ドブスでいじめられっ子の私が学校1のイケメンに告白されたから罰ゲームかも知れないけどとりあえず付き合ってみたら信じられないほど幸せになった話
私が主演をつとめた映画『ドブスでいじめられっ子の私が学校1のイケメンに告白されたから罰ゲームかも知れないけどとりあえず付き合ってみる話』は大ヒットとなった。
特殊メイクなど一切なしで化け物が美少女に生まれ変わったこと、そして主演俳優の演技が評価されたことも一因らしい。
浜 ゆいが……御前の弟か……昔のあいつとは似ても似つかない奇跡の美少年。
でも、今のあいつとは……よく似ている。幼さを残しつつも切れ長の目はクールさを、すっと通った鼻筋は高貴な印象を与えている。城や佐朝じゃあ勝負にならないわね。
そんな主演男優さんが……
「あんたさぁ、性格はクソみたいだけど演技はまあまあじゃん。顔もまあまあ見れるようになったし。最初は二度と共演するもんかって思ってたけど……またな……」
そう言って去っていった。かわいいところもあるものね。まあ、あのクラスの俳優さんに認められたことを喜んでおくとしよう。もう私の生きる道はここにしかないのだから。
「ちょっと雅子ぉー! 今のゆいが君じゃん! アタシのことなんか相手してくれないのになんでよぉー! あ、それより打ち上げ行くんでしょ? アンタと話したいって子たちが待ってるんだからさぁ!」
「悪いわね。帰るわ。ちょっと用があるから。」
「えー? 終わってまで付き合い悪いんだからー。そんなんじゃ芸能界で生きていけないよぉー?」
「その時はその時よ。じゃ、また。」
「もぉー! 雅子のバカぁー!」
安珠薇は能天気でいいわね。こいつはこいつですっかり本性が全国にバレたおかげか、気ままに振る舞っている。やはり女の生き様は顔じゃないってことか。
「お疲れだったねぇ。どうだい? 一夜にして国民のヒロインになった気分は?」
「どうでもいいわ。もうこの道から逃げられないってことが分かっただけ。せいぜい稼いでみせるわよ。」
「それが分かってるんなら上出来さぁ。そんじゃあドレスを作りに行くよぉ? 主演女優様がそれじゃあカッコつかないからねぇ?」
「そうね。またドレスを着れるなんて思ってもみなかったわ。せっかくだし紫のイブニングドレスにしようかしら。今の私なら似合うと思わない?」
「へっ、あんたにしちゃあ珍しい。奥様リスペクトかい?」
「さあ? ほんの気まぐれかもね。」
私のギャラの半分は御前の母親へと流れ、残りの半分はこの朝比奈へと流れている。
そこに不満などない。朝比奈が付いててくれるおかげで私の身の安全は完璧に守られている。そして……信じられないほどに心は安らいでいる。
水本グループやライトニングゲンジプロモーションの崩壊に関してあれこれ聞きたがるマスコミからも守ってくれる……
話したくもない佐朝との生活や北条家の犯罪……そして私自身が犯した過ち。そんな全てからシャットアウトしてくれて……私を……
「あの、あり……がと……」
「声が小せぇんだよ。そういうことは大きい声でいいなぁ?」
「うるさいわね! 何でもないわよ!」
城もいない、佐朝もいない。
秋子たちもいなければ両親も、使用人たちもいない。
それでも……
こんな私を支えてくれる奇特なやつ……
この映画のギャラなんてタダみたいなものなのに。
バカな女……
私なんかよりよっぽど綺麗な顔してるくせに……体は傷だらけで……
バカな女……
「ありがとう!」
「おっ、いい声が出せるじゃないのさぁ。そうでなきゃあ主演女優賞はとれないさぁ。まっ、奥様の域にはまだまだだけどさ。それなりによくやったんじゃないのかぁい? あんたの身元保証をしてる奥様のためにもせいぜい頑張るんだねぇ。」
「当然よ!」
当然よ……
私は……北条家最後の女……
北条 雅子なんだから!
