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8-1

 何もないところに手を伸ばし、ぶつぶつと呟いている不気味な男がいた。同じ部屋には、赤い髪をした女もいる。女はニィッと釣り上げ、男に抱きついた。


「あら、アディクはあのブス女に捨てられて可哀想ね。でも、安心しなさい。このわたくしがあんたのそばにいるからね。あなたにふさわしいのはあんな貧相な子じゃなくて、わたくしなのよ。それが事実だわ。いい加減、諦めてわたくしと一緒になりましょう?」

「僕がレノンに捨てられてしまったのでしょうか? いや、レノンは僕を捨てていません。レノンが僕を捨てるわけがないんです。僕はレノンを追いかけて、逃げられないようにしましょう。それよりも先にやることができてしまいました」

「ちょっと! アディク、聞いてちょうだい? いつまでも一人で喋って、無視しないで! あの女のことは諦めるべきなのよ。わたくしとあなたは結ばれるべき運命だったの。あの女がいなくなった今、わたくしたちのことを邪魔するものはいないわ。わたくしはね、あなたのことを逃がさないわ。どんな手を使ってもね」


 ああ、それは僕も同じだ。どんな手を使ってもレノンを逃がさない。そのために、この女を排除する必要がある。お前は僕の運命ではない。僕の運命は一人だけだ。


「君さ、邪魔だよ。君のせいで、僕が大事に囲っていた鳥が逃げちゃったじゃないか。勝手なことを口走るし、ほんと余計なことしかしない。さっさと、この家から出て行けば、見逃したものを……」

「アディク? わたくしという小鳥はあなたの下へ戻っているわよ。どうしたの? 何か不満でもあるの?」


 このバカ女。頭沸いているのか。何がどうなったらそんな解釈になるんだ。だいたい、僕より弱いお前が暗示をかけようとしても無駄だってわかれよ。

 教育者が悪かったか、親が悪かったか知らないが、話の通じないやつは嫌いなんだ。こいつの脳には何が詰まってるのだろうか。空っぽだよ。人に迷惑しかかけない害悪女だ。

 さてさて、この女をどうしてやろうか。こいつの言った通り、薬漬けにでもしてやろうか。ああ、それがいいかもな。口は悪いし、性格は残念。だが、客観的に見れば容姿はいい。

 綺麗なものを綺麗なまま保存して売ってみようか。そういうのが好きそうなやつに喜ばれるだろうな。


「ねぇ、アディク。わたくしのことを無視しないでちょうだい」

「ふふっ、ごめんな。なんの話をしてたんだっけ?」

「あら、わたくしたちが結婚するっていう話をしてたのよ。知り合いに挨拶しに行かないといけないわね」


 誰が誰と結婚するんだよ。調子に乗るなよな。

 あー、うぜぇ。こいつさえ、いなければレノンを探せるのに。


「わたしくたちはお似合いの夫婦になるの! あれに隠していた本性をあなたは、わたくしには見せてくれる。わたくしの方が愛されてる証よ」


 どうでもいいから、見せてんだよ。お前にどう思われようが、僕は何とも思わない。心動かされることさえない。


「あのさ、ジュリー」

「何かしら?」


 首を傾げて、男を誘うように腕を組んできても、可愛いとは思えない。

 僕を支配できていると思っているこいつはバカなやつだ。わざわざ操られたフリ(・・)をしてやってるんだから、お前も僕を疑わずに踊り狂え。


「お前のために作った薬を飲んで欲しいんだ。飲んでくれるよな?」

「ええ、とっても嬉しいわ。飲ませてちょうだい! そのかわり、あなたもわたくしの作った薬を飲んで欲しいの」

「わかった。今から持ってくるから待ってろ」


 コトリッと空いている棚の上にあるものを置いた。そのあるものに火をつけた。時間が経てば、甘い匂いが部屋に漂う。その匂いは女にしか効果が出ないもの。僕はほくそ笑んだ。

 部屋に鍵をかけて、出られないように閉じ込める。あれの始末を終えたら、部屋を浄化しないとな。部屋にあるものを全部新しくしよう。

 早くあれを薬漬けしたい。大量の薬を人間の入れるくらい、大きな容器に準備しておこう。これ以上手間がかかるのは耐えられない。だから、お前はずっと気づかなくていい。


 僕への好意に酔っていろ。そうしたら、一生幸せでいられるだろう。余計なことはするなよ。

Copyright(C)2019-莱兎

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