元ドブスは泊まる
ちなみに城君は刺されてから1ヶ月も経たずに退院となった。でも、さすがに予定していた試合には出られず私達のお泊まりデートも延期となった。仕方ないよね。城君の体調が第一なんだから。
今は春休み。城君の体はすっかり元気を取り戻した。試合にだって出場している。
そして今日。映画の後は2人で食事。私の希望で駅前のドナ。それからカラオケに行く予定だ。
ドナのメニューは相変わらず意味不明だ。アタリマエダのクラッカー? アットオドロク・タメゴローバーガー?
そんなことよりカラオケは楽しい。私もだいぶ最近の歌が歌えるようになってきたことだし。
「静香……それいつの曲なんだ……」
「大正の頃かな。面白い歌だよね。」
イキテル・ソング。これを聴くとお米を食べたくなるんだよね。
「それより城君。私、いい物を持ってるんだよ。」
「ん? 何?」
「これ……」
ママから貰ったチケット。ちょっとはしたないけど、城君を待たせすぎてしまったから……
「静香……いいのかよ……」
「う、うん……」
肘川グランドインターコンチネンタルホテルのスイート。
朝、目を覚ますと隣には城君がいた。
最高の夜だったと思う。城君は情熱的に私を求めてくれた。一生知らずに過ごすと思っていたことを知ることができた。最初は痛かったけど、心が満たされたあの感覚に比べたら何ほどのこともない。
あぁ、幸せだなぁ……
男性に求められることってこんなにも幸せだったんだ……
ママが時々『あなたも女になれば分かるわ』って言ってたのはこの事なのかな。
「ふあぁ……おはよ……」
「城君、起きたのね。おはよう。コーヒー飲む?」
「飲む……」
ねぼすけさんだなぁ。かわいい。
「はい、お待たせ。」
「おお、ありがと……」
あっ、このコーヒー美味しい。さすがスイートなんだね。
「なあ、改めて思うんだけどさ……」
「うん、何?」
「この部屋って一泊いくらするんだろうな……」
「どうなんだろうね。私も初めてだから分からないよ。あ、朝食も頼んでおいたからもうすぐ来ると思うよ。」
「大丈夫なのか……俺そんな金ないぞ……?」
「そこまで込みだから大丈夫だよ、たぶん。私もないし。」
ティファニーで朝食を、って言うけどスイートで朝食というのもいいな。それに、ここのテレビは大きいからゲームをしたら面白いかも。
のんびりとコーヒーを飲んでいたら朝食が運ばれてきた。美味しそうだ。
朝食後、今からの予定を相談しようと思ったら、いきなりベッドに押し倒されてしまった。こんなにも、こんなにも激しく私を求めてくれる城君……愛しくないはずがない……でも……
「ご、ごめん城君……カ、カーテンを……明かりを……」
「あ、ああ、悪い……あまりにも静香がきれいだから、つい……」
さすがに恥ずかしすぎる。私は顔を伏せたままベッドに潜り込んだ。とても顔を上げられない。どんな顔して城君を見たらいいのか分からないよ……
城君の背中……たくましい。私を守ってくれた傷。豆だらけの手の平、傷だらけの指先。整った顔、柔らかな眼差し。短く刈り上げた爽やかな髪、噛みつきたくなる耳。
私を軽々持ち上げる腕、私を包み込む胸板。
城君の全てが愛おしい。
「静香、静香。大丈夫か?」
「あ……ごめん……寝てた、かな?」
「反応してくれるのは嬉しいが、気を失うほどとはな。心配したぞ。」
恥ずかしいよ。大きな声を出してしまった気もするし……
「シャ、シャワー浴びてくるから!」
「待てよ。俺も行く。」
「ダ、ダメ! 絶対来ないで!」
そんな顔してもダメだよ。一緒にシャワーなんて恥ずかしすぎるんだから。
もう……まさか気を失ってしまうなんて。確かに気持ち良かった覚えはある。はしたない声も出してしまったような……
それから、城君もシャワーを浴びてホテルを出た。シーツを汚してしまったまま出るのは少し気が引けたけど。
今日は夕方まで城君と過ごせる。何をしようかな。




