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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

学校一の美少女に告白しようとしたら「女の子の方が好き」とやんわり振られたのでTSして人生やり直す話

作者: 401

『ごめんなさい、雨星くん。私、本当は女の子の方が好きなの。私は――』


 初夏の風が吹く中、僕にそう言って立ち去っていく先輩。

 ゲーム同好会の部室に舞い降りた痛いほどの静寂。

 取り残された僕は呆然と部室の外を見る。

 窓ガラスには、貧相な外見を無理矢理イケメン風に取り繕った、哀れな男が映って――



「――っ!」


 ばっ、と布団を跳ね除けて起き上がる。


「夢……」


 またこの夢だ。

 思わずため息をつく。私は少し遅れて鳴り始めた目覚ましを止め、ベッドから降りて姿見の前に向き合った。

 そこに映る自分の顔に安堵しながら、私は朝の支度を始める。


「……よし、オッケー」


 身だしなみを整えた。

 姿見に映っているのは、愛らしい一人の美少女。

 少し低い位置で結ばれた、長く艶やかな黒髪のツインテール。やや小柄かつスレンダーでありつつも、女の子らしい柔らかさを備えた完璧なプロポーション。小動物的愛おしさに満ちた、思わずぎゅっとしたくなるようなあどけない顔立ち。


 私は鏡に映った自分に満足しながら、外出着へと着替える。

 その服装は一般的な女子の感性から少しズレている。だけど、先輩の本当の好みはギャルゲに出てくるような妹系黒髪ツインテール後輩女子。服装はちょっとわざとらしいぐらいでちょうどいいのだ。


 私の名前は雨星 怜。

 一見ただの可愛い女子中学生だけど、実は私には誰にも話していない大きな秘密がある。


 私は、人生を一度やり直しているのだ。


 "私"が女の子として生まれる前。

 平凡な男子高校生だった"僕"は、一人の少女に恋をしていた。

 彼女の名前は鷹月 涼夏。僕が高校に入学して、一ヶ月ほど経った頃に転入してきた、二年の先輩だった。

 ロシア人モデルの母と俳優の父から生まれた先輩は、西洋人と東洋人のいいとこ取りをしたような金髪碧眼の美少女だった。すらりとした長身にモデル体型。現実離れして美しく、しかしどこか親しみのある顔立ち。僕は一目で恋に落ちた。


 先輩はああ見えてゲームが好きで、僕一人しか所属していなかったゲーム同好会にこっそりと入部してきた。

 加えて女性でありながら僕同様ギャルゲーが好きで、僕が中学生の頃に買い逃したソフトの初回限定盤をも保持していた。話が合い、意気投合した僕らはすぐに親しくなったけれど、先輩は僕に異性としての興味を全く持っていなかった。

 それとなく好みのタイプを聞いてみても、「んー、〇〇に出てくる〇〇ちゃんとか、例の有名ゲームの〇〇ちゃんかなー」などと冗談混じりでかわされる。

 業を煮やした僕は先輩の知り合い経由で先輩のタイプを聞き出し、先輩に相応しい男になれるよう努力に励んだ。――それが何の意味もない、見当違いの徒労であるとも知らずに。


『ごめんなさい、雨星くん。私、本当は女の子の方が好きなの。私は――ギャルゲーに出てくるような妹系黒髪ツインテール後輩女子じゃないと、好きには、なれない』


 先輩は、同性愛者だった。

 ギャルゲー好きな彼女は、完全にそちら側に目覚めていた。

 僕は絶望した。告白に失敗し、ゾンビのようにふらふらと街を彷徨い歩き、ついにはバナナの皮を踏んで転び、頭を打って死んだ。


「(ああ、僕が女の子に生まれていたら……)」


 薄れゆく意識の中で、そう願った。

 そして死にゆく僕に、優しく、けれど厳かな声が響いたのだ。


 ――『一度だけ、チャンスをやろう』と。



 そして僕は――私は人生をやり直した。


 あと、驚くべきことに精子からスタートだった。

 並みいる他の精子達を幾億となぎ倒し、苛烈なデッドレースを潜り抜け、恐らく前世の私だったと思しき精子にわずかに先んじて母親の卵子に受精。序盤からなかなかにハードだったが、そこから先も私の頑張りは続いた。


 ハイハイ歩きが出来るようになる頃にはパソコンで美容関係や発育に関する情報をチェックし、二歳になる頃には高校の勉強を一通り済ませ、三歳の時には前世の知識で株の動きを予測しこの先必要になるであろう資金を手に入れた。


