パパの奮闘
城君が泊まってくれた翌朝。目が覚めると、なぜか結牙と城君が抱き合って眠っていた。私が真ん中だったはずなのに。
「うぅん……しずかぁ……」
「ねぇさぁん……」
「ん……?」
「あ……?」
「弟君? 俺に抱きついて何やってんだ?」
「狼野郎こそなんで僕に抱きついてんだよ!」
仲良いなあ。城君は私に抱きついてくれれば良かったのに。
「おはよう。よく眠れた?」
「おお静香おはよう。よく眠れたぜ。」
「おはよう姉さん。最悪の目覚めだよ……姉さんかと思ったのに……」
「城君は今日ひま?」
「おお、ヒマだぜ。文化祭の翌日だから部活もないしな。」
「僕は撮影があるから……エキストラだけど……」
それは知ってる。だから聞かなかったんだよ。
「静香、起きてるわね? 来なさい。面白いニュースをやってるわよ。」
「あ、ママおはよう。面白いニュース?」
ママが私を起こしにくるなんて珍しいな。
「おはようございます!」
「おはよー。」
「おはよう。まあ見れば分かるわ。」
私の部屋にはテレビがないからな。居間に行かないと。
『緊急速報です! 水本グループの水本 溜知会長が今朝、警視庁によって逮捕されました! 容疑は公表されておりませんが、財界を揺るがす大捕物です! なお、昼には容疑が発表される見込みだそうです! 現場からは以上です!』
え……? こ、これって……
「ママ、一体何が起こったの?」
「パパよ。パパがやってくれたの。水本 溜知が弄び散らした若い命の仇をとったのよ。おまけに脱税や愛人スキャンダルまで。本人は一生塀の中、もう水本グループは崩壊するわ。後は平華コーポレーションが跡形もなく吸収して終わりだわ。」
東の水本グループ、西の平華コーポレーション……私でも知ってる大企業だ。そんな大きい話になってたんだ……
「もしかしてママが平華コーポレーションを動かしたの?」
「違うわよ。ちょっと美味しい話があるって平会長に教えてあげただけよ。ああ、ついでに城君の膝を折った実行犯も捕まったわよ。こっちはわざわざ警視総監が陣頭指揮をとったそうよ。あの人は何考えてるのかしらね?」
すごい……話が雲の上だ。確かにママは城君が膝を折られた時、警察にしっかり話したと言ってた。でもそれが警視総監だったなんて。
「これから余罪がゴロゴロ出てくるでしょうし、城君はもう安全ね。」
「は、はい! 何から何までありがとうございます! こんなにしていただいて……俺……」
あ、城君が泣いてる。そんな姿を見ると私まで泣きたくなってしまう。よかった、よかったね城君。
「ふん、泣き虫め。じゃあ僕行くから。」
「ああ結牙、あなたにも朗報よ。例の映画、主演があなたに決まるわ。水本グループがこの様だから主演に決まっていた俳優まで連座をくらったわよ?」
「えっ!? 僕が!? 武丸さんが連座ってどういうこと!?」
武丸? 人気アイドル武丸 丈一のことかな。
「武丸の事務所、ライトニングゲンジプロモーションは水本グループがマネーロンダリングに利用していたみたいよ? 宣伝広告費ジャブジャブってところかしら。おまけに個人的なスキャンダルまで出たそうよ。」
宣伝広告費がジャブジャブ? どういう意味だろう……
「僕が……主演……ついに、ついに……」
「すぐに安達から連絡が来るでしょうよ。あなたの実力なら当然だわ。でもね、勝負はこれからなのよ? 世間は結牙を一度は決まった武丸の代役、後任と見なすわ。だから、実力で黙らせてみせなさい。分かったわね?」
「うん……ママ、僕頑張るよ……」
結牙まで泣き出してしまった。子役で終わるか俳優として生きていけるかの瀬戸際だったもんね。本当によかった。やっぱり私まで泣きそうだ。
「静香、パパはこれだけのことをやってくれたけど、どうやったか分かるかしら? その結果パパが、いえパパの会社がどうなるか、想像はつく?」
「えっ……? パパの会社は警備、ボディーガードだから……えっ!? もしかして!」
そんな……まさかパパは……
「気づいたかしら? パパがやったことは顧客の情報を洩らしたことに他ならないわ。つまり、パパの会社SSSは……もう、終わりよ。」
ボディーガードが依頼主の情報を洩らす……そのようなボディーガードを雇う者など、会社など、ない……
そんな……パパ……