SS:いいなインド
その国毎に香りがあるのだろうか。空から降り立つ時に何時も感じる。大地を包むものだ。空港を出、外で大きく息を吸い込むと、鼻孔がそれをサーチする。花の香り、水の香り、無機質な都会の匂い。安全と不穏。それぞれに違う。
そしてここは、スパイシーな香り。母なるインダス川が流れるこの国。
人、車、牛、ゴミ(?)が溢れかえるジャイプールの町から一歩、このホテルに入るとそこは別世界。
町中にあるのに、外の喧噪は一切感じない。マハラジャの宮殿を利用した最高級ホテル、そこで眺望が、一番良い部屋。テラスに面した窓からは、タージ・マハルが、緑と共に目の前に広がり見えている。
「やだ、貴方ったら随分古いフォト置いてるのね、静香だったわ、後でかけてあげて」
シャワーを浴びている時に着信があったらしい、サイドテーブルの上で震ていたというそれ。着信が切れてから退屈凌ぎに見たらしい。
ここにある物は私物、仕事用に使うものとは別。何方も見られたからと言って、何ら問題はない。
妻には隠す事もない。隠している事もない。
「ああ。最初に撮ったフォト、だ、手に届かぬ華だった」
「映画の撮影中かしら、懐かしいわ」
マリリンモンローは、CHANELNO.5 眠る時はそれだけ。と言っている。
妻の愛用は、オードリー・ヘップバーンが愛したフレグランス“ランテルディ”“禁断”という名前の香り。甘やかな気高いそれは、高貴溢れる女優の彼女に相応しい。
「ふふ、今の私は?」
「直ぐ側で咲いている」
「貴方は花守人なの?」
「そう、君だけの、ね」
携帯を取りスクロール、画面を開いた。取り敢えず……、サイレンス。時を邪魔されたくない。
娘には後で連絡すればいい。今は妻との時間。
作者:秋の桜子氏
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