北条 雅子は手を回す
城はやっぱり入院していた。どんな悲痛な顔をしてるかと思えば……何なのその顔……
ちっとも絶望していない……膝をボロボロにぶち壊されたのよ? それなのになぜ!?
「お2人とも。ここは病院です。お見舞いに来たのでないならお帰りください。」
ちっ、ブス香がいるのか。何を偉そうに。
こんな奴と同じ空間にいるなんて耐えられない。さっさと帰ろう。今夜は佐朝と高級イタリアンの予定だし。
あれから、城は順調に回復しているそうだ。信じられないことに、あのスーパードクター西条が執刀したからだと。城のような貧乏人にそんなコネがあるはずがない。まさかブス香が? ふふ、そんなはずがないわ。北条家や水本グループの誘いにも耳を貸さないドクター西条だもの。きっと偶然ね。ああ……忌々しい……
幸い佐朝も城の態度にムカついているようで、私の作戦に賛同してくれた。ブス香も城も、地獄を見せてやるわ……
いや、ブス香には天国かも。一生味わうことのないはずの経験をさせてあげるんだから。せいぜい楽しんでもらおうかしら。
なのに……
そんな……大の男が五人もいて、たった一人の女も手籠にできないの? どれだけ無能なのよ! 邪魔が入った? ブス香の父親? それでもたった一人じゃない! ほんと、平民って無能なのね。役立たずが。
くっ……こうなったら……
「御前。話があるわ。ちょっと顔かしてくれない?」
こんな奴に直接話しかけるなんて……虫唾が走るわ……
「私はないよ。じゃあ帰るから。」
あ? ブス香の分際で……何タメ口きいてんの!? 殺してやろうか!
「顔をかせって私が言ってんの。この私が。ドブスは素直に付いて来ればいいのよ。」
「話があるならここでして。3分だけ待ってあげる。」
このクソドブスがぁ! 何様のつもりだ!?
「ふん……調子に乗って……忠告よ。佐朝の家と北条家に逆らってこの国で生きていけると思わないことね。」
そんなことも知らないのかしら? これだから平民は。
「もう少し具体的に言って。何をすることがあなたや水本先輩に逆らうことになるの? 私はこれ以上何を耐え忍べばいいの?」
「ドブスのくせに……気に入らないのよ! あんたみたいなね! ドブスは背中を丸めて下を向いて世間に申し訳なさそうな顔して卑屈に生きていくべきなのよ! それを! いつも自分は別格って顔して! 調子に乗りすぎなのよ!」
おっと。ついムキになってしまったかな。私としたことが。うっかりね。
「私が調子に乗ってる? あなたからはそう見えてるんだ。あなたもこの顔で生きてみたら? 絶望しかないと思うよ。」
「ドブスのくせに……あんたみたいな顔だったら自殺するに決まってるじゃない! よく生きていられるわね!」
本当よね。こいつなんで生きてるのかしら? 私ならとっくに自殺してるわ。意地汚いのも平民ってことなのかしら?
「当たり前じゃない。もうその段階はとっくに過ぎてるよ。あなたはいいよね。美しい顔に生まれて。羨ましいよ。でもあなたみたいな人にはなりたくないけど。」
こっ、このクソドブスがぁ……私みたいになりたくない? どれだけ調子に乗ってるのよ!
「……っ、2学期……無事で学校に通えると思わないことね! このドブス!」
ふう……ついムキになってしまったわ……あんなドブスの平民ごときに……
夏休み、何かしてやろうとも思うけど、せっかくの夏休みをあんなド腐れブツブツブス香なんかのために費やすなんて冗談じゃない。二学期まで猶予をあげるとしようかしら。私は寛大だからね。せいぜい毎日勉強でもしてればいいのよ。将来のない平民は勉強以外で身を立てることなんかできないものね。ふふふ……




