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ボサボサの髪。艶のない肌。クマのある顔。カサカサの唇。どう見ても健康そうに見えないある少女は、どよんとした空気を纏っている。
「寝たい寝たい寝たい寝たい寝たい……。なんで、寝れないのよ」
ぶつぶつと呪文のようにつぶやいていた。その様子は、鬼気に迫るものを感じた。突然、きゅるるるる〜と鳴った。なんの音だろうか。
「お腹減った。私は、りんご、りんご、りんご、りんご、りんご、りんご、りんごが食べたいの! りんごが欲しいのよ!!」
「うるさいです。少し静かにしてください」
現れたのは、髪が後ろで一つにくくられている眼鏡をかけた青年だった。彼は少女に近づいていく。
「床に寝ると汚いですよ。一応、女なんですから行儀悪いことはよした方がいいですよ」
「うるっさい! そこのヘッポコ、あれはどうしたのよ!!」
「あれですか? やめておいた方がいいと思いますけど……」
「いいから、寄越せ!」
青年を睨みつける少女。手のひらを上にして、手を伸ばしている。あれと言われるものが出てくるのを待っているみたいであった。
さて、あれとはなんであろうか。
「今回はどれくらい寝てないんですか?」
「五日だったかもしれないし、七日だったかもしれない。わからない」
「よく生きていられますよね。普通の人間なら死んでます」
そう、私の体はおかしい。睡眠を欲しているのに、眠れないのだ。眠くて寝たくて寝たくて仕方がないのに、私は寝れない。気が狂いそうだった。いっそのこと、本当に狂ってしまおうか。楽になれるかもしれない。そんなことを思っていても気なんか狂うことはないだろう。
「アディクに言われなくてもそんなことわかってる。自分の体が異常なんだって!」
「異常なことが悪いとは一言も言ってません。僕が言いたいのは、レノンは不思議な存在だということです。試作品の赤と金の睡眠劇薬ちゃんを飲んでも寝れないのは相当ですよ。もう、毒を飲んでいるようなものなのに……」
ネーミングセンスはまあまあかな。赤と金の睡眠劇薬ちゃんって、ちゃんいらないと思う。
その劇薬が欲しかったんだよね。少しは寝れるから。でも、私以外の人に使うのは危険。一生目覚めないかもしれないと言われている。研究のために飼っていた動物で試したらしいけど、衰弱死していったみたい。
「ねえ、劇薬ちょうだい?」
「では、僕がレノン専用に改良に改良を重ねた赤と金の睡眠劇薬ちゃんを用意して差し上げましょう」
どこからか取り出してきたのだろう。いつのまにか、アディクの手の内にあった。
球体に近い物。赤の皮が剥かれていく。中身は白のような黄のような色。そう、アディクが作っているのは、私の好きなものを模した特殊薬。食べることで摂取する薬となっていた。
「久しぶりのりんごだあ〜!!」
私はアディクによって食べられる状態となったりんごに模した薬を食べていく。美味しい。ほっぺたが落ちる。さすが、私の好みを把握している人間ね。
サクサクと食べていく。これを食べたら、少し寝れると思うと感激するわ。アディクには大変お世話になっている。あれ、なんだか眠くなってきた。おやすみなさい。
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