コズミック・ラビリンス(CHAPTER3:5)
今日もお馴染みの中華屋で飯喰って帰宅。いつも通りシャワーをすませて……さて、今日もコズミック・ラビリンスを続けたものか。
昼休みにアルベルトからのメッセージを受けて以来、ずっとそれが気に掛かっていた。一応、晩飯を食いながら、パーソフォンでコズミック・ラビリンスについて色々検索してみたが、元々がマイナーなVRゲームな為か、マトモな情報が殆んど出ない。評判や感想を検索して真っ先に出てきたのが、俺や九玄太等が書いたStormのレビューなのだから、お話にならない。
メーカーのスターリィ・ウィズダム・エンターテイメントってソフトハウスについても、検索して本社サイトに行ってみたが、これがまた、二十一世紀末とは思えない位の超シンプルなサイトで、本拠地がアメリカのボストンにあると言う事と、コズミック・ラビリンスが、ここが唯一リリースしたゲームだと言う事ぐらいしか判らなかった。
要するに、具体的な事は何も判らなかったと言う訳で、あの九玄太の最後や、アルベルトからのメッセージを考えると、このままゲームを続ける事に少しだけ躊躇いを感じたが、それでもここの処、俺を熱中させている、この魅力的なVRホラーゲームを、不確かな疑念だけで中断するのは忍びなかった。
確かに、このゲームを始めてからしばらくは、変な悪夢を見たり体調が優れなかったりもしたが、それも慣れるにしたがって軽くなってきたし、何よりもロータスとミードゴールドのお陰で、今日は心身共に快調だった。
それにアルベルトが色々調べてくれるって言ってるし、奴が何か有力な情報をもたらしてくれるまでは、少し位ゲームを続けてても良いだろう……あと、この間にゲームの進捗で奴に追い付き、追い越せるかもしれないしな。
だから、まあせめてキリの良い所……このチャプター位は、とりあえずクリアーしても良いんじゃ無いかな? 等々、あれこれと理屈を付けてみたが、早い話が、俺はこのゲームの続きが気になって、一刻も早くプレイしたくて仕方がないのだった。
そんな風に自分を納得させると、すぐさま電気香炉のスイッチを入れて、ロータスの甘いアロマが部屋に満ちるのを待つ。VRヘッドセットを装着して仰向けになり、呼吸を整えて……いざVR空間へ!
目を開けると、例の石碑の間に立っていた。今日は一段と感覚が冴え渡り、周囲のグラフィックもナチュラルに見える。腕を振ったり、屈伸したりしても、これまでみたいな重さや倦怠感を感じなくなってる。試しに広間を駆け回ったり、デタラメなステップを踏みながら不思議な踊りを激しく踊ってみても、身体に違和感一つ感じない。
今や俺は、このVRゲームの空間内で、自由自在に動き回れるまでに成長していた。こんなに早く成果が出るなんて、ロータスとミードゴールドと、これを教えてくれたサキトにはマジで感謝だな。一番ソフトな効き目のロータスアロマでこの効き目なら、次からは覚醒成分を含んだロータスを試してみても良いかもしれない。
さて、まずは前回早く寝たいからと、検分が疎かになってしまった戦利品を確かめてみようかな。そう思って、バックパックから前回手にいれた翡翠の護符を手にしてみる。
見た感じは直径が十五センチ位の、翡翠で出来たメダルと言った形状をしている。全体に精巧な細工が施してあって、その様式は落とし仔の間にあった青銅の鉢に施されていた彫刻に近い。材質が翡翠と言う事もあって、これも中国の玉器を連想させる。
ただ、護符に大きく描かれたモチーフは、今度は中国のイメージとはかけ離れて、このゲームの舞台である古代オリエントや、あるいは古代エジプトを連想させる怪物が彫刻されていた。
……何だろう? 翼の生えた犬か狼? あるいはアヌビスの頭を持つスフィンクス(翼付き)? 何か見たことがある様な無い様な……。ともあれ、その犬の表情は、憎悪とも憤怒とも言い知れない邪悪な印象を放っている。そして護符の底辺には、これまた不吉な印象を受ける髑髏が刻まれていた。
その反面で、裏側には何も刻まれて無く、多少のキズはあるものの、のっぺりとした表面を見せるのみであった。後は、護符の上部に穴が空けてあり、そこに金の鎖が通されていて、多分、首から下げられる様になっているらしかった。
これは……どうなんだろう? 護符に刻まれてるレリーフは明らかに不吉なんだが、こうして首から下げられる形状になってるって事は、ポケットの中の古の印みたいに、バックパックに仕舞い込んでたら、とっさの時に間に合わなくなるって事なのかもしれない。
まあ、今まで両手が武器や明かりで塞がってる事が多くて、とっさの時に一々バックパックからアイテムを取り出す暇が無かったと言う経験から、ここは試しに首から下げてみる事にした。
結構ズッシリとした重みがするが、今なら行動に支障は無さそうだ。これが初プレイ時の俺だったら、首からデッカいボーリング球をブラ下げられたみたいになって、全く身動きが出来なくなってたろうな。
ともあれ、これで準備完了! 俺は意気揚々と東側の入り口を下った直後に、背後に何かの気配を感じて、素早く振り返ってみたのだが、そこには何も居なかった。
おかしいな。確かに、獣か何かの息遣いが聞こえた気がしたんだが……




