最終章【縺昴@縺ヲ莠コ鬘槭�縺�↑縺上↑縺」縺】
どさり、何かが砂浜へと落ちる。
ブロックノイズで覆われた視界では捉え切れないが、ナイの体はすでに崩壊を始めている。僕は恐る恐るナイの口元にマイクを当てる。ザリザリとノイズに紛れてまだ小さく息が聞き取れる。よかった、と息をついて、なるほど呼吸の必要のない僕らが「息をつく」なんて、と自嘲気味に笑う。
現在午前5時30分。とっくに頭の中はデータとエラーでいっぱいになりつつも僕はナイを抱えて海へと辿り着いていた。今に膝をついてもおかしくない。
「ナイ、着きましたよ」
まだあたりは暗い。スモッグで覆われた灰色の空と海は遠くで交わり、白く線が水平に伸びている。ナイは目を開けない。もう息は聞こえてこない。小さな胸の音もノイズにかき消され、わからない。つい2歩前まで、生きていたのに。
「ナイ、海ですよ。ごめんなさい、貴方の足があるうちに来たかったのですが」
ナイの体を抱えながら、変形した片手でなんとか海水を掬い上げ、ナイの残った腕に触れさせる。細く、小さな指先が、たったそれだけで崩れていく。僕は後どのくらい生きられるだろう。気を抜けば今にも意識を失ってしまいそうだ。
僕はゆっくりとその場に座り、砂浜にナイの体を横たえた。きっとここなら、受け入れてもらえるだろう。そう信じて。
滑り込んでくる白い水がナイの体を撫でている。やがて訪れた午前6時、遠くの空が白みだした。夜明けだ。昇る金色が僕らを品定めするように照らしていく。それはナイを包み込むと、認めてくれたのか海の向こうへと連れていった。
「よかった」
僕はまだ意識がある。生きている。でももう立ち上がることも出来ず、姿勢を維持することもできず、砂浜へと倒れ込む。半分埋まった顔面が、一定間隔で水に沈むのはなぜだろう。
水が砂を洗う音が聞こえる。遠くへ引いたかと思うと、轟音と共に押し寄せる。それはまるで感情のようで。ああそうか。顔を濡らす水の正体、これは――波だ。
僕は最後までナイのことがわからなかった。彼女が何に喜んで、何に悲しんで、何に怒って、何に笑ったのか。わからないまま、彼女は去っていった。
なのに今。
今、ようやく。
「今なら、わかる気がするんです」
絶え間なく顔面を波が濡らしていく。
ナイとまた映画が見たい。ナイの軽口に怒ってみたい。ナイの境遇に泣いてみたい。ナイと共に、笑ってみたい。
「あなたに、また会いたい」
「今なら全部、わかる気が――」
生命の源である海と、自然を塗りつぶしたアスファルト、その波打ち際。最後に打ち寄せた大きな波は、僕を白く包み込んだ。
6体のロボット。
円形の世界。
その中心にいた少女。
ロボットにしかできない殺人。
ロボットでしかできない証拠。
ロボットとしかできない自殺。
人から作られた偽物。
偽物から作られた紛い物。
気づいたエゴと、守りたいエゴ。
死にたいエゴと、生かしたいエゴ。
死んでいったエゴと、産ませるエゴ。
それを経て、僕は人類と出会い。
僕が。
僕の手で。
最後の人類を殺して。
そして。
そして。
そして――
最終章【そして人類はいなくなった】
完