SS:『青少年の未来を砕こうとする諸悪の根源の膝を砕くマン』
45話から46話にかけてのifストーリーです。
時は深夜。
地上60階の超高層ビル。299mの高さを誇る、水本グループの拠点であるミナモトタワー。
その最上階、全フロアをぶち抜いた会長室では、慌ただしく書類やデータの整理をしている社員たち。
そして、SPに囲まれた黒髪オールバックの男があたり構わず怒鳴り散らしていた。
「まだ、証拠は消せないのか!」
「申し訳ありません、脱税や人身売買、違法薬物や兵器の取引など、グループが行っていた悪事は多岐に渡りすぎて、完全に隠滅するには時間が……」
「役立たずどもが!」
ドガッ! と机を蹴り、怒りをあらわにする男。
「くそっ、一体どこから情報が漏れたんだ……? 我々は政財界を完全に牛耳る水本グループ。歯向かうような奴など存在しないはずなのに!」
「ふっふっふっ、だいぶ荒れているようだな」
『!?』
全ての者が声の方を向く。
そこにいたのはメキシコ人レスラー『ミル・マスカラス』みたいな覆面をかぶって、白い空手着を身につけた男。
「貴様が水本 溜知だな?」
「そ……、そうだ! なんだ、お前は!」
「私は『青少年の未来を砕こうとする諸悪の根源の膝を砕くマン』!」
「なに……? もしかして、貴様が情報を漏洩したのか!?」
「なんの事だ? 私は貴様の膝をブチ折りに来ただけだが」
「曲者だ! 出会え、出会えーっ!」
水本を名乗る男の号令に応え、ジリジリと(前略)砕くマンとの距離を詰めるSPと社員たち。
「あ! あんなところに、全盛期の雛形あきこが」
『何っ!?』
全員が一斉に(前略)砕くマンの指す方を向く。
そして水本が視線を戻すと、全ての社員とSPが膝を抱えてうずくまっていた。
『ううううう……』
「何だと、あの一瞬で!?」
「貴様ら全員、巨乳好きすぎ」
そう言って、水本に迫る(前略)砕くマン。
「あとは、貴様だけだ」
「う……、うわあーーーっ!!」
(前略)砕くマンはあわあわと逃げ惑う水本の膝に、鋭い蹴りを叩き込む。水本の脚があさっての方向にグニャリと曲がる。
「ぎゃあああああーーーーーっ!」
間髪入れず、反対側の膝にもナタのようなキックをお見舞いし、崩れ落ちる水本の顔面に強烈な前蹴りをめり込ませた。
「うが、あ、あ、あ……」
「貴様が散らしてきた、若い命の重みを思いしれ!」
(前略)砕くマンは有無を言わさず、仰向けの腹を踏みつける。
「ごぶうううーーーっ!」
噴水のように豪快に嘔吐する水本。
そして、(前略)砕くマンは自らの足を水本の口に突っ込む。ボリボリボリと歯が全部へし折れる音が響く。
さらに、ボキッ! バコッ! グシャッ! と、水本の顔面をボコ蹴りにする。
「ごめんなさいは?」
「おえんあはい」
「ちゃんと言え」
「ほへんなひゃい」
「しっかり喋れって言ってるだろ」
(前略)砕くマンはまたゴリッ! ドゴッ! メキッ! と、ボコボコに蹴る。
「貴様、本当にあの悪のカリスマ『水本 溜知』か? 本編でもそうだがあっさりしすぎだろ」
またつまらぬものを蹴ってしまったと言わんばかりに、(前略)砕くマンは吐き捨てる。
その時。
『烈風拳ッ!』
「!?」
ゴオウッ!
タワーの最上階、会長室のフロアに衝撃波が走る。
(前略)砕くマンはとっさに風圧をかわすも、水本と社員たちは紙くずのように吹き飛ぶ。
「お前か? 儂の名を呼ぶのは」
声のする方を向くと、合気道の胴着をまとった一人の男。
「貴様は……?」
「儂こそが水本グループが総帥、水本 溜知。そこに転がっておるのは影武者よ」
「影武者……だと?」
*
(前略)砕くマンは男と、先ほど倒した水本の顔を見比べる。同じ顔と髪型と背格好。
だが、目の前の男が放つ気迫は明らかに違う。
赤い袴の男は柔和な笑みを湛えながら、荘厳な立ち姿で佇んでいる。
純粋な極悪人は聖者にも似る、といったところか。
「どうりで手応えが無さすぎると思ったが、貴様が本物の水本 溜知か。だったら、遠慮なく砕かせてもらうぞ!」
(前略)砕くマンは、ルチャリブレのように翔ぶようなローキックを放つ。しかし。
ウヒュン!
「何っ!?」
突如、視界が逆さまになる(前略)砕くマン。垂直に落ちる頭部に水本の鋭い右回し蹴りが迫る。
「くっ!」
左腕でガードし直撃を防ぐが、ミシッときしむ骨の音。
受け身を取って地面に仰向けに倒れるが、そこへ水本の肘が降ってくる。
瞬時に身をひねってかわし、素早く体勢を立て直した。
「合気道……。いや、古武術か?」
「ほう? あれをしのぐか……。なかなかの手練れと見る。名は何と」
「『青少年の未来を砕こうとする諸悪の根源の膝を砕くマン』」
「長いな……。まるでなろう小説のタイトルのようだ。だが、腕は立つ。どうだ、契約金10億円で儂のものにならないか」
すると、イヤンイヤンと覆面をつけているくせに、顔とおしりの穴を隠してモジモジする(前略)砕くマン。
「そういう意味ではない。儂の部下になれという事だ」
「私は悪の手先にはならん!」
(前略)砕くマンは足元にいた水本(偽)を水本(本物)に向けて蹴り飛ばす。
水本(偽)に視界を塞がれる水本(本物)。
そのスキに背後に回った(前略)砕くマンは、水本(本物)の膝の裏に蹴りを放つ。
しかし!
