SS:バスケ少年の膝を砕こうとする男の膝を砕くマン
10話の後半部分のifストーリーです!
九狼 城は浮かれていた。自分でも不思議だがあんな醜い女の子に恋をしてしまうなんて。
もしかしたら自分は最初からあんな顔が趣味だったのか? そうだとするなら今まで何人もの女の子に好かれて告白されたのに少しも付き合いたくならなかったのも納得がいく……などと考えながら。
おそらく九狼 城はいわゆるブス専と呼ばれる人種とは違うようだ。静香のことを醜いと認識した上で何の嫌悪感もなく好きになっている。それがどういった心理状態なのか、きっと本人にも分からないだろう。
自転車は軽快に進む。ペダルをこぐ足にも力が漲っている。今、彼は紛れもなく幸せだと言えるだろう。
その時だった。
自転車の前輪に突如横から細い棒、おそらく鉄パイプが突き刺さった。
なす術なく九狼は自転車ごと前転、背中から道路に叩きつけられた。下手をすれば頭を強打しかねない体勢だったが、そうならなかったのは彼の運動神経のためだろうか。
「いって……くそ……何が……」
背中を強打し呼吸ができないようだ。かなりの痛みだろう。
犯人らしき者は一人のようだ。コンビニの傘立てから自分の傘を抜くような気やすさで倒れた自転車の前輪から鉄パイプを抜き、九狼の右膝へと振り下ろそうとした、その時。
『待てい!』
突然、LEDライトの懐中電灯が、男の顔を照らしつける。
あまりの眩しさに犯人は目が開けられず、ライトを持った人物は容赦なく犯人の顔を照らし続けながら近寄って来た。
「貴様! 今、この少年の膝を砕こうとしていただろう!」
「あぁん? それがどうした。おめえこそ、何者だ!」
「私は、『バスケ少年の膝を砕こうとする男の膝を砕くマン』!」
「なに……?」
「何が目的かは知らんが、その少年の膝を砕くのはやめろ!」
「はっ、しゃらくせえ! じゃあ、先にてめえの膝を砕いてやるよ!」
男は(前略)砕くマンに向かって鉄パイプを振り下ろす。だが(前略)砕くマンは身を翻してそれを避けると。
「ローキーック!」
ドバキッ!
「ギャアアアアアーーーーーッ!」
鉄パイプ男は右膝に叩き下ろすような蹴りを入れられ、半月板が損傷する。ぐらつく男の左足に体重が集中したところを。
「下段キーック!」
ボキキーッ!
「うぎゃあああああーーーーーっ!」
さらに左足の膝関節を砕かれ、男は地に倒れ伏す。
「とどめのサッカーキーック!!」
ドボオッ!
鉄パイプ男は脇腹を強烈に蹴り飛ばされると、車道まで吹き飛び、ダンプカーにどかーんと跳ねられてどこかへ飛んで行った。
あぜんとした城は、思わず危害を加えられそうになった相手を気遣う。
「え……、あいつは大丈夫なんですか」
「心配いらない、『峰蹴り』だ」
「めっちゃ、ダンプに跳ねられてましたけど」
「まあ、ぶつかる前に受け身を取ってたら大丈夫だろう。あの程度で死ぬようなら、それまでの男だったという事だし、今は異世界転生がトレンドだし」
「はあ……」
「そんなことより、君ケガは大丈夫か?」
「え、はい、なんとか」
城は身体をはたいて立ち上がる。大きなケガは無さそうだ。
「助けてくれて、ありがとうございました」
「いや、城くんが無事で何よりだ」
「え、何で俺の名前を?」
「私は、『バスケ少年の膝を砕こうとする男の膝を砕くマン』! 君を助けに未来から来た男だ」
暗がりの中を良く見ると(前略)砕くマンは、メキシコ人レスラー『ミル・マスカラス』みたいな覆面をかぶって、空手着を身につけており、いまいち未来から来た感がない。
「(前略)砕くマンさんは、いつの未来から来たんですか? 22世紀?」
「えーっと、こっちでは5月21日だから、3日後かな?」
「近っ! なんで俺を助けてくれたんですか?」
すると、(前略)砕くマンはふっふっふっと笑います。
「私は『恋愛小説の主人公を応援するマン』でもある。君の彼女のドブスなその……」
「静香の事ですか? 俺が言うならまだしも他人からドブスと言われたら腹が立ちますね」
「ハラショー!」
「!?」
「いやあ、君ならそう言うと思ったよ。いいねー、甘酸っぱくて眩しいよ。私はアラフォーのおっさんだが、学生の時分に『パナソニック』でラブラブな事をやった経験がなくてね」
「? 『プラトニック』の事ですか?」
「そう、その『プランクトンのお肉』な恋愛に憧れてて、君たちみたいな頑張る主人公たちの応援をしているのさ」
そう言って、(前略)砕くマンはおもむろに銀色のアタッシュケースを取り出します。
「君にこれを受け取ってもらいたい」
「これは?」
「中に1億円入っている」
ブッと吹き出す城。だが(前略)砕くマンはマスクをしていて分かりにくいが真剣な表情で。
「九狼 城くん、君は複雑な家庭の事情を抱えているね?」
「どうして、その事を……」
「そして、私立学校の授業料にも困窮しているはず。だから、これを君に受け取って欲しい」
「そんな……、こんな大金受け取れません」
「どうしてだ? これだけあれば、君のお母さんも楽にしてあげれるし、静香ちゃんも安心するはずだろ?」
「……はっ!? もしや、あなたは俺の身体が目当てだとか?」
「いや、そんな、ことは、ナイヨ?」
「そんなあからさまに動揺されても」
覆面をしているのに、なぜか恥ずかしそうに顔を隠す(前略)砕くマンに不信な目を向ける城。
「ええい、これ以上ガタガタ言うなら、君の膝をへし折ってでも受け取ってもらうぞ!」
「いや、本末転倒!」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……、すまない。少々取り乱してしまったようだ」
「取り乱し過ぎですよ」
「心配いらない、これは犯罪とかとは関係ないキレイなお金だ。それにタダでもらうのが嫌なら、君が実業団そしてNBAに入ってからでも返してくれれば良いから」
「そういうことなら……、はい。ありがとうございます」
「よし、これにて一件落着だな。じゃあ一応アドレスを渡しておくから、何かあったら連絡してくれたまえ。私は他に行くところがあるんで、ここで失礼するよ」
「他って、どこですか?」
「えっと、水本なんとかというおっさんと、そのガキ。あと北条なんとかというクソ女の膝をへし折って来る」
「そうですか、頑張ってください」
「ああ、君も頑張って立派なメジャーリーガーになってくれよ」
「それ、野球ですから」
「それじゃ!」
こうして、『バスケ少年の膝を砕こうとする男の膝を砕くマン』は風のように去っていった。
城は、(前略)砕くマンからもらったアドレスを見る。
https://mypage.syosetu.com/1097250/
「これって、なろうのマイページだよな?」
作者:マックロウXK氏