エンディングb:セラエノで発見された手記より
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……とまあ、以上が俺がこんな所で、この手記を書き記す事になった顛末だ。
まさか平凡なダメ人間に過ぎなかった自分が、こうしてセラエノくんだりで手記なんぞを記す事になるなんて思いもしなかった。ラヴクラフティアンの端くれとして、一回はこんな手記を書いてみたいなんて思った事もあったが、実際にその機会が訪れるなんて、人生ってのはマジで何があるか解らないモノなんだな。
さて、結論から言うと、どうにか俺は奴等から逃れる事が出来た。
とっさの閃きだった。バトラー達の開発した精神転送機は、ある種の電波を介して人間の精神を時空を越えて送受信出来ると、奴等は言っていた。そして奴等は俺を捕らえて最終的な洗脳を施す為に、俺の脳にその電波を送り込んで自ら接触を図っていた。
と、言うことは、俺の脳とその装置は接続された状態にある……と、言うことに気が付いたんだ。
あとは賭けだった。あの朝日と共に差し込んできた黄金の輝きを見た瞬間、俺の脳内が至福で満たされつつあった一方で、俺の意識の奥底に僅かに残った正気の部分が、この輝きを危険だと感じて、どうにか逃れようと半ば無意識の内に全脳力を集中させていたらしい。
気が付くと、俺の意識はサイクラノーシュの異形の大地の上に立って、土星の輪を見上げていた。
……俺は賭けに勝った。脳が黄金の輝きで塗り潰される最後の瞬間、俺の意識は例の機械が発する電波を逆に伝って、奴等もすぐには知覚出来ない遠くまで離脱する事に成功したのだ。
俺の進化した脳力は、奴等や俺自身が想像していたよりも遥かに発達していたんだな。例えるなら、天上から垂らされた電波を蜘蛛の糸替わりにして、閉ざされた迷宮の壁を飛び越えて逃げたって所か。奴等に言わせればチートってヤツかもしれないが、規制されてないなら運営の落ち度だ。悪く思うなよ。
ただ、予想外だったのは、俺の意識が元の身体に完全に戻れなくなってしまった、と言う事なんだ。
俺の身体には、エルドラドを名乗るもう一つの意識が居座っていて、こいつのお陰で俺の意識は身体に戻れなくなった。
最初は別の意識体が俺の身体に憑依したものかと思っていたのだが、どうやらエルドラドも間違いなく俺の意識体だったのだ。
アレコレと考えてみたが、おそらくは、あの黄金の輝きを見た時に俺の脳の中で、この輝きを受け入れるかどうかで一種の葛藤が生じたのだ。その葛藤が無意識の内に脳力を集中させ、俺と言う別人格を産み出して、それを体外に放出したのだろう。
そして脳に残ったこれまでの意識は、世界の真実を受け入れてエルドラドに変化した。きっと、そう言う事なのだろう。
だから、今の俺はエルドラドと同じ脳を共有している別の意識体と言う事になる。ゲームで例えるなら、一つのゲームのアカウントで、複数のキャラクターを管理している……みたいなモノだろうか?
幸いな事に、エルドラドの存在が、俺の意識が他所に逃げたと言う事実を上手くカモフラージュしてくれている。奴等はエルドラドを唯一無二の俺の人格だと思って、自分達の計画に利用している。エルドラド自身も、それが自分の利益になると考えて自発的に協力している。
そして、偶然にも時空の狭間をさ迷える魂となってしまった俺は、このまま時空の彼方に逃げ出すか、それとも何時か出会ったあの夢見る人の様に、外側からこの狂い行く世界を観測する存在となるか悩んだ末に、結局この世界に僅かでも干渉する事にした。
俺は、エルドラドの隙をついて、時おり自分の身体を使って変わり行く世界の姿をこの目で見た。あるいは、別の夢見る人の夢に介在して、夢の断片から世界の情報を漁った。
はたまた、不用意にも宇宙に意識を飛ばしてくるチャネラーやコンタクティ達の意識を乗っ取って、彼らの身体を使って直接地球上を渡り歩いたりもした。
簡単に書いてはいるが、これらの行為は非常に高度なリスクを伴った。奴等に見つかる危険もさることながら、何よりもエルドラドに俺と言う存在を気取られたら、最悪の場合、俺の意識はヤツに呑み込まれて消滅してしまうかもしれない。
そして、そこまでのリスクを冒してまで地球を調査する度に、俺は深い絶望に見舞われた。
あの狂えるアメリカ大頭領の思惑通り、合衆国は国連脱退を果たし、それに伴う国々と“新同盟”を結成した。残された国連は残留した超大国の思惑で“世界連合”に変容し、結局世界は戦争に突入した。今は主戦場は地球上に留まってはいるが、やがて戦線は地球を離れて他の惑星や時空にも及ぶだろう。
……誰の思惑に踊らされてるか知る術も無くな。
一度動き出した世界の潮流は、変わる事は無いだろう。今後も世界は奴等の思惑によって歪められ、狂気に陥って行く事だろう。
俺に出来る事は、せめて俺の存在を感知出来る勇気あるサバイバーや探索者、あるいは観測者や隠者の道を選ぶ夢見る者達に、この世界の正体を知る“徴”を与えるだけに過ぎない。
そして、それももう長くは続けられないだろう。この頃、このセラエノにまでリーグやユニオンが調査の為に飛ばしてくる意識体を頻繁に見かける様になった。奴等が開発した脳力開発メソッドは、遂にここまで探査隊を送り込むまでに至ったらしい。このままでは、近い内に俺の存在を発見されるだろう。
だから、俺はこの手記を書き上げ次第、おそらく最後の跳躍に取り掛かるつもりだ。
俺の意識は本体から、あまりにも遠くに離れすぎた。次の跳躍で俺の存在はエルドラドに感知される心配が無い程の、時空の最果てに移動するだろう。だがそこに憑依に適した知的生命体が居なければ、今度こそ俺はおしまいだろう。
で、俺はこうして最後のつもりでこの手記を警告として、ここに記している。
これがリーグやユニオンの奴等の手に渡らない事を祈る。この手記を読んだ探索者は、どうか世界の正体……今も奴等が自分達に都合の良いように新たに積み上げた、虚構による仮想現実の世界の正体を知り、彼らの犠牲にならずに生き延びる事を期待する。
一見、出口の無い様に見える迷宮の最奥でも、抜け道が無いとも限らない。その抜け道の先に、貴方にとっての黄金が在らんことを願っている。(署名:ガリンペイロ)
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