北条 雅子の舞踏会
私達の仮装はシンデレラと王子。佐朝ったら変な趣味なんだから。まあ私なら灰を被ってても美しいのは当然だけど。
一曲目は『ザ・ルベッツ』の『シュガー・ベイビー・ラブ』
えらく古いわね。誰の選曲かしら? まあいいわ。好きに踊るだけね。
「たまにはこんな曲で踊るのも悪くないだろう?」
「ええ、そうね。」
佐朝が吹奏楽部にリクエストしたのね。
あら、城のやつ。何を入口でうろうろしてるのかしら? ははぁブス香が来ないのね。あいつ衣装なんて用意してるのかしら? それより城のやつ、酷い格好ね。ツッパリってやつよね。百年前のセンスだわ。馬鹿なやつ……
二曲目は『ジョニー・ビー・グッド』
普通に『チャック・ベリー』のバージョンだわ。今日の佐朝はどうしたのかしら? えらく古臭い曲ばかり。
「どうだ? 運動不足の解消にはちょうどいい曲だろう?」
「ええ、楽しいわ。」
こんな風に頭を使わずに踊るのも悪くないわね。それに佐朝は腰を振るのだけは得意だものね。ふふ。
ん? あれは……ブス香……
生意気なドレスを着てるわね。紫のベルベット? まだ昼なのにイブニングドレスとはね。そこまでして注目を集めたいのかしら? はぁやだやだ。
三曲目は『ムーンリバー』
へぇ『フランク・シナトラ』のバージョンなのね。珍しい。
ブス香……城と二人でドタバタと無様に踊ってる。せっかくの名曲が台無しじゃない……
なのになぜよ……会場中が二人に注目している。誰も踊ってない……私達しか……
曲が終わっても会場は静まり返ったまま……
壁際に向かって一人歩くブス香に全員が注目している。佐朝まで……
靴を脱ぐ、ただそれだけの事になぜ……
ブス香が城の元へ戻るのを待っていたかのように四曲目『ワン・オクロック・ジャンプ』が流れ始めた……今日の選曲どうなってるのよ……
ちっ……何よあのステップ……ド下手じゃない……基本的な動きもできないっての? でも……なぜあんなに……あんなにも……楽しそうに……
くそ……ブス香のくせに……
他の奴らも他の奴らよ!
私と佐朝がどれだけレベルの高いダンスをしているか分からないの!? これだから平民は! 節穴ばかりかよ!
何よ城のやつ……ダンスの最中にいきなりブス香を抱きしめて……今はチークの時間じゃないってのに……クソが……
会場で踊ってるのは私達だけ……
まるで引き立て役じゃない……どうなってるのよ!
「きゃっ!」
痛っ……何? いきなり佐朝に突き飛ばされた?