 これが一番早いと思いますと言わんばかりに美少女育成RTAをこなした私は、小学校高学年にあがる頃にはもう地元では評判の美少女となっていた。強くてニューゲーム万歳。


 現在中学三年生となり、来年に高校入学を控えた私はもはや推しも押されぬ清楚な妹系美少女。もしギャルゲーに自分が出てきたら思わず攻略しちゃうぐらいには可愛いと自負している。


 唯一残念なのは、高校に上がるまで鷹月先輩には会えそうにないということだった。

 私は先輩があの高校に転入するまでどの高校にいたのか知らなかった。どこに住んでたのかも知らない。闇雲に探すにはこの世界は広すぎる。


 だから、高校に入るまでは私は目一杯自分を磨く。そして先輩の理想の美少女になって、今度こそ先輩に告白し、オッケーをもらうのだ。


 このやや子供っぽいツインテールも、流石に短過ぎるスカート丈も、ちょっとギャルゲ脳過ぎるキャラ付けも、先輩好みのヒロインになるためなら譲る気は無い。時々自分でも客観視して「えぇ……」ってなることはあるけど。可愛いから許されてるみたいなとこある。


 そんなことを考えつつ、私は自宅から遠く離れたゲームショップに向かう。先ほどチラッと言った、中学生の頃買い逃したギャルゲーの初回限定盤を手に入れるためだ。もう手に入らない幻のソフトだってゲットできちゃう。そう、人生二周目ならね。


 そうして目当てのソフトをゲットし、ショップを出る。どうやら最後の一本だったようだ、危ない危ない。


「え、あれ無いんですか? 絵が可愛いからやってみようと思ってたんですけど……」


 背後の店内から残念そうな声が聞こえる。

 顔は見えないが、女の子のようだ。私が言うことでもないけど珍しい。

 どうやらその子もこのゲーム目当てだったみたいだけど、そこまでコアなゲーマーじゃなかったみたいだし許してもらおう。


 家に帰った私は、さっそくソフトを開封し、ゲームをプレイする。


『好き、先輩、好き……えへへ……』


 画面内で、ちゅっと主人公にキスをする妹系黒髪ツインテール後輩ヒロイン。主人公を先輩に、ヒロインを自分に置き換えた私は、枕を抱き締めてベッドの上で身悶えする。いいないいないいな! 私もあれやりたいやりたいやりたい!


「えへ、えへへ……先輩、好きぃ……」


 呟いてみると、腰のあたりがキュンっとする。百合ん百合んな妄想に耽りながら、とろけたふにゃふにゃな笑みを浮かべる私。


 部屋の姿見に映る自分はまさしく主人公に恋するギャルゲヒロインで、私は気恥しさを覚えながらも胸の内側から溢れ出る喜びを噛み締める。これなら絶対に先輩にもオーケーしてもらえると、そう確信出来るような可愛らしい女の子がそこにいたから。

 えっちなヒロインは嫌いかもしれないと思いつつも、私は溢れる妄想を止めることが出来ずその夜を過ごしたのだった。



 そしてついに。

 待ちに待った高校入学。


 両親にはもっと上の高校を目指せると言われたけれど、先輩のいない高校なんて何の意味もない。

 前世と同じ高校に入学し、前世をなぞってゲーム同好会に入部。私目当てで同好会に入部しようとしてきた男子が何人もいたけれど、ここは私と先輩の楽園になる予定なので、ごにょごにょして邪魔者には消えてもらった。未来の知識があると色々出来て便利。


 先輩が好きだったソフトを揃え、私はウキウキと先輩が転入してくる日を待つ。

 あの日に近づけば近づくほど、指数関数的に時間が長く感じられる気がする。一日千秋の思いを抱きながら、ようやく訪れた先輩の転入日。


「(うわぁ……!)」


 体育の授業中、校庭から遠目に見た鷹月先輩はモノが違った。

 私の初恋フィルターがかかってはいるけれど、それを抜いても絶世の美少女。もはや私なんかとは格が違う。芸能界にさえそうそう出てこないような、黄金の輝き。努力や自分磨きなんかでは絶対に到達出来ない、スタートラインからして違う存在。

