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元ドブスとその周囲

あれからおよそ半年。もう3月も終わろうとしている。城君が刺されてから色々あったなあ。


あの時、城君のお母さんに連絡がつかなかった理由はお家に水本先輩が押し入って家中めちゃくちゃにされたからだった。行き場所がなくなった水本先輩は父親の愛人宅に軒並み押し入ってお金を要求したそうだ。誰のおかげでこんな生活ができたと思ってるんだ、分かったら全財産を自分に寄越せ、と。

もちろんあっさり通報されて、私を襲った件と合わせて塀の中へと入ってしまった。もちろん北条との婚約も破棄。北条家側から通告があったらしい。



北条は自分で顔を剥がしたためにブツブツだった私より酷い顔になったらしい。朝比奈さんが言うにはそれでも相談次第で治るそうだけど、北条は連絡をするのだろうか。塀の中から出てきた後で。



北条家はワシントン条約に違反していることが明るみに出て莫大な罰金を科せられた。保護動物の密輸に転売。私の下駄箱や靴に詰められていた何かの糞。あれが証拠となったそうだと菅原先生が教えてくれた。おまけに脱税までしていたらしくて追徴金もすごいらしい。千年続いた北条家の土地屋敷、全てを手放す勢いらしい。



北条の取り巻き、阿波たち4人はあれから学校を辞めた。地元の公立高校に編入したらしい。聞くところに寄ると、そこでも成績は最下位クラスだそうだ。



2年1組のクラスメイトは、あれからずっと私を無視してくれている。クラスマッチや運動会、合唱など私をいないものとして扱ってくれるのでみんなはギクシャクとしているが、私は非常に快適に過ごすことができた。靴をロッカーに隠さなくてもいいし、机に落書きもされない。教科書を切られることもないし落書きされてもない。城君と手を繋いで歩いていても誰からも陰口を叩かれることもない。素晴らしい日々だ。痴漢にも遭わなくなったし、盗撮も多分されてない。


ただ困ったことは他校の男の子からラブレターを貰ったり告白をされたりすることだ。彼氏がいるからと断っても後を絶たない。その中で知ったことだけど告白を断るのは心に良くない。私には関係ないことだと切り捨てることができないのだ。きっとかなりの勇気を振り絞ってくれたはずだ。それを思うとどこか居た堪れない気持ちになる。だからと言って私の心が揺れることはない。そこだけは全員にハッキリと伝えている。私には城君しかいない。




そして今日。結牙の初主演映画が公開された。私も後姿だけのシーンで何回か呼ばれたな。


今、私は城君と映画館にいる。周囲はしん、と静まり返っている。結牙の演技、いやとても演技とは思えない芝居に誰も声を発することができないのだ。


全シーンを一発撮りしたとの前評判だったけど結牙もそう言ってたからそうなんだろう。スクリーンから伝わってくる緊張感はきっとそのせいなのかも知れない。


そしてクライマックス。恋人の仇を討つために結牙演じるマサトが巨悪の棲家『八竜長城(ぱーろんちょうじょう)ビル』に乗り込み、幾多の罠を越えガードマンを倒し、遂に仇である引田(ひきた) 頃佐(ころすけ)の眼前に立ちはだかった。車椅子の中年、引田は慌てることなくマサトを諭す……と見せかけて車椅子を急発進させた。まるでレーシングマシンのような加速だ。

さほど広くない社長室といった雰囲気の室内を縦横無尽に駆け回る車椅子。まるで兵器だ。必死に避けるマサト。遂に相手は銃まで撃ち始めた。


そこにどこからともなく長い髪を靡かせながら現れた女。私だ……


「サトミは生きてるわ」


そう言ってマサトに武器、銃を渡し消えていく。あの声、私だ……アフレコで声優さんに声を入れてもらうと聞いていたのに……現場ではとりあえず間に合わせに喋ってと言われたから喋っただけなのに……きっと結牙の仕業だ。


「サトミが!?」


「ふん、隙だらけだ! 轢き殺してくれるわ!」


ああっ、マサト危ない!


「くっ!」


避けながらも銃を撃つマサト。


「銃を撃ったことなどあるまい! どこを狙っておるか! この下手くそが!」


「くっくっく。」


「何がおかしい! 死を悟って気が触れたか! 死ねい! 女も後から送ってやるわ!」


マサトに車椅子で突撃する引田。避けもしないマサト。


「俺が撃ったのはさ、アンタのご大層なおもちゃの……ブレーキさ。」


「何を馬鹿なこと、何っ!? ぐくっ、止まらん!」


「飛べよ。あの世で部下が待ってるぜ?」


「くっそぉぉぉぉーーーー!」


高層ビルの最上階から飛び出した引田。終わりだ。


「終わった……本当に生きているのか……サトミ……」


壊れた窓から銃を投げ捨て、カメラに背を向けて部屋を出て行く結牙。私の弟ながらすごくカッコいい。これならもう誰も結牙を消えた子役だなんて言えない、きっと。あの子は自力で未来を掴んだんだ。よかった……



エンディング、スタッフロールが流れる。しかし誰も立ち上がらない。この時間が終わってしまうのが惜しいんだ。まだ終わって欲しくない、もっと見たい。そんな気持ちが伝わってくる。よかったね、結牙。



「弟君、すごかったな。」


「うん、びっくりしたよ。いつの間にあんなにしっかりしたんだろう。すごいね。」


「静香だってすごいぜ。最後のあのシーン、かなりカッコよかったぜ? スタッフロールにもわざわざ『?』って書かれてたしな。」


私の役名はなく、スタッフロールには『謎の女』と書かれており役者の名前の欄には『?』としか書かれてなかった。私の希望だからそれでいいんだけど。でも声を使ったのはダメだな。帰ったら結牙を殴ろう。顔はダメかな。お腹を3回殴ろう。まったく……

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普段はこんなのを書いてます。
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― 新着の感想 ―
[良い点] ええっ! あの糞が伏線! ビックリです。 〉お腹を3回殴ろう 結構エグい! 結牙君逃げて~!
[一言] みんな自業自得だなあw そして結牙カッコイイ!! ファイナルファイトのラスボス戦を思い出しましたよ!w
[一言] ま、まさかの八竜長城www ここで女人禁制塾ネタを出すか!! いやぁ、結牙くんよかったですね! 是非とも誰かのイラストでポスターを見たい!! そしてまさかのフンの正体!! さすがにそれは…
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