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第3話 御言葉

 カウンターから、わざとらしく酒瓶を持った酔っぱらい風(・)な、悪役顔のおじさんが、千鳥足風(・)に近寄って来ます。


 実はこの悪役、ギルマスです。スミマセン変な事を、お願いして。しかも、この人だけノーギャラだ。


 キターって顔した御手洗会長を「真打ちは後から」と牽制しつつ、片桐先輩に台詞を促した。


 実際、もし御手洗会長が何も知らずに本気で暴れると危険なのです。死人が出ます。もう2人は、そこまで強くなってます。


「御手洗会長に汚い手で触るな(棒)」


 そ、そこは、聖女ミタライだったでしょ! まだ、触ってもないし。


「なんだ、この若造。邪魔しやがると、ぶちのめすぞ!(棒)」


「笑止! この生徒会副会長の片桐を? 面白い。できるなら、やってみろ!(棒)」


 そこも、勇者カタギリだろ! 生徒会副会長なんて言って誰が分かる?


「き、貴様みたいな若造が勇者だと……信じられるか!(棒)」


 ……台本に戻りました。相手の台詞なんて聞いて無いのですね。なる程、よく分かりました。


 御手洗会長は、まだ座ってて下さい! 出番は用意してますから。


「えーと、……ならば試してみるがいい(棒)」


 なーんで、この台詞でペーパー盗み見るかな?


 と、そこに身なりの良い若者が二人の間に入ります。


「これは聖女ミタライ様に勇者カタギリ殿、それから従者のタロー君ではありませんか!このような場所でお目にかかるとは」


 実はここから、悪役と片桐先輩の殺陣(たて)に入る予定だったのですが、片桐先輩が余りにも下手過ぎて急遽、分隊長のゼクスさんに代わってもらいました。今、俺の剣術の先生をしてもらってます。


 ってお前、従者のタロー君なんて台詞なかっただろう。勝手にアドリブ挿むんじゃねー!でも台詞は流暢?!


「てめぇー。えーと……フジャラモジャラ!」


 悪役(ギルマス)さん、台詞を忘れましたか? そうですか。俺の顔を見られても……エエィ。もう、行っちゃえ!


 目で合図を送ります。


     *     *


 小芝居編終了。ここからバトルです。パチパチ。


 ギルマス、手に持った酒瓶で分隊長ゼクスに殴り掛かりました。かなりの勢いです。先程と違いイキイキしてます。辛かったんでしょうか? 台詞。


 んっ? 酒瓶で殴りましたね! アドリブですか? 最初はパンチでしたよね?!


 ゼクス、左腕でガード! しっかり対応できてます。さすが俺の先生。


 グワッシャーン。


 腕、大丈夫か? それはそうと、その壊れた酒瓶のお代、だれ持ちだ?


 ゼクスは、ガードの腕を引き手に反動をつけて渾身のリバーブロォー!!


 ドォグッワ!! って、低音だけど腹に響くような音がしました。痛そうー。


 ギルマスの身体二つ折り、軸が30センチずれます。凄い威力です。手加減しているようには全く見えません。


 しかしギルマス、ノーダメージ!


 逆襲。二つ折りの身体そのままに低くタックル。これをゼクス読んでいたか踏ん張る。というか迫真、殺陣感(たてかん)全くなし。


 ギルマスの顔が低い位置にきてます。ゼクスこれを狙って膝を飛ばすが……入りません! ギルマス、ガード。これは、もはや酔っぱらいの動きじゃない!


 さらに攻防、速さ2倍速。実況が辛い!


 ゼクス、後ろに回り込んだ。


 すかさずギルマス、後方に肘打ち一閃。


 ゼクス、ガートしない。かわりに腰を落としてこれを躱す。まるで重力消失!


 そこから右手で足を刈った!


 たまらずギルマス、ドーッと背中から落ちた!


 ゼクスがマウントポジ。両足の使い方が上手い! ギルマスの両手を封じた。


 胸ぐらを掴み、懐から取り出したナイフを首に押し付けた。


 ギルマスが殴りかかってから、ここまで10秒未満。ギャラリーに咳(しわぶき)ひとつ無し。


     *     *


 店内のどこかで、誰かの息一つ。


 御手洗会長でさえ、今の攻防に目が離せなかったようで両手は胸の前。乙女か!


 チクショー、格好いいぞゼクス! ヒューヒュー。


「ちっ!」片桐先輩の舌打ちです。


 しょうがないでしょう。出来なかったんだから。……これは無理か。


     *     *


「ここで聖女ミタライより、一言賜(たまわ)ります!」


「はっ、私(わたくし)?」


 そう、あなたです! お待たせしました。やっとあなたの出番です。


 今、この店内にいる全ての人間が聖女ミタライの御言葉(みことば)を待っております。生徒会長を勤めていた、あなたなら出来るはずです。


 この場に相応しい、感動的な一言を!


 さあ。


 聖女ミタライ、両の手を胸の前に置いたまま、目を伏せた。


 一言。


     *     *


「私(わたくし)のために、喧嘩しないでぇー」


 違うと思いまぁーす!

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