 仮に私がソシャゲでノーマルレアのキャラを最大まで限界突破させてレベルとスキルをマックスまで成長させて貴重なアイテムをこれでもかと注ぎ込んでノーマルレアからスーパーレア並に無理矢理格上げした存在だとすれば、先輩は生まれながらのダブルスーパーレア。否、それすら超えたウルトラレアだ。


 照れ照れになって同級生からの奇異の視線を受けつつも、私は放課後一目散にゲーム同好会の部室へと向かった。


 本当はすぐにでも会いたかったけど、ここまで来たなら前世の流れをなぞるべきだろう。この部室で私と先輩はもう一度あの日の出会いを果たすのだ。最初の一言は何が良いだろう。告白の言葉は一目惚れしました、とずっと前から知っていました、どっちの方が効果的だろう。そんなことを考えながら、私は先輩をひたすらに待つ。

 待つ。

 待つ。

 ……待つ。

 …………あれ?


「せ、せんぱーい?」


 部室の扉を開け、キョロキョロと周囲を見渡す。……あれ? おかしいな、前世通りだったらもう来るはずなのに……。


 思わず泣きそうになっていると、遠くから先輩の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。私は慌ててそちらへと向かう。


 やってきたのは校庭だった。たくさんの生徒に囲まれ、困ったように、けれど楽しげに微笑む鷹月先輩。

 どうやら、どこの運動部のマネージャーになるかで迷っているようだった。あ、あれ? 先輩はゲーム同好会に入るはずじゃ……?


「せ、先輩! 鷹月先輩!」


 私は先輩へと呼びかける。先輩に群がっていた前世の私のようなモブ男子共が、私の美少女オーラに当てられて道を開けた。そうだ、さっさと散れ男共。先輩は私とゲーム同好会で百合百合するんだ。


「……? えっと、誰かな?」

「雨星です! 雨星 怜……あの、あの、鷹月先輩……」

「ど、どうしたの? 落ち着いて、ゆっくり……」

「――私と、付き合ってください!」


 目をぎゅっと瞑って、叫んだ。


 先輩が息を呑んだのを感じる。そして、ポツリと。


「ごめんなさい、雨星ちゃん。私、同性には興味が無いから……」

「え――えええええぁあああ!?」


 わけのわからない叫びが出る。なんで!? どうして!? 女の子の方が好きだからって僕のことフったのに! あれも嘘だったの!?


「あっ、そうか! ごめんなさい先輩、人前ではカミングアウトしたくないタイプだったんですね!」

「いや、カミングアウトも何も――」

「来てください先輩! ゲーム同好会行きましょう、先輩の好きなギャルゲーもいっぱいありますから!」

「え、ちょ、ちょっと雨星ちゃん!?」


 私は先輩をゲーム同好会の部室に連れ込む。

 これでギャラリーはいない。私と先輩、二人っきりだ。


「こほん。それでは改めて……先輩、好きです! 私と付き合ってください!」

「女の子同士はちょっと。ごめんね」

「なんでぇえぇぇ!」


 私は泣いた。完璧な美少女の外面を投げ捨ててわんわんと泣いた。


 なんで! 先輩こういう女の子が好きなんじゃないの!? 十五年越しのリベンジが!


「あ、雨星ちゃん?! ちょ、泣かないで……」

「だ、だって先輩女の子好きなんですよね!? 妹系黒髪ツインテール後輩ヒロイン好きって、前に言ってたじゃ無いですか! 〇〇に登場する〇〇ちゃんとか好きって!」

「言ってないよ!? 誰から聞いたの!?」


 こんなのおかしい……! あの先輩が! ギャルゲーが大好きだったあの先輩がこんな普通の女の子みたいに! これじゃ何のために人生丸々やり直したんだ、僕は!


「それに私、ゲームはやるけどギャルゲーは別にやらないし……」

「そんな……! 本当にギャルゲーやったこと無いんですか、一度も!?」

「うーん……一度だけやろうと思ったことはあったけど、その時は私の目の前でソフト売れちゃったんだ」

「……え?」


 私は恐る恐る問いかける。


「そ、そのソフトって……」

「タイトルは忘れちゃったけど、そのお店に一個だけ残ってた初回限定盤でね? 私の前に来た中学生ぐらいの女の子がニコニコしながら買っていったって……」

「ああああああ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!!」

「雨星ちゃん!? ちょっと雨星ちゃん、大丈夫!? そんな断末魔みたいな絶叫……!」


 完全に僕のせいじゃねえかよぉおおおおお!!!

