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3-1

 私がアディクの家に住むことになる。当初はこの男に不信感を持っていた。しかし、待遇がものすごく良かったので、私はころっと意見を変えた。

 毎日食事はでる。服はいらないほど与えられる。必要なものも欲しいものも買ってもらえる。暇な時は好きに過ごせる。私の仕事は薬を飲むだけ。こんな素晴らしい生活はなかなかない。薬があるから少しだけ眠れるようになったもの。

 こき使われることもなかった。ただ、もっと寝たいと思っているから、アディクにはたくさん頑張ってもらいたい。


 子供の頃だったら、彼の薬は必要なかっただろう。睡眠に問題はなかったから。毎日八時間ばっちり寝てた。もしかしたら、それ以上寝てたかもしれない。私が、眠れなくなったのは、ある魔女に呪われてからである。


***


 母と一緒に買い物に行っていた時、私は迷子になった。母とはぐれないように近くにいたが、母に似た人を追いかけていたらしい。


「お母さん! 」


 声をかけても返事してもらえなかった。走って母の服の一部を掴んだ。顔が母ではなかった。別人だった。私はその人から離れ、走り出した。どこまでも走って、立ち止まる。知らない場所にいた。


「お母さん! お母ざぁぁぁん!!」


 グズグス泣いて母を呼んでいた。母はやってこない。一人になって心細くなった私は、さらに涙を流した。


「小さな小さなお姫様。こんな人通りの少ないところでどうして一人で泣いているんだい?」

「ぉがぁざんっ! おかあざんが……ひっく、ひっく、……みづからないの!」


 地面に膝をつき、同じ目線になってくれた人がいた。顔は薄い黒の布で隠れていてわからなかったけど、優しい声をしていた。それにほっとして、その人に迷子になったことを話す。


「迷子の迷子のお姫様。君のお母さんを連れてきてあげよっか?」

「ほ、ほんと? そんなこと……できるの?」

「心配しなくてもできるさ。魔女に不可能なことはないからさ。そのかわり、僕の願いを聞いて?」

「いいよー! 魔女さんのねがいってなあに?」

「君が魔女の僕の――になること。それまで君は呪われる。僕を見つけるまでね。だから、ちゃんと見つけたって言うんだよ」


 私は魔女の願いを受け入れた。魔女は私の願いを受け入れた。やっと母に会うことができる。喜んでいた。だが、私は倒れていたところを発見されたらしい。なぜ倒れたのかは、自分でもわからなかった。

 私は病院へ運ばれたみたい。目覚めたところに医者がいた。母はそれを聞きつけたようで、病院まですっとんでやってきた。


「何があったの!? 大丈夫!?」


 勢いよく駆け込んできた母。焦りようがすごかった。体をペタペタ触られる。


「先生、娘はどこか悪いんですか!?」


 母は涙目になって医者に詰め寄った。医者はその勢いに押されながらも、異常なしと言った。母は安堵したのだろう。ほっと一息ついていた。

 病院から家に帰るまでは、謝られて、心配されて、気遣われた。だが、家に帰ると、倒れる前までのことを喋らされた。私の話を聞いていくうちに、見る見る表情が変わっていく。怒りに……。


「知らない人について行ったら、ダメでしょ! なんにもなかったから、良かったんだからね!! 倒れてたって聞いたときは、ヒヤってしたわ」

「だって、お母さんに似てたんだもん。後ろ姿が……」

「言い訳無用! 隣を歩きなさい、後ろからついてくるなって何度言ったと思ってるの! 迷子にならないように手を繋ごうって言ったのに、あなたは断った。途中からあなたを呼んでも、返事がなかった。後ろを振り返ったら、あなたはいない。その時の私の気持ちがわかる? 焦ったわよ。早く見つけてあげないとって思って、駆けずり回って探したわ! それなのにあなたは……」


 くどくどくどくど言われて耳が痛い。また、日頃の鬱憤をも晴らすように、止まらない話。小言まで言われた。どれだけ我慢してたら、六時間にもおよぶ説教になるのだろうか。私は、母の恐ろしさに縮こまっていた。

 ただ、魔女の話は母にはしていない。なんだか言ってはいけない気がしたから。そのことだけは母に話さなかった。その日の夜から、私に異変が起きた。

Copyright(C)2019-莱兎

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