北条 雅子の文化祭
文化祭当日。私は佐朝と二人で校内をあちこち回ることになっている。佐朝が付き合いで顔を出す場所が多いためだ。まったく、面倒なことだわ。
秋子にはブス香が下手をうったらすぐ知らせるように言ったのだが、全然連絡がない。まさか……ね……
「さてと、これでやっと雅子のクラスに行ける。旨い紅茶が飲めるって話だったな?」
「ええ、佐朝のために特別な茶葉を用意してあるわ。楽しみにしておいてね。」
とうとう秋子から連絡はなかった。まさかブス香の奴が……?
現場であるメイド喫茶はうまく回っているようだった。ちらほらと著名人の顔も見える。あのレベルの著名人の舌を満足させ得る紅茶をブス香が用意し、なおかついれた? そんなはずがない……きっと高校の文化祭だからって気を遣ってくれているだけね。私の舌で確かめてくれるわ。
「秋子、紅茶を二杯頼むわね。」
「はいお嬢様、喜んで!」
へえ、秋子って中々いい動きをするじゃない。就職先がなかったら私達の新居のメイドとして雇ってあげようかしら。
「お待たせしました!」
本当に待たせてもらったわ……
カップはマイセン。やっぱり紅茶を飲むにはこれよね。
へぇ、いい色してるじゃない。香りもいいわ。本当にこれをブス香が? まさかね……
秋子が耳打ちしてくる……埼玉の狭山茶? これが国産?
「うん、旨いな。さすが雅子が選んだ茶葉だけあるな。どこの茶葉なんだ?」
「あちこちブレンドしてあるわ。佐朝専用ブレンドよ?」
「ふっ、そうか。ありがとな。」
誰がいれたのか知らないけど、まあまあやるじゃない。さ、もうすぐ仮装ダンスの時間ね。準備準備と。
ん? 電話が鳴ってる、秋子ね。
「どうしたの?」
『北条さん! ブス香が! 売上を20万円も寄越せって! 来てくださいよ!」
はあ? ブス香が? ふん、たかが20程度の金が欲しいの? 貧乏人は卑しいわね。
「分かったわ。待ってなさい。」
まったく……おちおち着替えもできないじゃない……
いた。ブス香の手にはよれよれの札が握られている。あぁやだやだ……意地汚いわねぇ……
「たった20万円で意地汚い真似をするのね? そんなにお金が欲しいの?」
「たった20万円じゃないよ。今回の茶葉を用意するのにどれだけの人が時間を割いたと思ってるの? 訊ねなかった私にも非はあるかも知れないけど、前日に言われて用意できるわけないよね? それを無理に用意したらこんな金額になることぐらい当たり前だよ。」
茶葉? やはりブス香が用意したのか……
「ハッ、しょせん国産じゃん! ダージリンやアッサムじゃあるまいし、20万円もするわけないじゃん!」
おっと、佐朝の前で国産って言ってしまった。まあいいか、佐朝だし。
「その議論に付き合う気はないよ。あの価値が分からない人間とは話したくないから。私はこの20万円があればそれでいい。それとも、力尽くで取り返してみる?」
こ、こいつ……
「生意気な……ブス香のくせに……」
「文句ないと見なすよ。あぁそうそう。来年の文化祭、もしこんな事をするのなら私は当日休むだけだから。」
クソっ! 北条家の私が公衆の面前で暴力なんて振るえるわけないでしょ! それを分かってて……この卑怯者が……
ふん、たかが20程度の金なんかどうでもいいわ……
でもこの事は忘れないわよ……今に見てなさいよ、ブス香……
さ、今度こそ着替えて……全校生徒に私の踊る姿を見せてあげないとね。