 なんだよ、なんだよ、ふざけんなよ! 馬鹿か僕は! これだから時間遡行者ってやつは! 先輩が百合に芽生えるきっかけを自分の手で完全に摘んでんじゃねーか馬鹿!!!!!


 はぁはぁと息を切らし、僕は崩れ落ちる。

 少し冷静になる。けれど事実はあまりにも残酷で、知らず知らず目尻から涙がぽろぽろと零れ落ちていく。


「えぅ……うぐ、ひっく……」

「雨星、ちゃん……?」

「だって、僕、私、こんなに頑張ったのに、先輩の好きそうな女の子になるんだって、ずっと、頑張って……」

「雨星ちゃ……」


 優しげに伸びる先輩の手。それに耐えきれずに、私は部室を走り去った。



 ――あの日もこんな夕立に濡れていた、と一人私は思い出す。


 神様なのか何なのかわからない、優しく厳かだったあの声。

 『一度だけ、チャンスをやろう』。

 きっと、私はもうやり直せない。誰にも与えられないはずの「一度」を与えられて、しかしそれを無為にしてしまった。


「ぐす……」


 この先、どうすればいいんだろう。

 未来の知識でこの先遊んで暮らせるほどの貯金はある。私のスペックならどんな大学にも入れるし、芸能界でだって活躍出来るだろう。もしかしたら女の人とも結婚出来るかもしれない。でも……


「先輩とじゃなきゃ、嫌だ……」


 雨に紛れて涙が零れる。

 先輩に愛してもらうために、私はこの二周目をずっとずっと、怠けることなく頑張ってきたのだ。先輩以外の人なんてもう考えられない。それなのに、それなのに……。


 何時間経っただろう。

 ゾンビのように街を徘徊していた私は、ふと、目の前にバナナの皮が落ちていることに気づいた。


「(あの時もここでバナナ踏んだんだっけ……)」


 私はバナナに向かって歩く。

 あれを踏めばまた死ねるかもしれない。今度はやり直せないだろうけど、こんな人生に価値なんてない。


 私は、バナナの皮に足を滑らせ――


 ――とんっ、と、柔らかい感触に受け止められた。


「……大丈夫?」

「せん、ぱい……?」


 鷹月先輩が、傘をさしながら私の顔を覗き込む。


「なんで……」

「あのね、さっきまで雨星ちゃんが言ってたゲーム、やってみてたんだ。ゲーム同好会の部室に置いてあったし、パッケージに雨星ちゃんに似た女の子がいたから」

「っ……」

「途中までやってたんだけど、その子が主人公に見えないところですごく頑張ってたのに、私、選択肢間違って、その子のこと振っちゃってバッドエンドになってね。すごく可哀想で、それ見てたら、雨星ちゃんも同じ気持ちだったのかなって、そう思って、来ちゃった」

「…………」


 頬が熱くなる。先輩のことを直視出来ない。そうだ、思い出した。いや、忘れていない。先輩はこんな、素直な優しさを持つ、素敵な人だって。


「ほら、学校戻ろ? まだ私、雨星ちゃんのこと何も知らないから……もっと好感度上げて、ルート進めてからじゃないとダメなんでしょ?」

「これ以上好感度上げられたら、おかしくなっちゃいます……」


 先輩は傘の下に私を入れる。

 先輩とともに雨の降る並木道を歩きながら、私は小さく呟いた。


「好き、先輩、好き……えへへ」


 END

このあといっぱい百合百合した。


雨星 怜

主人公。愛が重い。性別の変化や十五年の歳月程度では決して揺るがぬ鋼鉄の恋心を有する。ノーマルレアを理論値限界まで鍛え上げてスーパーレアにたどり着いた、一般人が到れる極限としての美少女。


鷹月 涼夏

先輩。日本人だけど金髪碧眼でモデル体型。ギャルゲーをやらせるだけで普通にレズになる程度には魂がレズ。本編のゲームをやり終わったあとは最高に自分好みなタイプのギャルゲ系美少女が自分に最初から好感度マックスであるという事実に慄く。生まれついてのウルトラレア。才能で極限に至った天然モノのハイパー美少女。

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[一言] 映画、ベイビートークを思い出す転生の仕方で最高です。
[良い点] スキです、最高です。超最高です。今更読んでの感想でしたが本当に最高です。後日談が、すごく、気になりました…
[良い点] 最高でした。かわいい
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