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コズミック・ラビリンス(CHAPTER3:6)

 まあ、何も居ないし気のせいだろう。俺は懐中電灯の明かりを頼りに、東側の通路を進む。


 しばらく歩くと、また廊下の模様が変わってきた。今度は壁の表面に漆喰が薄く塗られて、その上から古代エジプトっぽい壁画と象形文字(ヒエログリフ)が一面に描かれていた。カタコンベから、一転ピラミッドへ模様替えだな。

 壁画のモチーフは、顔の無い黒いファラオの圧政と旧支配者への信仰の記録と言った感じかな? 所々に描かれたエジプトの壁画風にアレンジされた、クトゥルフやニャルラトテップ等の旧支配者の絵を楽しむ合間に、時折ワナや人面ネズミの遭遇があった物の、これらはこれまでに鍛えられた機転や古の印で難なく突破出来た。


 全くもって絶好調だ。今はこのゲームの中盤位じゃ無いかと思うが、こんなにサクサク進める様になるとは思わなかった。もし、この東側の分岐がさっきの西側と同じ位の規模なら、そろそろ真ん中を過ぎた位かな?

 なら、この先に待ち受けてるであろうイベントの難易度にもよるが、そんなに時間は掛からない筈だ。だったら、運が良ければ今夜中にはこのチャプターの攻略も可能だろう。

 だが油断は禁物。先を焦ってワナや怪物の奇襲を受けては意味がない。このチャプターに入ってからここまでは、ノーミスで来れている。出来ればこのツキと言うかテンションを維持したい。


 そう思い直して出来るだけ慎重に進む事にしたが、それからは大した襲撃もワナも無く、無数の棺が整然と並ぶ広間に入った。棺は古代エジプトの、いわゆる人形(ひとがた)棺じゃなく、チャプター1にあった様な樹脂製の無機質な棺だ。

 手近な棺の蓋に手を掛けてみたが、どれも鍵でも掛かっているのかビクともしない。ひょっとしたら、どれか一つ位は開くのかもしれないが、何十と並ぶ棺を一々試すのも面倒臭い。残りを調べるのは帰り道にする事にして、広間の奥にある一際立派な装飾を施されたアーチを潜る。その先は急な下りの階段になっていて、転げ落ちないように慎重に下ると、唐突にまた新しい広間へと入った。


 今度の広間は、これまででも一番広く感じるが、それ以上に天井が高い。高すぎて懐中電灯の光が届かない程だ。壁際には獣や蛸の頭を持った異形の石像が等間隔に、列柱の様に並んでいる。そして何よりも目を引くのは、広間の中央に鎮座ましましている、黒い石で出来たスフィンクスだ。


 これか、ピルグリム博士の手記にあった黒いスフィンクスってのは。あと、アルベルトもここで手こずってるって言ってたっけ? なら、ようやくヤツにも追い付けたってワケだ。

 えーと、たしか顔を見るなとか手記にあったっけ? そう思いながらも、ついチラッと磨き抜かれた漆黒の鏡みたいな何も無い顔を見てしまった。


 次の瞬間、このゲームの初期に感じた様な重圧感と倦怠感が、全身にズシッとのし掛かってきた。慌てて顔から目をそらすと、数秒置いて身体が軽くなった。

 何だこれは? 暗黒のファラオの呪いってか? だが、顔を見なければ効果は長続きしないみたいだ。ならばと顔を照らさない様に、明かりを下に向けてゆっくりとスフィンクスに向かう。その間にも、暗闇に包まれた顔の辺りから名状しがたいプレッシャーを感じて、思わず顔を照らしたい衝動に何度も駆られたが、どうにか自制心が勝ってスフィンクスの台座までたどり着いた。


 台座には、象形文字が書かれた小さな石板が嵌め込まれている。石板の表面と周囲の石には、血塗られた指の跡が幾つも付着していて、まるでこの石板を取り外そうとした痕跡にも見えた。

 嫌な予感がして周囲を照らすと、二体のボカシに包まれた死体を発見した。恐らくはピルグリム博士の仲間で間違いないだろうが、それよりも気になるのは、死体の周囲に勢い良く飛び散った血痕だった。


 それはまるで、高いところから床に叩き付けられたかの様な……


 不意に、頭上から大きな鳥が羽ばたくような音が聞こえて来た。正体を確かめようと懐中電灯を上に向けようとして、すんでの所でスフィンクスの顔を照らしてしまうリスクに気がついた。よって、上を照らさずにその場を飛び退く。次の瞬間、つい今まで自分が立っていた場所に何かが降り立つ雑音が聞こえたので、そちらに明かりを向ける。


 ……そこには、大きな一対の角と大きな翼、それに小さなトゲで覆われた尻尾を持つ、ヌラヌラと黒光りする顔の無い人型の怪物がいた。


 夜の(ナイト)ゴーント!? 何でこんな所に? あれか、顔の無いつながりってヤツか!?


