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初恋  作者: しおん
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2

教室をを出ると、廊下で再び、健人とすれ違った。

普段、会話らしい会話はしないが、健人から話しかけてきた。

「図書室で、見た?」

健人は面白がってる様子だった。

廊下には由梨花と健人しかいなかった。

健人の真っ白な制服のシャツが、みるみる歪んで見えてきた。

「えっ」

健人の顔色が変わった気がした。

が、気にする間も無く、

「見たけど、見てない」

と呟いて、足早にその場を去った。

健人の「図書室で、見た?」の台詞がこだまする。

健人が知ってるということは、あの二人は更に同じことをしたのだ。

そういうことだ。

誠は由梨花の彼氏でも何でもない。

ただ一方的に、由梨花が熱を上げていただけだ。

決定的な場面は、由梨花の初恋を終わらせた。

その夜、健人からSNSを通じて連絡が入った。健人と電話番号やラインのやり取りはしてない。由梨花の本名で調べたのであろう。由梨花の苗字は珍しい苗字のため、すぐに見つけられたのだと思われた。

『お前、誠のことが好きだったの?』

率直な質問を投げ掛けられた。

接点が少ないとはいえ、同級生にそれの返事をするのは憚られた。

いつからか芽生えた感情は、心の宝箱に入れ、大事に大事にしてきたものだ。

よく遊ぶ女子にも言えないでいた。

いつか終わりのくる、ガラスのような恋心だと、本能的に知っていたのであろうか。

いつまでも返事ができないでいた。

それは、質問に肯定したも同然だ。

健人のほうから話題を変えてきた。

『高校、どこ受験するの?』

それにはすぐ答えられた。

『K女子高』

『お嬢様学校じゃん。中学からあるだろう?なんで中学から行かなかったの?』

『私、発達障害のグレーゾーンで、進路相談で、中学は難しいと言われたの。今の中学なら、発達障害に対応してるから、そのほうがいい、って』

『じゃあ高校も、その発達障害に対応してるとこのほうがいいんじゃね?』

『去年からK女子も発達障害とか自閉症に対応するようになったんだって』

『そうなのか。受験勉強してる?塾は?』

『してない(笑)お母さんが卒業してるから、多分、縁故入学(笑)』

『やっと笑ったじゃん(笑)K女子かあ、、、あんま偏差値高くないけど、発達障害って俺はわからないけど、ガリ勉しなくて済むなら、そのほうがいいかもな』

『どこ受験するの?』

『S高』

S高は県内一の公立の進学校だ。

『受験勉強、大変そう』

『大変だよ。俺は理数系は得意だけど、社会がやばいかもな。社会、得意?』

『私、勉強はダメだよー(笑)』

『また笑った(笑)』

その時、居間のボンボン時計が夜7時を告げた。

『よかったら、今から出れるか?海、見に行こうぜ?』

海辺の街に住んでる二人には、海を見に行くといえば、アウレット沿いの人工浜へ行くことを意味していた。

急な男子からの誘いに戸惑った。男子から誘われることじたい、初のことだった。

『ごめん。もうお父さん帰ってくるから』

嘘ではなかった。

『あ、いいよいいよ。急にごめんな?』

『ううん』

昼とは違った胸の鼓動を感じていた。

健人に好意を抱いたことはない。健人に好意を抱いてる女子に、このやり取りを見られたら、村八分になるであろうことは容易に想像できた。

『塾は行かなくていいの?』

何気ない質問だった。

『俺んち、凄い貧乏で、塾なんて無理。行かせてもらえないよ』

ハッとした。

塾にも行かず、学校だけの勉強でトップクラスの成績をおさめ、S高を受験しようとしている、、、。

何か、世界が違う気がした。

その時、父親の乗る車が門から入ってきた音がした。

『お父さん帰ってきたから、ごめんね。あんまりスマホしてると、怒られるの』

『わかった。よかったら、明日、部活帰りに一緒に帰らないか?』

それは健人に好意を抱く女子達を敵に回す行為だった。

『明日は用事があるから、ごめんなさい』

健人はそれ以上、誘ってこなかった。

そのかわり、電話番号とラインの交換だけはかわした。

何がどうではないが、健人と話をしていると気が紛れた。

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