元ドブスは背景を知る
「おう、帰ったぞ。」
パパだ! いいタイミング。あ、また城君が絨毯に正座してる。膝に良くないんじゃないかな……
「パパおかえり!」
「おかえりなさい、あなた。」
「おかえりー。」
「おっ、おじゃまっ、してまっす! 九狼 城ともうしまっす!」
「おう、オメーが彼氏か。いい時に来たぜ。おもれー話を聞かせてやるよ。しっかしオメーいつの時代の人間だよ。ヨウラン長エリ、首にゃあ数珠かよ。」
「は、はい!」
ママもパパも城君の服装が珍しいんだろうな。こんなにカッコいいんだから興味を示して当然だよね。
「おう、入ってこいや!」
「はっ! 失礼します!」
「え? 朝比奈さん?」
朝比奈さんがなぜうちに? それにその制服って……
「由乃以外は知らねーだろうが、こいつはうちの社員でな。本業はボディーガードだ。彼氏が水本グループに思いっきり狙われてるもんでな。個室に移してガードさせてたってわけだ。」
あっ、だから大部屋から個室に移ってたんだ。
「そうだったんですか。ありがとうございます。朝比奈さんていつも僕のところにいるから変だなとは思ってたんです。」
「なぁに、かわいい男の子は大好物さ。ボスには奥様がいらっしゃるからねぇ。」
「俺より強くなりゃあ抱いてやってもいいんだがな。それより今日の出来事を話してやんな。」
「はっ! 報告いたします!」
すごいな朝比奈さん。パパと話す時とそれ以外が全然違う。
そんな朝比奈さんの報告によると、今回の文化祭を巡る出来事はやはり北条たちのイジメの一環だったそうだ。無視するだけで済むのに、なぜそんな労力を使ってまで。馬鹿だなぁ。
「それから、奥様の計画は成功いたしました!」
「そう。よかったわ。」
ママの計画?
「ママが何かしたの?」
「私はしてないわね。ただ、北条を嫌ってそうな女の子がいたから、これを飲ませたらもう2度と大きい顔されなくて済むってプレゼントをあげただけ。どうやらうまく飲ませたみたいね。」
「まっ、まさか雅子の顔がああなったのは!?」
「で、でもそんなことしたらママが捕まっちゃうんじゃ……」
ママが誰かに毒物を渡したってことだよね……?
「平気よ。あれは細菌兵器みたいなものよ。西条先生が動かない限り検出も立証もできないわ。それに静香、あの時の私を思い出してごらんなさい?」
あの時のママ……
「あっ、お婆さんだった、よね。」
「その通り。私の変装と演技は完璧よ。足がつくことなんかないわ。安心なさい。」
すごい。確かにあの時は声を聴くまで分からなかった。たぶん他の人と話す時は声すら変えてたんだろうな。身長だってだいぶ低くなってたし。すごいなぁママは……あれ?
「じゃ、じゃあ私におまけで北条用にって渡してくれた茶葉は? 何か意図があったの?」
「ないわよ? あれはただの二級品よ。まあイタズラみたいなものね。」
あれで二級品だったんだ。飲んでないから分からないけど、香りは良かったのに。
「それから、ガスボンベなど一式を用意したのは阿波 秋子なる女生徒でした。これは北条の指示ではなく阿波の独断であるようです。」
ガスボンベ……もし爆発してたら絶対死んでるよね。なぜそこまで……
「阿波ら4人は北条を酷く恨んでいるようです。自業自得ではありますが、利用できそうなので懐柔しておきました。使い道があるうちは使ってやりましょう。」
「悪くない、いい判断だ。」
「ありがとうございます! 報告は以上です!」
「よし、よくやった。後は俺に任せておきな。お前は今日はもう上がりだ。夕飯食っていけ。」
「はっ! ご馳走になります!」
それからパパが焼くステーキで夕食となった。ママも結牙もお寿司を食べたばかりだろうによく入るな。付け合わせも何もなく、ただ肉の塊があるだけなのに美味しい。
「さぁて、こいつは彼氏にプレゼントだ。受け取りな。」
両脇をママと朝比奈さんに挟まれたパパから城君に封筒が渡された。何かな。
「いただきます。」
中身は手紙、いや小さな紙片だ。
「請求書、158万……158万円!?」
「パ、パパ、これは何?」
法外な気もするけど……でも朝比奈さんがつきっきりだったことを考えると、どうなんだろう。
「オメーの命の値段だが払いたくなきゃあ別に払わなくてもいいぜ?」
「いえ……絶対払います! でも、待ってもらえないでしょうか……母に相談しても払える額ではありません。だから働いて、払います……」
城君……
「そうかよ。そんならここんとこに好きな日付を書いておきな。」
日付? あ、支払い期限が空白になってる。
「は、はい……」
悩んだ末に城君が記入したのは、3年と半年後の春、4月1日だった。卒業して実業団で2年プレイした後ということになるのかな。
「まあいいだろう。静香の彼氏でいるうちはこの金額のまま待っておいてやるよ。どうせ狙われることもなくなるしよ。せいぜいがんばれや。」
「はい。がんばります!」
「何だよ158万って……安すぎだよ……何が彼氏だよ……パパのバカ……」
結牙がぶつぶつと拗ねている。仕方ないなぁ。
「結牙、たまにはシャンプーしてあげようか。それで機嫌なおしなよ。」
「うん! なおす! なおすなおす! 姉さんとお風呂入る!」
「ちょっと待てぇぇぇい! それは聞き捨てならんぞ! 静香、弟君と風呂に入るってのか!」
「え? うん。」
あ、え? 何か変なこと言ったかな。
「いいじゃないの。それなら城君は私と入ろうか? 全身洗ってあげるわよ?」
「えっ!? いいんす「だめえええええーー!」
はっ、つい大声が……
「分かったわね? それが城君の気持ちよ。もう結牙とお風呂に入るのはやめておきなさい。」
「う、うん。」
「そんなぁ……ママ酷いよぉ。姉さん騙されてるし……」
ママが城君に触れると思うとすごく嫌だった。これって独占欲とか嫉妬みたいなものかな。城君もこんな気持ちだったんだね。つまり、私に対してそんな気持ちに……嬉しいな。すごく嬉しい。
「いやー危なかった。ママさん妖艶すぎますよ。さすがは静香のママさんですね!」
「由乃ぁ最高の女だからよぉ。オメー今夜はもう泊まってけ。どうせ明日は休みだろ。」
「あ、はい。お世話になります!」
「ちょっとパパ! こいつをどこで寝させるつもりなんだよ!」
城君が泊まる? うちに? も、もしかして私の部屋に来てくれるのかな……