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10-3

「家の中でフードはあついです」

「はいは〜い、レノンちゃん。手を動かして〜」


 鍋に火をかけていた。グツグツと煮込まれている中身。色は青になったり、赤になったり、紫になったりと忙しい。その中身をかき混ぜているのは、少女の細腕である。時計回りに、反時計回りにと交互にぐるぐる混ぜていた。


「トロトロの液が重くなって、腕が辛くなるまで混ぜる。とにかく混ぜるの」

「はあ、アイリスちゃん。私、すでに腕が辛いです。ピクピクしてます」

「レノンちゃん、開始からまだ五分も経ってないわ。今まで、どれだけ腕を使ってこなかったの?」

「いや〜、ほとんどアディクが世話してくれましたから。彼がこんな重労働をしながら、私の薬を作ってくれていたなんて、知りませんでした」


 話しながらもレノンちゃんは手を動かしていた。両手を使い、体全体を使って大きな鍋の中を一生懸命混ぜている。フード隠れた顔は近くにいかないと見えないが、頰に汗が流れていたのは見えた。


「これ、なにが入っているか気になります。なにを入れたらこんな様々な色に変わるんですか」

「ふふふふふっ、人間の生き血と大量のお酒。マンダラゲ、トリカブト、マンドラゴラ、ヘビの抜け殻、あとは……」

「もう、言わなくていいです」


 レノンちゃんは、涙声だった。ほとんど嘘の材料だから、怯える必要はないのに……。騙されちゃって可愛い。揶揄いがいがあるわ。クスッと思わず笑ってしまった。

 材料として使ってるものもあるが、人間の生き血など、ほとんどの材料が嘘である。私が適当に並べて言った材料を聞いたレノンちゃん。引き気味になりながらも手を止めずに頑張っていた。

 薬という名の毒を作っている事実は変わりないが……。


「ごめんね、レノンちゃん。怯えなくても大丈夫よ。嘘だから」


 全てが嘘ではない。私が先述した材料の中で入っているものもある。

 ふと、むくむくと意地悪な気持ちが湧いてきた。鍋をかき混ぜているレノンちゃんの背後にそっと近づいた。私は彼女の肩に手をおく。彼女はビクッと肩を跳ねさせた。ゆっくりと首を動かし、振り返る。


「な、なんですか……」

「あれ? 聞こえてなかった? 材料のこと嘘よ」

「う、うそ……だったんですか? よ、よ、良かったです。人の血を飲んでることを考えたら、冷や汗が流れてきて……」


 か細い声出して、震えてるところを見ると申し訳なくなってくるわね。ただ、レノンちゃんは鍋をかき混ぜているので、顔が見えない。それを残念に思った。


「人の生き血等は黒魔女が使うもので私たちのような健全な魔女は使わないわ。人間のレノンちゃんは知らないだろうけど……」

「黒魔女が何か気になりますけど……とりあえず、安堵しました。ほんとうによかったです。アディクもアイリスちゃんと同じ材料を使って私の薬を作っていたかもしれない。私がそれを飲んでたのかと思ったら、気絶したくなりました」

「やりすぎちゃったみたいね。アディクがどんな材料を使っているのかは私もわからないわ。それぞれのやり方があるもの」


 レノンちゃんは目を丸くさせ、「えっ?」と呟いた。私は、その声を聞き流し、鍋の様子をみる。


「レノンちゃん。液体がドロドロになって色も定着してきたし、そろそろ冷まして大丈夫そうよ」

「あ、はい」

「私と一緒にやりましょうね?」


 笑顔という圧力でレノンちゃんの承諾を得た。

 いまだに戸惑いを隠せていない彼女。人が見ればわかるほどに目を泳がせていた。

Copyright(C)2019-莱兎

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