北条 雅子と水本 佐朝
クラスの女どもが騒ついている。城とブス香が付き合い始めたからだ。このことが私の差し金であることを知る者は少ない。と言うより私と城しか知らない。
私の下僕にすら伝えてない。口の軽いこいつらに言ったらすぐバラすだろうからな。 まあ佐朝には近いうちに言うだろうけど。
私が予想もしてなかった副産物としては、ブス香へのイジメが酷くなったことぐらいだろうか。私は何も指示などしていないのに。城と付き合い始めたことに醜く嫉妬しているのね。どうせこいつら程度では城と付き合うことなどできないだろうに。無駄なことを。
「ねえ北条さん、何か知ってる?」
「何の話?」
「九狼君のこと。なんでブス香なんかと付き合い始めたのかな……」
「弁田君も何も知らないみたいだし……」
「実はブス香に脅されているとか?」
「何か弱みでも握られてるってこともあるかも!?」
「城って案外ブス専だったのかもよ? 今まで誰とも付き合ってないんだし。」
「九狼君がブス専……」
「そんな……九狼君が……」
「じゃあ私達って無理じゃん!」
「どうにか九狼君の目を覚まして……」
ププッ……こいつらも馬鹿ばっかりね。やはり黙ってて正解だったわ。あー面白い。一ヶ月もすれば結果が出ることだし、そしたら教えてやろう。せいぜい私の深慮遠謀に驚いてもらおうかしら。
ブス香の表情に変化はない。無理しちゃって。本当は天にも登る気持ちなんでしょ?
どうせ今だけなんだから全力で楽しんでおくべきね。束の間の天国をね。
放課後、今日は佐朝とディナー。フレンチの名店ラグゼ・ラ・メールに行く予定だ。もう少し時間があるし、たまには庶民の暮らしを見てみようということになった。
下々の暮らしを見物するのも悪くないわよね。
ふふ、あいつらったらこんな所で。
庶民らしいわ。
「あら? 城じゃない。珍しい所で会うわね。」
「おお城、お袋さんは元気か?」
「雅子……俺だってたまにはドナぐらい来るさ。佐朝先輩、ご心配どうも。お袋は元気ですよ。」
人前では佐朝を兄と呼べない城。血筋って残酷ね。
「私達これからラグゼ・ラ・メールに行くの。城はドナ? まあ人それぞれよね。」
「邪魔しちゃ悪いな。雅子、行くぞ。」
マックドナルドバーガーか。成り上がりの下品な外資系ジャンクフード。ブス香に相応しい店ね。
おかしいわね?
ラグゼ・ラ・メールともあろう店が……味が落ちてるわ……
シェフが替わった所為かしら?