表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/67

VRメディアの大規制と俺の関係について

 そしてVRヘッドセットの電源を入れ直して、部屋に備え付けの電脳網接続端末(ホームナビ)に接続した。有線式の方が不意の電波トラブルには強いのだが、やっぱりコードが邪魔なんだな。だから俺も大多数のユーザーと同じく、コードレスのヘッドセットを愛用している。


 最低限の機能しか無い中古の安物だが、VRゲームへの大規制が施行された現在では、どんな機種を使った所で、得られるVR体験のクオリティに大した違いなんて無い。


 さっきもレビューに少し書いたが、今のVRメディアはゲームを中心に、世界規模で厳しい規制がかけられている。今から十年ちょっと前……俺が子供の頃に、VRゲームはMMOやFPSを中心とした黄金時代を迎えていたのだが、大人数のプレイヤーがログアウト不可になって、死んだり、植物状態と化してしまった事故や、現実と仮想の区別がつかなくなったバカ共が、様々な騒動や犯罪を引き起こす事例が頻発した。


 それで殆どの国で、VRゲームや体感型のVRムービーに大規模な規制が掛けられて、現実に匹敵する程のリアリティや、過剰に性的・あるいは残酷な表現。そして複数のプレイヤーが同時参加出来るタイプのVRゲームは事実上禁止されてしまったのだ。……ちょうど、俺がVRMMOをプレイ出来る年齢になったばかりの年にな。


 リアルな戦闘や対戦を体感出来るタイプの、刺激の強いVRゲームは、その当時からRー15指定が普通だった。小学生の頃から、コミカルなキャラと戯れるだけの、他愛の無いお子さま向けのVRゲームにウンザリしていた俺は、様々なメディアで流されてたド派手なVRゲームの広告にあこがれて、早く合法的にVRMMOをプレイ出来る十五歳になるのが待ち遠しかった。


 ……それが、いざ十五歳になった途端に、その全てが大規制によって取り上げられ、夢にまで見たVRゲームの黄金郷は、俺の前から永遠に姿を消してしまったのだ。


 まあそんな訳で、今のVRメディアの表現力は、リアルで体感できる感覚未満のレベルに抑えられてしまった。技術的には現実に匹敵するリアリティを演出出来るにも関わらず、あえて“作り物臭さ”を出さなければならなくなった。お陰で俺たちは、どこかハリボテめいた風景や、あからさまに手加減している敵キャラに囲まれたVR空間で、お遊戯みたいに安全なゲームばかりを与えられている。


 ゲーム対応型のVRヘッドセットの能力も頭打ちの現状で、それでも一部のコアなユーザー連中は、自らの“脳力”を鍛える事で、失われたVR空間のリアリティを補完しようとしている。


 つまり、より良いリアリティを得たいなら、手間暇をかけてヘッドセットを強化改造するよりは、自分の脳をVR空間に適応させた方が確実で安上がり……と言うわけだ。


 今の殆どのゲーマーは、VRゲームにそこまで真に迫ったリアリティを求めたりはしないが、大規制前の神クオリティが忘れられない古参(ロートル)や、若い世代でも、極小数の廃人(ヘビーユーザー)達は、むしろこんな時代だからこそ、出来る限りのリアリティを追求しようとするのだ。


 だから彼達は、VR環境に適応した脳力を得る為に様々な手段を試す。精神修行セミナーへの参加、合法薬物(サプリメント)違法薬物(ドラッグ)の使用、大脳皮質へのインプラント……その他モロモロ。


 俺はと言えば、確かに今のVRゲームに物足りなさを感じてはいるが、VR環境適応の為の脳力開発……って言うのも何と言うか、オカルトめいた胡散臭さを感じてしまうのだ。つまり、脳内にVRヘッドセットを通じて送られる体感データが同じなら、得られる体感に大差は無いんじゃないか?


 言ってしまえば、彼らが脳力の鍛練を積んで得たとされる、よりリアルなVR体験って……早い話が“気のせい”なんじゃないか? とかいった疑念が付きまとうのだ。


 ……どの道、貧乏人の俺にはVRゲームのリアリティを得るためだけに、薬物だの脳改造だのと、そこまで気合いの入った手段は取れないしね。


 おっと、VRヘッドセットとホームナビとの接続が終わった様だ。ゴーグルの内側のモニターにVRメディア検索エンジン“プロヴィデンス”のホーム画面が表示される。俺は部屋の中央を占拠している万年床に横たわると、馴染みのVRゲーム販売サイトへ“転送”する様に、口頭で指示を出した。


 すると、次第に意識が遠ざかり、視界を一面の闇が覆い尽くした。まるで明晰夢でも見ている様な浮遊感が全身を覆い、視界の片隅に青白い火花が閃くのが見える。その火花は次第に視界を覆い出して、視界を火花の光で埋め尽くす。


 俺の意識は、その火花の瞬きによって眩惑されて、ある種の高揚感を覚えながらも次第に薄れて行く。VR空間に入る直前の、この一種のトランス体験は、VR体験とは別の一種の恍惚感を俺に与えてくれる。


 バチッ! 


 ……と言う軽いスパーク音と共に、青白い閃光が虚空の漆黒に変わって視界を満たし、再び目蓋を開けると、俺は人工的に作られた異世界……VR空間にいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