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一時間ちょっと眠ることができた。劇薬でもそれくらいしか寝れない私。どれだけ眠れない体質なんだろう。
「おはよう」
机に突っ伏して寝ていたはずだったが、私がいたのはソファーの上であった。 アディクが運んでくれたのだろう。
「はい、おはようございます。一時間と十三秒ほどですか。もっと改良が必要なようです」
「ちょっと、待って! あんたずっとそこにいたの?」
向かいのソファーに座っていたやつ。平然としている。私は寝顔を見られたかもしれないと思い、ちょっぴり不愉快だった。
時間を測っていたことは許そう。観察結果は大事だ。しかし、機嫌は直らないままだ。
「分かりきってることじゃないですか。僕は、レノンの寝顔を見るのが好きなんです。可愛いあなたをみていたいのです」
「不健康な私が可愛いなんて、目腐ってるんじゃない?」
口元がひくついた。嫌味で言ったことは、アディクにさらりと流される。
「いえいえ、レノンは可愛いですよ。肌の手入れをすればもっと変わると思います。でも、これ以上僕のために可愛くなるなんて嬉しいことは――」
「あるわけないでしょ。アホ」
変なことを言うな。寒気を感じ、思わず二の腕をさすった。アディクは、頰をちょっぴり赤く染めている。なぜ照れる。どこに照れる要素があった。
「そんなに照れなくてもいいんですよ。僕は君に恋したんです! あの日あの時から!!」
「あー、あー、あー、聞こえない聞こえない」
「照れ隠しするところも微笑ましいですね」
こいつ、バカにしてるのか。だいたい、私に恋したっていうけど、それは研究対象としてのはず。出会いが衝撃すぎて、思い出すだけでも腹がたつ。
「あの日のあなたも可愛らしかった。ヨチヨチと歩く足。私をみて潤む瞳。今よりももちもちした肌で、ぷっくりとした唇。その口から出た声は小鳥のさえずりのように心地よいもの。お兄ちゃん、お兄ちゃんって呼ばれていたときが懐かしい」
「変態。何過去を盛ってんのよ。そんな事実一切なかったわ」
「えー、ありましたよ。一度。私が間違えて飲ませてしまった薬がどうやら小さくなる薬だったようで、あなたは記憶も幼くなってしまったのです」
絶対に確信犯。だって、にやけてるもの。ニヤニヤって気持ち悪い笑みしてるもの。まさか、幼女趣味なんてことはないよね?
「変なこと考えないでくれませんか? 僕が好きなのは、あなたですからね!?」
「あー、はいはい。うん、わかってるよー」
棒読みだった。相手にするのが面倒になってきた。こいつの趣味があれだとしても知ったことか。私は薬さえもらえれば十分。この呪われた体に効く薬なんて珍しいもの、手放せるわけがない。
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