12-3
私の隣には、固まったように動かないアディクがいる。アイリスちゃんの意味深な笑みから目をそらすと彼と目が合った。すぐにアイリスちゃんに視線を戻した。
「ふふふふふ、息子よ、よかったわね。アディク、動いても話してもいいわよ」
「……レノン!!」
アイリスちゃんの言葉で今度はアディクが動いた。近くにいるのに私のことを大きな声で呼び、飛びついてきた。衝撃が体に走ったが、倒れることはなかった。彼は私を強く強く抱きしめてくる。
「うっ! く、苦しい……」
「レノン! 僕のことを考えてくれて嬉しいです! レノンレノンレノンレノンレノンっ!!」
「耳元で叫ばないで。うるさい!」
真剣な表情をしていたアディクが、明るく弾んだ声をしていた。焦燥していた時とは大違い。態度がコロッと変わるくらいなら、放っておけばよかった。
「ちょっと! いい加減苦しいから離れて!!」
「嫌です。やっとレノンに触れらました。僕はこのまま一日中くっついていたいです」
抱きつかれたまま一日を過ごすなんて嫌だ。引き剥がそうと頑張るも、力では叶わない。なかなか離れない彼に、だんだん腹が立ってきた。蹴ってやろうと思ったその時、楽しげな声が聞こえてくる。
「ふふふふふふふ。あらあら、仲良しさんなのね。これなら、心配いらないかもしれないわ!!」
いや、アイリスちゃん。自分のいいように解釈しないでください。抱きしめられていますが、苦しんでますから。それに私たちは――。
「仲良しではありません! 助けてください!!」
「何を言うんですか! レノン。僕たちは仲良しです!!」
「ふざけないでっ! 違うから!! 早く、離れて!!」
「嫌です!」
私が否定するたびに、ギューギューと締め付けてくるのやめて。熱い。苦しい。痛い。
彼の腕の中から抜け出そうともがいた。しかし、抜け出せない。諦めたくなくて、アイリスちゃんに視線を送った。それは、助けを求めるもの。
「レノンちゃん。もう少し息子に付き合ってあげて。私はあなたたちを見て、楽しんでいるわ」
あっさり、断られた。
もう少しってどれくらい? それに、私たちを見て楽しむって何?
アディクに抱きしめられている。私は抱きしめられたまま彼に言葉を返す。二人が言い争う姿も私が抱きしめられた姿も見られ続けるのか。恥ずかしいから、無理。
「まあ! レノンちゃん。真っ赤になって、可愛いわ。ふふふ、冗談なのに……」
「レノン! お母様にそんな顔を見せないでください。ああ、閉じ込めてずっと僕が眺めていたかったです。それが、お母様に見られてしまうなんて……。お母様がレノンをからかうからですよ!!」
私の頭が彼の胸元に押し付けられた。密着しているから見られているのよ。仲良しだと思われているから見られるのよ。だから、ここは離れるべきところで、抱きしめるのをやめるべきところよ。
「はいはい、アディクはそろそろ離れなさいね〜」
「いたっ! 痛いです!!」
唐突に離れていった温もり。私が見たのは、アイリスちゃんがアディクの耳を引っ張っている姿だった。伸びている彼の耳。痛そうだった。
「私の息子。ちゃ〜んと、レノンちゃんと話しなさいよ。逃したら、ダメだからね!」
「わかってますよ。早く、耳を離してください」
アイリスちゃんの真っ白で細い指が、アディクの耳を離した。彼の耳は少し赤く染まっていた。
「お母様に世話を焼かれなくても、僕はちゃんとレノンとの問題を解決できます」
「生意気な息子。まあ、いいわ。期待しているからね。私の息子。……そうそう、演技するのもいいけど、うまくやらないとバレるわよ?」
アイリスちゃんはコソコソとアディクに伝えていた。そのため、最後の方は何を言っていたのかわからない。不思議に思っていると、彼の大声が聞こえてきた。
「いいから、お母様はどこかにいってください!!」
「ふふふふふふふ」
アイリスちゃんの機嫌良さそうだった。
アイリスちゃんに翻弄されるアディク。彼は母親という存在には敵わないのだと思う。
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