表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/67

コズミック・ラビリンス(CHAPTER3:7)

 あんな所に上げ蓋があったなんて、今の俺でなきゃ見逃してしまうところだったろう。


 だが、どうやってあの扉に取りついたものか……。ここはさっきのスフィンクスの広間に比べて、ずっと天井は低い。大体四~五メートルと言った所か? とは言え、ジャンプして届く距離でも無いし、周囲にはハシゴの類いも無い。

 壁は壁画が描かれた漆喰に被われてて、よじ登る手掛かりも無いし、上げ蓋は広間の中央にあるから、もし何かの手掛かりを作って壁をよじ登っても、そこから上げ蓋までヤモリみたいに天井を這って進まなければ、あそこまでたどり着けない。


 ならばと広間中の棺を片端から調べて、なにか役に立つアイテムやヒントを探したが、それらしい物が見つかるどころか、どの棺も蓋が完全に密閉されていて隙間ほども開きすらしなかった。


 これじゃ、天井まで昇る手段が無い。何かアイテムを回収しそこねたか? じゃあ一体、どうすりゃ良いんだよ! と、腹立ち紛れに手近な棺を蹴飛ばすと、それは床の上を数センチ程動いた。……思ったよりも軽いな。ひょっとして、中身は空なのか?


 ……あ。


 俺は不意にHPLの短編の一つを思い出した。でも、まさかそんな……。俺は嫌な予感を感じながら他の棺を押してみた。これも中身は空らしく、石畳の床の上を簡単に動かせた。


 ……マジかよ。あんなマイナーな短編からネタ引っ張って来るかフツー? クトゥルフとか全然関係ない小説じゃねーかよ……。俺はこのゲームを作った未知なるスタッフ共に悪態をついたが、他に手段は無さそうだ。俺は覚悟を決めて、目の前の棺に手を掛けた。こりゃ、大仕事になるぞ。


 ……出来た!


 体感時間で数十分後。俺は幾つもの棺を積み上げた即席の階段を、どうにか上げ蓋の真下に作り上げる事に成功した。一番下の段に三つの棺を並べて、その上に二つの棺を重ね、更にその上に一つ棺を置いたピラミッド型の形状だ。

 なるほど、ここの棺がエジプト風の背景にそぐわない、四角四面の形状をしている訳だ。これが丸みを帯びた形状の人形棺なら、こう綺麗には積み上がらなかったろうな。


 よし、階段が出来たなら長居は無用だ。さっさと上に昇るとしよう。俺は素早く棺の階段を昇って、上げ蓋の取っ手に手を掛けた。……棺の蓋が体重で抜けなきゃいいが。

 幸い、そう言った事もなく錆び付いた様な音を立てて、上げ蓋が開いた。懐中電灯で照らすと、数メートル上にまた天井が見えた。どうやらすぐ上が部屋になってるらしい。俺は懐中電灯をまず上の床に置いて、懸垂の要領で上によじ登った。


 上げ蓋の上の間は、六畳間くらいの狭い部屋になっていて、一角の壁に小さな台座と金属製の小箱が置いてある。あの落とし仔の間に置いてあったヤツに似ているので、少しイヤな予感を覚えたが、まあ、あんな怪物が潜める様なスペースも無いし、ここは覚悟を決めて小箱を開ける事にした。

 意に反して蓋はあっけなく開き、中には粘土板の欠片が入っていた。バックパックから例の粘土板を取り出して当てはめて見ると、やはりピッタリとくっついて一体化してしまった。形状にも依るが、多分これで半分くらいだろう。


 よし、これで東側の探索は充分だろう。俺は粘土板を仕舞うと、下に降りるべく上げ蓋の出口に向き直った。と同時にその上げ蓋から一匹の人面ネズミが素早く這い上がって来た。

 今更、人面ネズミに遅れを取る俺では無い。ポケットから素早く古の印を取り出して追い払う……つもりだったが、このネズミは古の印に全く怯む様子を見せずに突っ込んできた。


 痛い!


 ネズミの攻撃を避け損ねて、脚をかじられた。有り得ない事に、その一撃に痛みを感じた。バカな! これはVRゲームだぞ? 痛みを感じるなんて有り得ない。だが、再び飛びかかってきたネズミは今度は左の二の腕に食らい付いてきた。


 痛い痛い痛い痛い! やっぱり気のせいじゃない! これは明らかに異常な事態だ。こいつは普通のNPCじゃない! 俺は右手にナイフを持ち替えて、肩までよじ登ってきたネズミをはたき落とすみたいに、刃を突き立てた。

 軽い手応えがあり、ネズミは人間じみた悲鳴を上げて床に落ちる。だが今の声は……俺は懐中電灯をそいつの顔に向けた。そして、そいつの顔を見た瞬間……俺は恐怖と驚愕で頭が真っ白になり、そいつが逃げる前に蹴り飛ばして壁に叩きつけた。そうして完全に動きを止めたそいつに、執拗に何度も何度もナイフを突き立てる。


 ……ネズミは完全に死んだらしく、もうピクリとも動かない。だが俺は恐る恐るそのネズミの死骸を改めた。これは今までのネズミじゃない。古の印を恐れず、痛みを伴う攻撃をしてきた。それに、ここまでズタズタにしてしまっても、規制のボカシが掛からない。


 そして何よりも、この血とナイフの傷だらけになった、この顔。この苦痛と憎悪に歪んだ顔に、俺は完全に見覚えがあったのだ。


 それは、決してこの場にあるハズの無い、あってはならない顔……。俺はそいつの顔から目をそむける事も出来ずに、思わずそいつの名前を呟いた……


「九玄太……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