この年、『ドブスでいじめられっ子の私が学校1のイケメンに告白されたから罰ゲームかも知れないけどとりあえず付き合ってみる話』、通称『ドブイケ』は日本アカデミー賞を受賞した。
結牙は主演男優賞を、雅子は主演女優賞をそれぞれ受賞した。なお、安珠薇もちゃっかり助演女優賞を受賞し、吾妻は監督賞と脚本賞を一人で受賞した。
これによって北条 雅子の名前は日本全土に轟いた。なぜなら演技経験のない素人が初めての映画で主演女優賞をとったからだ。ある者は純粋に驚き賞賛し、ある者は作為を疑った。だが、塗り替えられた興行収入という数字の前には誰もが口を噤むしかなかった。
ここからの雅子の女優人生は順風満帆ではなかったものの、第二の『磯野 よしの』と言われるほどの活躍ぶりだったことを申し添えておく……
ただ、磯野 よしのと違う点は……生涯独身であったこと。浮いた噂の一つもなく、いつも撮影所やロケ地と自宅を往復するだけの日々だったらしい。
『浜 ゆいが』こと御前 結牙は、いかなる女優とも浮名を流すことなく、ひたすら演技の道に没頭していった。
結婚をしたのは三十代の後半、一般的に言ってブスと呼ばれるであろう料理上手な歳上女性が相手だった。
『磯野 よしの』こと御前 由乃は還暦を迎えるまで日本には帰ってこなかった。世界各地から請われるままに映画に出演していたらいつの間にかそんな歳になっていたらしい。
なお、六十歳の誕生日を迎えた彼女は銀幕の世界から突如引退した。噂によると日本の海沿いの別荘地で夫と仲睦まじく暮らしているとか。
『安珠薇』こと常盤 安珠薇は五度の結婚と四度の離婚を繰り返して 、四男三女をもうけた。相手の男性はいずれも歳下だった。五度目の結婚は四十三歳の時、相手の男性は二十三歳の若手俳優だった。
『九狼 城』は高校を卒業後、実業団『肘川エクストリーム』に入団した。そこを足がかりにNBAを目指していたが、 ハードな練習が祟ったせいか膝を壊して引退。その後は恵まれた容姿を活かしてファッション雑誌のモデルとして生計を立てられるまでに成功した。
なお、ハードな練習の原因はNBAのあるチームからオファーがあったためと噂されている。
『弁田 慶三』はボランティア活動をしつつもバスケのトレーニングは怠らなかった。その結果、九狼の引退と入れ替わるようにして『鎌倉ウェアハウゼン』のセレクションに合格、そして入団。
その後、引退するまでの15年間で日本バスケ界の守護神と呼ばれるまでに成長した。最後まで鎌倉ウェアハウゼンから移籍することはなかった。
そして……
「おかえりなさい。今日もお疲れ様!」
九狼 静香は専業主婦である。
いつも夫である城のことを第一に考えている。
城がアメリカに行くなら通訳兼栄養士として。
膝を壊したなら理学療法士として。
朝比奈から城にモデルをさせてはどうかとオファーがあった時は体を絞れる食事を。
そして今は。
「ただいま静香。そんなに歩き回って大丈夫なのか?」
「うん、今日は大人しいみたいなの。ご飯できてるよ!」
現在の静香は妊娠九ヶ月。
城が膝を壊した時に静香からプロポーズして結婚。二人で暮らすにはやや広すぎる静香の実家で生活していた。結牙はとっくに一人暮らしを始めている。
静香を欲しがる業界は枚挙に遑がなかった。
映画、モデル、芸能界。
医学、理学、大学界。
吾妻監督直々のオファーやドクター西条からの打診もあった。
だが、静香は全てを断り専業主婦として生きている。全ては城のために、自分のために。
何より、生まれてくる子のために……
これにて本当に完結です。
長い間お付き合いいただきありがとうございました!
静香が丈夫な子を産むことができるようお祈りくださいませ!
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