4-2
「あなたは、……ことを…………か。……せん」
「はい?」
ぼそぼそ言っていて聞き取れなかった。ハキハキ話しなさいよ。私が首を傾げたところを見たアディク。口元から手を外すと、指を差してきた。大声で叫ばれる。
「あなたは、なんてことを言うんですか!? 信じられません!!」
最高級のはちみつじゃなくていいって言っただけだよ。なんで、そこまで言われないといけないの。
「いいですか? あなたが食べてるものは、最高級でないとダメなんです。野菜も新鮮なものでないとダメなんですよ」
「あんたのこだわりがよくわからない」
「僕はレノンのことを考えて言っているんです!!」
「私のこと考えてるなら、劇薬ちゃんを作って?」
私は怒られているようだった。私からしたら、変なこだわりを押し付けてこないでほしい。それよりも、薬のこと。頑なに作らない意志を示しているアディク。可愛くない私だけど、効くだろうか。
「アディク?」
「……なんですか?」
不機嫌な表情を隠さずに、表に出していた。私はそんな彼を前に、涙を流してみることにする。頰に伝う一筋の雫。ゆっくり頰に沿って、流れていく。ギョッと目を見開いた彼。
「れ、レノン!? 僕が言いすぎたようですね。すみません、泣かないでください! あなたに泣かれると胸が苦しいんです。私が泣かせといていうことではありませんが、お願いですから泣かないでください」
彼がとった距離を詰められた。勢いよく抱きしめられる。力強くて少し苦しかった。彼は私の顔を覗き込んだ。彼の顔が近づいてくる。どんどん迫ってこられ、逃げようとするも、がっちり掴まれていた。私の涙を舌で舐められた。そして、目尻に口付けられる。
「泣かせるつもりなんてなかったんです。本当にすみません。ただ、私はあなたにいいものを食べて欲しかっただけなんです。それをわかってほしかっただけなんです。泣かせてしまって、すみません」
なにこれ。効くわけないと思って試してみたのに、効きすぎだ。お願いしようと思ったのに、アディクの突拍子ない行動のせいで、タイミング逃した。どうしよう。どうしよう。どうしよう。涙なんかとっくに引っ込んだのに、まだ抱きしめられたまま。急なことで、頭の中はパニック状態。
「ア、アディク?」
「許してください。あなたの願いはなんでも聞きますから、あなたを泣かせた僕を許してください」
「……じゃあ、あの劇薬ちゃんを作って?」
「そ、その願いは……いえ、わかりました。可愛い可愛いあなたを泣かせてしまったのですから、それくらい叶えるべきですよね。ええ、大丈夫です。大丈夫ですよ」
私は抱きつかれたままだった。耳元で囁かれ、くすぐったい。肩に額をぐりぐりと押し付けてこられる。この一連の異常な行動に、私は戸惑っている。ちゃっかり、お願いはできたが、こんなことになるとは予想もしなかった。
彼はしばらく、ぴったりとくっついて離れなかった。数分で終わればよかったのだが、彼はひっついたまま。あまりにもうざくなったので、離れるように言った。彼はそれを断る。首を激しく横に振り、一日中私の側から離れなかった。
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