狭い地下駐車場をバックで突き進む車と、それに銃口を向けるロボット。それらはまだ一直線上にあるままだ。相手の体制が整うのが先か、こちらが直線から逃げ切るのが先か。

「屈んで!」

 運転席にいる助手が、助手席に座る俺に命令する。

 ほぼ反射的に身をかがめると、銃声とガラスの割れる音が鳴り響く。状況はわからないが、おそらくあのロボットが銃をぶっ放したんだろう、そう考える間もなく今度は体が回転する感覚に襲われる。胃の中のものがシェイクされ、こみ上げてくるのがわかる。

「……オエッ」今朝食べたトーストかな?

「我慢してください!」

 タイヤがコンクリートを切る音と銃声が暗闇の中で響き、俺はまるでスクリーンのない映画館に閉じ込められた感覚に陥る。全てがフィクションのような。冗談のような。

 二度、三度と体が振り回されると、今度は車が前進し始めた。

「何してんだ!?」

「脱出するんです!」

 そうか、ということはロボットを後方に振り切り、今となっては前進するだけで十分なのか。つまり顔を出しても良い。

 俺の優秀な脳はそう結論付け、窮屈な映画館からの脱出を許可した。

「ふう、危なかっ」「何顔出してるんですか!危ない!」

ドゴォン!と顔を出した俺が捉えたのはその衝突音と、車のボンネットの上に転がるロボットだった。

 こいつマジか、銃撃ってる相手に突っ込んで跳ね飛ばしやがった。ハンドル握ると人が変わるタイプだったとは初めて知った。

 ロボットはそのまま転がって車の屋根から落っこちていき、銃を支える腕が捥げて転がった。

「シャアッ!チンタラリロードしてッから悪ぃんだよッ!処理速度上げてから出直して来いッ!」

 運転席で吠える助手がおっかない。



「……で、何かあったか?」

 普段、こうして助手が切羽詰って俺を探しにくることなどそうは無い。研究所に異変が起きて自分では対処しきれないと考えたから俺を探しに来たのだろう。

「……大変なことが起きました。ですがその、なんといえば良いか」

 冷静な助手がここまで狼狽えているのだ、おそらく事態は俺の予想を超えているらしい。

 サプライズの誕生日パーティーでないことだけは確かだ。

「わかった、実際に目で見た方がいいんだろ」

「はい」

 俺がロボット相手に切った貼ったをしていた施設から車で1時間、ようやくそこが見えてきた。

 【地球科学研究所】、ここが俺たちの職場でもあり、住処だ。

 何度も襲撃を受けボロボロの掘建て小屋と変わらないそこのエレベーターへと向かう。

 俺と助手が乗り込むと、エレベーターは扉を閉めて下降を始める。

「エレベーターは無事なんだな」

「ええ、アイツらはエレベーターには気付いていませんから」

 数秒後、エレベーターは下降をやめて扉を開いた。先ほどまでいた場所とは打って変わり、ゴミひとつ無い清潔な床が目の前に広がっている。

「……こちらです」

 助手が勝手知ったるドーナツ状の施設を改めるように案内を始めた。エレベーターから中廊下を進むと、そこが現れる。

 【AVルーム】、そこは扉に小窓が付いており中を覗けるのだが、助手は敢えて目を逸らしている。扉に手をかけることもしない。

 中に何かがあるのか。それぐらいは俺にも簡単に察することができた。

 恐る恐る、そこを覗き込む。


 中には――。


「首吊り……自殺?」


 挿話第1話【機械の異常な感情 または彼らは如何にして計算するのを辞めて人類を愛するようになったか】


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