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弟みたいな年下王子が、年上になって異世界から戻ってきました!〜あざとい彼の大人の色気に勝てそうもありません〜

勢いのままに書きました。

年下の王子様が異世界から帰ってきたと思ったら年上になっていた話です。

 目の前で天使が笑っている。


 少しウェーブのかかった柔らかそうな金の髪。少し長めの前髪からのぞく瞳はよく知っている爽やかな水色はをしている。


 陶器のような白い肌。女の子が羨みそうな長いまつ毛。身長はスラリと高くて、無駄な肉などついてなさそうだ。


「ティア? 聞いてる?」


 春の日差しのような柔らかな声に呼び掛けられ、ティアは三度目をしばたたかせた。


 そうだ、二人は話をしていたのだ。まさか、見惚れて何も聞いていなかったなどと言えない。


「……あ! セシオン王子、申し訳ございません……!」

「そんなかしこまらないで。ティアには昔みたいにしていてほしい」

「そんなこと言われましても……」


 彼はティアの記憶する十歳年下の王子様ではなく、五歳も年上になって戻ってきたのだ。


 弟のように可愛がっていた昔のようになど、できるわけがない。


「私は何もかわらないよ? でも、驚くのも無理はないか。まさか、異世界に連れて行かれて二十年かけて戻ってきたら、こっちは五年しか経っていないなんて……ね?」


 セシオンの大きな手がティアの頬を撫でる。記憶にはない感触に身を強張らせた。


 セシオンは微笑む。溶けてしまいそうなほど甘い笑みを向けられ、頰に熱が集まった。ティアは慌てて頭を横に振る。


「王子、ただの侍女にそのように笑顔を向けてはなりません」

「ただの侍女じゃないよ。ティアだよ? それに、君は私のお世話係だったけど、本来は侯爵家の娘だろう?」


 ティアは頷くことができなくて、曖昧な笑みを返す。セシオンはティアの目の前で床に膝を着いた。


「王子っ!?」

「ティア、寂しいんだ。みんなは五才しか年をとっていないのに、私だけ二十才も年をとってしまった。父上だって母上だって戸惑ってる」


 セシオンが少し寂しそうにティアを見上げる。彼が膝立ちになったせいで、見下ろす形になってしまっていた。早く立たせなくてはと思ってはいるものの、それを言い出す雰囲気ではない。


 戸惑っているティアをよそにセシオンはそろりとティアの背に腕を回す。そして、瞳をわずかに潤ませると、口を開いた。


、戻ってきたのに、一人になってしまったみたいで怖いんだ。だから、ティアだけは昔のままでいて……? だめ?」

「……だめだなんてこと、ありません! 王子に悲しい思いなどさせません……!」


 何も変わってなどいない。たしかに年齢の関係はひっくり返ってしまったけれど、セシオンは昔と変わらず寂しがりやで甘えん坊のままだ。


 きっと異世界では一人で辛い思いをしただろう。だから、これからはティアが守らなくてはならないと思った。


 ティアはしっかりとセシオンを抱きしめる。幼い彼が怖い夢を見たと泣いたときように。







 ティア・レグラが王宮に入ったのは、彼女が十五才のときだった。王弟アミルの婚約者に選ばれ、行儀見習いとして王妃付きの侍女になったのだ。彼女は侯爵家の娘だから、話し相手のようなものだった。


 それを、まだ五才のセシオンがねだったのだ。「お世話係はティアがいい」と。「ティアじゃなければ嫌だ」と。


 まだ幼い息子に甘かった王妃は、結婚までのあいだ、息子の相手をしてほしいとティアに願ったのだ。


 セシオンはティアと三年間共に過ごした部屋を見回し、頬を緩めた。


 ーーやっと、帰ってこられた。


 八才の頃に異世界に拐かされて二十年、この日のためにどれだけ苦しい思いをしたか。


 部屋は昔のままだ。埃一つかぶっていない。ベッドの上には綺麗に畳まれた寝巻きが置いてある。


 ティアはそれを手に取った。


「王子、こちらの寝間着をお使いくださ……やだ。どうしよう……!」

「どうしたの?」

「あの……本来なら王子はまだ十三才ですので……」


 ティアが広げた寝間着はたしかに少年用のものだった。もう二十八才になったセシオンには小さすぎる。


「今から用意してもらいますので、お待ちください」

「ティア、いいよ。この時間だと大変だろう?」

「いえ、帰ってきたばかりの王子にはゆっくり眠っていただきたいですし」


 ティアは少年用の寝間着を握りしめて、頑なに譲らない。セシオンは肩をすくめた。


「なら、こうしよう。それを着て寝るよ。ティアが用意してくれてたんだろう? その寝間着」


 いつ帰ってくるかも分からない王子を待って五年間、毎日新しい寝間着を用意していたのは見ればすぐ分かる。


「ですが……」

「大丈夫だから。湯を浴びてくるから、それをちょうだい?」


 ティアは渋々セシオンに寝間着を手渡した。


「なに? ……もしかして、昔みたいに湯浴みを手伝ってくれる?」


 セシオンが茶目っ気たっぷりに聞くと、ティアの顔はたちまち赤くなった。幼い頃は手伝ってくれていたのに、この様子だともうお願いできないようだ。


「王子、そのような破廉恥な……!」

「冗談だよ。冗談。これでも一人で湯浴みくらいできるようになったんだ」


 ティアのか細い声を背に、セシオンは浴室に向かった。




 帰ってきたばかりの故郷は何も変わらない。しかも、年月だって五年しか経っていないのだ。


 変わったのは自分ばかりだ。いつも優しい姉のようだったティアの身長を追い抜かし、年まで追い越した。


 こちらの世界で五年、色々とあったようだ。ティアは異世界に連れて行かれたセシオンを守れなかった罪で、侯爵家から籍を抜かれ王宮で侍女をしているらしい。


 婚約者だったアミルからは婚約を破棄された。


 ティアは何もかもを失ってなお、セシオンの帰る部屋を掃除し続けてきたのだ。いつ帰るかもわからないのに。


 抱きしめた彼女の肩はか細かった。きっと満足に食事もできていないのだろう。


 手早く湯を浴びて、寝間着を着る。と、言っても少年用の服は小さすぎて着ることができない。上衣は床に放り投げ、下衣を足に通す。子供用ではあるがゆったりとした寝間着だ。長さは足りないが、尻は通った。


