ドブスは彼氏の家に呼ばれる!
「ただいま。」
「おかえり。何か食べる?」
「うん、食べたい。」
「姉さん! 遅いじゃないか! 心配したんだよ! 彼氏ができたって言うし……ちゃんと姉さんに相応しい人なんだよね!?」
これはシスコンって言うのかな。弟に好かれているのは嬉しいことだけど。
「結牙、そんなことは分からないよ。分からないから付き合ってるの。どうなることだかね。」
「注意してよ! 男は狼って言うんだから。姉さんは隙だらけなんだからさ。」
「ふふっ、確かに九狼君は狼だね。名は体を表すのかも。でも心配いらないよ、たぶんね。」
九狼君が私の体を求めてくることなんかあり得ないのに。路傍の岩に欲情する男なんかいないと思う。一体結牙には私がどう見えてるんだろう。
「姉さんは甘いよ! 甘すぎるよ! ニートの人生設計じゃないんだからさ……」
「ほら、二人とも食べなさい。結牙は人の心配してる場合じゃないんじゃない?」
「そうだけどさぁ……」
結牙は小さい頃から子役として芸能活動をしている。中学生になり、身長が伸び、声変わりを経て子役の仕事は激減した。しかし、新たに俳優として生きるべく切磋琢磨していた。そして中学3年の現在、主演級のチャンスが来た。すでに最終オーディションを受けるところまで残っているらしい。
見た目を活かしてモデルをすればいいのに。そっちのオファーは多いと聞いているのに、なぜか俳優に拘っているようだ。
夕食が終わり、食卓には私とママの二人きり。ママはお酒、私は紅茶を飲んでいる。
「デートは楽しかった?」
「デート? デートなのかな。うん、楽しかったよ。」
「それは何よりね。明日も何か作っていくの?」
「うん。かなり喜んでくれたし。あ、よく分からないんだけど、何だか罰ゲームって感じがしないんだよね。一体何なのかな?」
「ふぅん、詳しく話してみなさい?」
ちょっと恥ずかしいけどカラオケの後のことを話してみた。黙って聞いてくれるママ。
「なるほど。時間が欲しいと言われたのね。何か事情がありそうね。どうやらバカな男がよくやる罰ゲームとは違うみたいだわ。他に何か彼に関することで違和感はなかった?」
「違和感……彼の友達の反応からすると本当に罰ゲームではなさそうだった、かな。その後、3年の水本先輩と会って……」
「水本、水本グループの御曹司ね。駅前のドナの前で会ったのね。」
「うん。北条とラグゼ・ラ・メールに行くって。あっ! 歩いてたよ。あいつはいつも車で迎えが来るはずなのに。」
「ふぅん。ラグゼに行くにしても方向が違うわね。水本 佐朝と九狼 城。匂うわね。そこに北条家のアバズレまで。面白くなるかもよ?」
「そうなの? さすがママね。」
「静香は自分がやりたいようにやりなさい。前を向いて、胸を張ってね。」
「うん。ありがとう。あ、そうそう今日学校でね……」
学校であれだけ嫌なことがあったのに、ママと話していると全然惨めな気持ちがしない。だから私は明日からも平気で学校に通える。私もいつかこんな母親になれるんだろうか。無理かな……
それから。
九狼君とは当たり障りのない付き合いが続いている。相変わらず躊躇なく手を繋いでくれるのは嬉しくないはずがない。
もうすぐ夏休みだというのに私へのイジメは相変わらずだが。
そんなある木曜日の放課後。私はいつもように九狼君を校門で待っていた。程なくして、いつになく真剣な顔をした九狼君がやって来た。最近は一人でいることが多いようにも見える。
「お待たせ。」
「うんいいよ。帰ろ。」
「今夜なんだけどさ、うちに来ないか? 夕食でもさ。あ、もちろん帰りは送るから。」
「いきなりだね。いいよ。でもせめて昨日言って欲しかったよ。初めてご両親にお会いするのに。」
「うちには母親しかいないよ。父親は生きてるけど訳ありでな。そのあたりも聞いて欲しくてさ。」
「そうなんだ。私が聞いていいことなら聞かせてもらうね。」
手を繋ぎ駅まで歩く。普段ならここでお別れだけど、今日は同じ方向の電車に乗る。そこそこ混んでいる電車。九狼君は盾になって私を守ろうとしてくれている。意味のないことだけどその気持ちが嬉しい。今までの人生で痴漢にあったことなんかないのに。
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