『レイジングストームッ!!』
ゴオウッ!!
水本が両手を地面に叩きつけると、巻き上がるエネルギー波の大旋風!
ドガアッ!!
「ぐわあああああっ!」
全身をハンマーで撃ち抜かれたような衝撃を食らい、空中へ跳ね上げられた(前略)砕くマンは、地面に強かに打ち付けられ、そのまま冷たい床に倒れ伏した。
「ぐははははっ! なかなかやるようだったが、常に臓器を新品に交換しているフレッシュな儂にかなう訳が無かろう!」
二度と立ち上がる事がないであろうマスクマンに、嘲りの笑いを上げる水本 溜知。
しかし。
「ぐっ……!」
(前略)砕くマンは歯を食いしばり、懸命に身を起こそうとする。
「ほう? あれを食らって立ち上がろうとするとはな。よほど儂に私怨があると見える」
「いや、貴様に個人的な恨みなどは無いさ……。だが、貴様に踏みにじられた者たちの無念を晴らすため、貴様らに幸せを奪われそうな『ドブイケ』の主人公カップルのため、そして……」
(前略)砕くマンは、雄叫びを上げて立ち上がる!
「美人のお妾さんを何人も囲った、金満チーレム野郎は絶対に許しちゃおけねえんだよーっ!」
個人的な恨みだッ!!
「うおおおおおぉぉぉぉぉーーーっ!」
(前略)砕くマンは最後の力を振り絞り、水本に渾身のローキックを放つ。
だが水本は余裕を持って、下段受けからの当て身投げの体勢に入る。
ドゴォ!
「ぐうっ!?」
しかし、ローキックは実はフェイント!
(前略)砕くマンは、下段に気を置くあまりスキを見せた水本の顔面に、強烈な頭突きをお見舞いする。
「おらおらおらおらおらーっ!!」
バキドガッ、ドガバキ、ドゴゴゴゴ、ガガガガガガガーッ!
さらに(前略)砕くマンは拳もハイキックも交えた乱舞技で、壁全面の窓ガラスに水本を追い込んでハメ殺す!
ガシャーンッ!
「ぐわあああああーーーっ!」
砕け散った窓ガラスもろとも、地上299mの高さから放り出された水本は、かろうじて窓の縁に片手でぶらさがる。
「お……、お前は『(前略)膝を砕くマン』じゃなかったのか……?」
「私は『青少年の未来を砕こうとする諸悪の根源の全身の骨と野望と曲がった根性を砕くマン』に改名したのさ……。2分前に!」
「ぐっ……、卑怯だぞ……」
「ふっ、悪の限りを尽くした貴様からそんな言葉が出るとはな」
「……」
「『とどめ』と『助け』、どっちが欲しい?」
(前略)砕くマンは死に瀕した水本を見下ろして、手を差しのべようとする。
しかし、水本は敵の情けは受けんとばかりに自ら手を離し、笑いながら奈落の闇へ落ちて行く。
それは、悪のカリスマにふさわしい堂々たる死に様。
水本が地面に激突しようとした瞬間。
ドカーンッ!!
たまたまやって来たダンプカーに跳ねられて、諸悪の根源はこの世界からその姿を消した。
「……どうやら異世界転生したようだな。悪運の強いやつだ」
ウーッ、ウーッ、ウーッとサイレンの音。
水本を逮捕するべく、パトカーと警察官がミナモトタワーを取り囲む。
「えーっと、とりあえずこいつを替え玉にしとくか」
(前略)砕くマンは水本(偽)の服を全部脱がし、ロープで亀甲縛りにしたあと、頭に大きなロウソクを設置する。
「ようやく夜が明けたな……」
そう言って、自身は何事もなかったかのように、白み始めた東の空へハングライダーで窓から飛び立つ。
こうして、『青少年の未来を砕こうとする諸悪の根源の全身の骨と野望と曲がった根性を砕くマン』は、風のように去っていった。
*
早朝、ここは御前さんのお宅。前日から静香ちゃんの彼氏の九狼 城くんがお泊まりをしている。
「静香、起きてるわね? 来なさい。面白いニュースをやってるわよ」
「あ、ママおはよう。面白いニュース?」
「おはようございます!」
「おはよー」
「おはよう。まあ見れば分かるわ」
静香ちゃんと弟の結牙くん、そして城くんはリビングのテレビを見る。
すると。
『緊急速報です! 水本グループの水本 溜知会長が今朝、警視庁によって逮捕されました! 容疑は公表されておりませんが、財界を揺るがす大捕物です! なお、昼には容疑が発表される見込みだそうです! 現場からは以上です!』
3人は思わず画面に目を見張る。
それもそのはず、テレビに映る水本 溜知の姿は顔面ベコベコで、なぜか全身真っ裸でロウソクを頭に灯し、体には縄を巻き付けている。
なんで裸!?
なんでロウソク!?
なんで亀甲縛り!?
「ママ、一体何が起こったの?」
おしまい
作者:マックロウXK氏
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