 髪から滴る水を適当に拭い、濡れたタオルを頭からかぶる。


 その姿で部屋に戻ると、ティアが小さな叫び声を上げた。


「そ、そんな格好で……。ね、眠るのですか?」


 恥ずかしいのか彼女は目を逸らしたまま、セシオンに質問する。頬を赤め、床ばかり見る姿も可愛いと言ったら怒られるだろうか。


 昔は顔色一つ変えずに濡れた体を拭っていた。男として意識されているのだ。つい、頬が緩む。


「着られるかなと思ったんだけど、上は着られなかった。でも、ティアが用意していてくれたものだから、着たかったんだ」

「風邪をひいてしまいます。やっぱり、寝間着を用意してもらいましょう?」

「まだ暖かいし、一日くらい大丈夫だよ。疲れたし、もう、寝たいんだ。……だめ?」


 昔のように、甘えた声を出せばティアはたじろぐ。


「だ、だめではありません……。でも、もし風邪を引いたら……」

「じゃあ、こうしよう。ティアが一緒に眠ってよ」

「へっ!?」

「人肌が一番温かかいんだよ。それなら風邪も引かないと思う」

「そんな……夫婦でもない男女が同衾するなんて……」

「昔は一緒に寝てくれただろう?」

「それは、まだ王子が幼かったからです! 年上の男性と同じベッドに寝るなど……」

「大丈夫。ただ抱きしめて寝るだけだよ」

「だ、だ、抱きしめて寝るなんて……! 無理です! そんな……」


 ティアは、頑なに頭を横に振る。耳まで真っ赤だ。可愛い。すぐにでも抱きしめてしまいたい。その衝動を抑え、セシオンは小さく息を吐き出す。


 ゆっくり床に膝を着いた。日に何度も同じ手は通じないかもしれない。一縷の望みをかけてティアを見上げる。


 ティアはセシオンを見下ろすと、まだ子どもだった頃のセシオンを思い出すようなのだ。そこにつけ込む。


「それに、怖いんだ。一人で眠って……またあの世界に連れて行かれてしまったらって……」


 ティアの袖を遠慮がちに引く。


 彼女はぎゅっと自身の手を握りしめると強く頷いた。


「大丈夫です! 次は私が守ります! もう一人で怖い思いなんてさせません!」


 ティアはセシオンの手をしっかりと握る。 その手は少し震えていた。


「ありがとう」


 ティアの良心につけ込んでいるのはわかっている。それでも、その手を離すつもりはなかった。




 ベッドの上で並んで眠る。恥ずかしいのか、すぐにティアはセシオンに背を向けた。


 仕方なく背中から抱きしめたのだけれど、これはこれでいいかもしれない。腕の中にすっぽりと収まる感じがするのだ。


「ティア、好きだよ」

「はい、私も王子が大好きですよ」


 ティアの好きとセシオンの好きは多分違う。もっと、男として見て。


「ティア、今まで一人にしてごめん」

「何をおっしゃるのですか。私の方こそ……あの日、お一人にしてしまったばかりに」

「私はいいんだよ。悪いことばかりじゃなかったしね」


 ティアの肩が小さく震えている。


「寝よう。明日はきっと今日より忙しくなるからね。これから、たくさん話を聞かせて?」


 ティアは小さく頷くと、それから声を出すことはなかった。しばらくすると、小さな寝息が聞こえる。


「君の良心にばかりつけこんで、酷い男だよね。それでも、君が好きなんだ」


 ティアは答えない。穏やかな寝息は本物のようだ。


 五才のとき、セシオンは十五才のティアに恋をした。その時すでに、彼女は叔父の婚約者で手の届かない人。それでもどうにかならないものかと、わがままを言って世話係として側にいてもらったのだ。


 八才のとき、異世界に拐かされた。それから二十年、毎日見るのはティアの夢だった。三十八才になった彼女はどんな女性になっているだろうか。結婚して子供もいるかもしれない。


 それでも会いたいと願った人が目の前にいる。しかも、誰のものでもない。


 彼女を守る力も、経験も手に入れた。


 彼女の頭に口づけを落とす。


「おう……じ……」


 ティアがみじろぎセシオンを呼ぶ。そして、また穏やかな寝息を立てた。


「ティア、幸せにするよ。だから、私だけのものになってよ」


 

お読みいただきありがとうございます!

あざといヒーローが書きたくて、短編を書きました。

もう少しティア視点で翻弄されているところを書きたいので、また書くかもしれません。


ブクマや☆の評価、感想で応援してくれたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 年下が、年上に! 素敵です!年下、年上両方の良さで、ヒロインを溺愛、翻弄とか…! もっと膨らませた続きが読みたいです! [一言] 全年齢版で続きが読みたいのはもちろんですが、ムーン版でも美…
[良い点] 好きい……!! すみません、読んでる間ずっとにやにやしちゃいました。あざとい……! やっぱり水に濡れちゃってフフフってなってしまいました。半裸は反則ですっ(すき) ティアがもっと翻弄されて…
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