 俺の戸惑いを余所に、ゴーントはゆっくりとこっちに近寄ってくる。これが、周囲に転がってる死体の答えだ。コイツに捕まったら最後、そのまま上空に持ち上げられて、十分な高度に達したら地面に投げ落とされて転落死してしまう。抵抗しようとしても、お得意のくすぐり攻撃で動きを封じられてしまうと言う、地味にイヤな怪物と言えるだろう。

 そんな俺の考えを察したのか、ヤツは軽く羽ばたきながら床スレスレを飛んで移動してきた。俺は慌ててホルスターから拳銃を抜いて、目鼻の無い顔面目掛けて一発お見舞いした。

 弾は顔面を僅かにそれて、右肩に命中した。ヤツは悲鳴を挙げる代わりに、明かりの届かない天井へと飛んで待避していく。これで退散してくれるか? と言う甘い考えは、再びこっちへと迫ってくる羽音によって打ち砕かれた。こっちに来る前に迎撃しようと思ったが、ここで上に明かりを向けるとまたスフィンクスの顔を照らしてしまう。

 ここは一先ず、壁際の石像の影に隠れる事にした。だが、どうする? 古の印で撃退するか? いや、ここが袋小路ならヤツにも逃げ場は無い。それに眼が無い相手に印が効くかどうか?

 なら、ここは拳銃で仕留めるべきか。よく耳を澄ませると、羽音は少し緩慢になっている。どうやら、さっきの一撃が効いてるみたいだ。コイツはタチは悪いが、それほど強い怪物ではない。なら、あと一発位で死んでくれないだろうか?


 そう思って懐中電灯でゴーントを探すが、ヤツは巧妙にスフィンクスの顔が明かりの範囲に入る様に飛び回るので、照準が付けられない。それに拳銃の扱いにも慣れてないし、自動照準も無いので、負傷してるなりに空中を飛び回る相手に狙いを付けられない。


 ならばと一芝居打ってみる事にした。スフィンクスの前に飛び込んで、ゴーントを探す風で懐中電灯を上に向ける。ただし、目線は万が一にも顔が見えない様に下を向く。

 それでいて、さもスフィンクスの顔を見てしまったかの様に、硬直したポーズを取ってみせる。さあ、これで引っ掛かってくれるか?


 ……頭上にゴーントの羽音がする。まだだ、まだ遠い。次第に音が近づいてくるが、ヤツもこっちを警戒してる様で中々降りてこない。もう、ここで仕留めるか?

 いや、確実を期す為にもう少し我慢だ。でも、頭上の羽音と、スフィンクスのプレッシャーで気が狂いそうになる。もう、この緊張に耐えられない! 結果はどうあれ撃って楽になりたい!


 いやいや、落ち着け。ロータスの香りをイメージするんだ。ゆっくり呼吸を整えて……。羽音がすぐ頭上に聞こえる。俺の頭にヤツが腕を延ばす気配を感じる。


 今だ! 俺は懐中電灯と拳銃を同時に上に向ける。そこにはゴーントの目鼻の無い顔面が一杯に広がって……


 この距離なら外さねえええええ! 俺は引き金を引く。拳銃の発射炎が、広間を一瞬白く染める。銃声と、トマトを潰す様な音が同時に響いて、頭を半分吹き飛ばされたゴーントは、糸の切れたマリオネットみたいに重力に従って、床に落下した。


 ……実に際どい勝利だった。もっと他にもスマートな倒し方があったのかもしれんが、今の俺ではこれが限界だった。ともあれ、勝ちは勝ちだ。他に新手が来る前にと、俺は素手とナイフを使って台座にガッチリと嵌まり込んだ石板を取り出す事に成功した。


 これで長居は無用だ。石板をバックパックに仕舞い込んで、広間を退散する。この石板が何の役に立つかは解らないが、これがこの東側の分岐で手に入るキーアイテムだろう。あとは、石碑の間に戻って最後の北側の通路に向かうだけだ。


 そう考えながら階段を上がると、さっきの棺が並ぶ広間に出た。一応またゴーントの類いでも潜んで無いかと、明かりを天井に向けると、そこに金属製の上げ蓋が見えた。

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