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無感情の殺人機  作者: かなかわ
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ボツエンディング

これは【そして人類はいなくなった】のボツエンディングです


犯人を破壊後、ハルは未完成の新人類を連れ出さずに施設を出たエンディングとなります


まだ保存が残っており、今以上にかなり拙い文章ですがこういうボツエンディングの存在を正史と見比べるのも一興かと思い投稿します


ボツ【第5章、そして人類はいなくなった】


扉を開いた。

扉を開いたその時、僕の体を一陣の風が通り過ぎていった。

この施設に来てから再び外に出たのだ。僕は。

しかし、僕にとって世界は大きく変わって見えた。

空は青くて、どこまでも抜けていくようで。

雲は白くて、何故だか憎らしく感じるが、到底手が届かないことに気づく。

植物は太陽光を反射して柔らかなものにして僕のカメラに差し込ませる。

土は暖かく、這いつくばりながらスリープモードに移行してもいいかもしれない。

遠くに見える街並みは、白くて、冷たくて。

吹き抜ける風は僕の体を優しく撫でた。

それはまるで、遠い昔の記憶に見た、あの子の手のように。

そして。

そして。

そして、僕はようやく思い出した。

この世界を誰よりも見たがっていた子が、ここにいないことに。

「ううううう…………ああああああああああああああああああああああああああああ!」

慌てて周りを見回すが、どこにもその子の姿はない。

当然だ、あの子は僕の目の前で、死んだのだ。

その事実がどうしても事実として認識できない。

何度も何度もゴミ箱フォルダに入れても、気がつけばそこにあって逃げられない。

グツグツと沸騰する体の熱が行き場をなくしスピーカーから溢れ出る。

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

あの子の名前は、なんだっけ。

「あなたを、守るのが僕のタスクだったのに!」

あの子の名前が、思い出せない。

ふと胸を見るとそこには大きな穴が空いていた。

「あぁ、ああ……!」

穴が空いているなら、塞がなくては。

僕は手当たり次第に地面を掴んで握りしめ、胸の穴に押し付ける。

どれだけ土を押し込めても、何故か元の地面に落ちていく。

僕は空を見上げて背をそらし、腕を天に伸ばして太陽の光を胸の穴に入れようとする。

伸ばした腕を胸に――。

指先が、硬いものに触れる。

それは、僕の胸。

胸には、穴など空いていなかった。

ようやく僕は思い出した。

あの子の名前は。

「ナイ……ナイ……ああ、ナイ……!ごめんなさい……僕……貴方を守れなかった……!ごめんなさい……怖かったでしょう……痛かったでしょう……辛かったでしょう……!」

あの子の感情が何故推測できるのだろう。しかしそれは当たっていようと当たっていまいと最早関係ない。

ナイは、死んだのだから。

「うぁああああああああああああああああああああ!」

天に伸ばした腕を、地面に叩きつける。

その衝撃でついに左腕が根元から落ちた。

「僕、貴方に会いたい。貴方の話が、今なら理解できる気がするんです。会いたい、貴方の声が聞きたい……」

でも、それは叶わない。

そのはずだった。

突然どこかからか声が聞こえた。

ナイの声だ。

「……ナイ!?どこにいるんですか!」

ナイの声はまだ聞こえる。

「どこですか、どこに……」

ああそうか、これはログを再生しているんだ。

過去に聞いたあの子の声を、僕は再生しているだけなんだ。

だけどログでもなんでもいい。僕はあの子に謝りたかった。

「ごめん、なさい……ナイ。僕は貴方を……守れなかった……」

ログは僕に歯を見せて笑う。

「貴方の約束……守れませんでした……」

「誰も……守れませんでした……」

ログの中のあの子は両腕を広げる。

青空の下、優しい太陽光に包まれて。

あの子は笑う。

あの子は今、泣いてない。苦しんでない。

笑っている。

これは、僕に都合の良いように編集されたログだ。それなのに。

あの子は何故僕が見たことのない表情を浮かべるのだろう

あの子のログは僕の顔を撫で、泣かないで、と言う。

「意味が、わかりません……」

「意味が、わかりませんよ。ナイ、僕はロボットです。ロボットは泣くことなどありません……」

それでも、その言葉を聞いた僕の中の何かは再び落ち着きを取り戻していた。

「ナイ、僕はこれからどうすればいいのでしょう」

答えが得られるはずもないのに、僕はログに向かって問いかける。

「僕はこのように深刻なエラーに侵されています。オリジナルのデータを消され、ポッドも意味をなくし、おそらくあと8時間ほどで死ぬと思います」

あの子は、その場で両腕を広げたまま円を描くように回り出す。

降り注ぐ太陽光と、視界に入るこの世界と、自らが起こす風の流れを全身に受けて、彼女は回る。

そして、僕の胸に飛び込んできた。


いつのまにか、ログは消え去っていた。

ただ、まるでパズルのピースの最期の一欠片がようやくはまったかのように、僕の胸の穴も大きな満足感とともにふさがっていた。


「海……ですか」


僕はルート検索を始めた。


検索結果、徒歩で10時間。


僕の残り時間、残り8時間。


到底間に合わないだろう。


それでも、僕は立ち上がろうとする。


もう全身に指令が行き届く。


僕は立ち上がり、そして。


「間に合うかな」


そして僕は歩き出す。


一歩ごとに背後の地球科学研究所が小さくなっていく。


第ボツ章【】


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