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コズミック・ラビリンス(CHAPTER4:4)

 さっきの分岐点に戻って、戦利品をあらためる。くそ、蓋の封印が固いな。


 ……開いた! 中身はキメの細かい灰白色の粉末。予想が正しければ、これは“イブン=グハジの粉”だ。


 壺に書いてある通り、透明な存在に対してこれを振り掛けただけで、心臓が十回鼓動を打つ間……十秒くらいか? 姿が見える様になると言う魔法のアイテムだ。

 あの姿が見えない魔犬に対して、これは大きな助けになる! 倒せるかどうかは解らないが。


 それにしても、楔型文字は読める仕様だったんだな。そう思って、もう一度壺に刻まれた文字の上に浮かぶ日本語の字幕をしげしげと見つめた。……まてよ? と言うことは!

 バックパックから、粘土板とチャプター3で手に入れた石板を取り出して、まずは粘土板から見つめてみる。最初は何も表示されなかったが、すぐ目の前まで近づけると字幕では無く、メッセージウィンドウが浮かび上がった。


“なにか呪文の様な物が刻まれているが、表面が磨耗していて殆んど読み取れない。しかし、この呪文には心当たりがある気がしてならない。ミスカトニック大学に収蔵されている、禁断の書物のどれかに載っていた気がするのだが……だめだ! 思い出せない!”


 もう少し頑張れよ俺! まあ、残りの欠片が揃わないと解らない仕様なんだろう。で、石板は? 同じように目の前まで近づけると、案の定ウィンドウが出てきた。


“未知の象形文字(ヒエログリフ)で書かれていて解読出来ない。一緒に書かれているレリーフから判断するなら、これは伝説の黒きファラオを崇める祭礼の為の道具と思うのだが……”


 こっちも読めないか。まあ、ヒントっぽい事も書かれてるから、まるっきり無駄な行動じゃ無かったな。とりあえず、荷物を全部バックパックに放り込んで、改めて左の通路を進む。ここからは少々入りくんだ迷路になっていたが、ピルグリム博士の血の跡とサインを見つける事でそれ程迷わないで進む事が出来た。

 それにしても結構歩いたと思うが、未だに博士に追い付けない。もう銃で撃たれたとか言う傷は塞がったんだろうか? 血痕がここまで落ちていると言う事は、そうでも無さそうだが。


 不意に大広間に出て思考が中断された。同時に何かの気配(・・・・・)を感じたので、ランタンを床に置いて拳銃を構えた。


 注意深く周囲を見回すと、ここがちょっとした体育館位の広さを持った空間で、数メートル感覚で石柱が規則正しく並んでいる為に、広さの割に視界が悪い。チャプター3の終わりの地震の影響か、柱の何本かは倒れてしまっている。


 天井の高さを確かめようと上を向いた瞬間、何かが右の柱の間から襲いかかってきた。姿は見えないが、何故か解った。とっさに飛び退いたつもりだったが、それでも何かが右手に幾つも喰らい付いてきた。


 痛い!? VRゲームの規制上、痛みは感じないハズなのに、わずかに痛みを感じた。九玄太ネズミの時ほどじゃ無い。気のせいと言えば言える程度だが、これは一体どう言う……?

 いや、問題はそれだけじゃない! 何だか身体から力が抜けて行く。このゲームの初期に感じた様な倦怠感と身体の重みが少しづつ戻ってくる様な……。痛みと痺れに似た倦怠感から、思わず拳銃を取り落としてしまった。


 反面、襲撃者は俺から血を吸ったおかげで、そのグロテスクな姿が幾分か明らかになった。のたうつゼリーと波打つ小さな触手の塊。その触手の先端には細かい牙が生え揃った口が着いている。


 間違いなく、こいつは星の精だ。


 別名を星の吸血鬼。姿は見えないが、犠牲者の血を吸った直後は、その血が消化される間の短時間だけ、その姿が血によって視認できる。それ以外は、今も耳元で聞こえてる気味の悪いクスクス笑う様な音でしか判別出来ない。

 どんどんと血が吸われる毎に、ヤツの姿が明らかになっていく。同時に右腕の痺れが全身に回って行く感覚を覚え、とっさに左手で腰のナイフを抜いて、ブヨブヨの触手の塊に斬りつけた。

 わずかな手応えと共に、ヤツは慌てて血を吸うのを止めて後ろに下がった。吸った血が少しだったせいか、その全身すら明らかにならず、その眼に見える部分も吸った血液が早くも消化されていく為か、どんどんと透明になって行く。


 慌ててバックパックからイブン=グハジの粉の壺を取りだし、痺れる片手の為に少々もたつきながらも、粉を手のひらに幾つか取って消える寸前のそいつの身体に吹き付けると、粒子の細かい粉は上手いこと広がって、そいつの不定形の全身を半透明ながら明らかにした。


 だが、その直後から徐々に透明に戻って行く。十秒ちょいってのは思ったよりも早い。その間に少し感覚の戻った右手で拳銃を拾って距離を取り、手近な柱に身を隠した。さあ、これからどうする?

 イブン=グハジの粉で見える様にして応戦するのがベストとは思うが、魔犬もいるのにあまり使い過ぎるのもどうだろうか? なら、あえて血を吸わせて見える様にする? いや、さっき少し吸われただけであの痺れと倦怠感だったんだ。これ以上、ヤツからダメージを受けながら戦うのは現実的じゃない。


 そう考えてる間にも、ヤツの気配とクスクス声が近づいて来た。ここは一つ、声と気配を頼りに戦ってみるか。なに、原理は解らないが、ここまで魔犬やコイツの気配を感じて来れたんだ。落ち着いて行けばきっと……


 などと甘い事を考えていたが、不意に広間全体を揺らす振動が轟音と共に響いて来た。強い振動に立っていられなくなり、思わずその場にうずくまる。

 遠くの方でまた何本かの石柱が崩れ落ちた。同時にあちこちで床石が弾け飛び、そこからあの触手が飛び出して来た。


 またか! よりによって、こんな時に!


 触手の強引な乱入によって、星の精の気配を見失ってしまった。瓦礫の落ちてくる音と触手ののたうつ音で、クスクス声も聞こえない。


 ……一体、どうすればいい?

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― 新着の感想 ―
[一言] 思い出せそうで思い出せないっていうのも定番ですね。 プレイヤーはヒントの黒いファラオの時点でわかっちゃいますがw
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