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コズミック・ラビリンス(CHAPTER2:CLEAR)

 てな感じで、俺は何度目かになるヘドロ野郎……無形の落とし仔の広間に降り立った。


 ロータスが早速効いてるのか、例の圧迫感が少し減ってる様に感じる。身体も若干スムーズに動かせてる気がする。単なるプラシーボなのかも知れないが、もしそうなら我ながら安上がりに出来ているモノだ。

 さて、ぐずぐずしてると時間切れで落とし仔が動き出すかもしれない。アルベルトは、注意深く調べれば簡単に脱出出来るとか言ってたが……まだ探して無い所があるのか? とは言え、壁も床もあらかた調べたと思うんだが。


 当てもなく懐中電灯で周囲をグルグルと照らすと、三本の脚で支えられた、落とし仔の入ってる鉢の真下の床が、光線が当たっても石畳を照らし出さず、暗いままなのに気がついた。


 まさか……


 一応落とし仔に警戒しながら鉢に近づいて屈み込むと、鉢の真下に人が入れる位の穴が空いてるのを発見した。クソ! こう言う事か! 落とし仔を警戒して鉢に近付かなかったから、これまで気付かなかったのか。

 とは言え、この穴が本当に出口とは限らない。単純に落とし穴かもしれないし、落ちた先に別の怪物が潜んでるかもしれない。……まずは穴の中を確認するか。

 危険を侵して、床に腹這いになり懐中電灯で穴の底を照らす。今の所は落とし仔が動く気配を感じない。やはり箱に触れなければ大丈夫みたいだ……今のところは。


 穴は以外と浅く、ニメートルも無い所に石畳の床が見えた。落ちてきた犠牲者を串刺しにする針山の類いも無い。更に僅かだが風を感じる。と言う事は、穴を降りた先が新しい場所に繋がってる可能性がある。多分、これが出口で間違いないだろう。

 なら、どうする? 落とし仔はまだ動かないみたいだし、このまま穴を降りるか? でも、やっぱり祭壇の小箱も気にかかる。最悪、穴の先で必要になる何かが入ってるかも知れないし。今、開ける手段が無くても、この先で鍵か何かが手に入るかも知れない。だが、箱を取れば落とし仔が動き出す。


 考えることしばし。……よし、一応の作戦は考えた。穴の先がどうなってるか判らない以上、完全に賭けになるが他に手も無いし、一回これで試してみよう。

 おっと、そうだ。まずはアルベルトに教えて貰った通り、ナイフをベルトに取り付けて……出来た。これで、イザと言う時に素早くナイフを抜ける様になった。

 今回は片手が自由で無いといけない。左手は懐中電灯で塞がってるので、拳銃はバックパックに仕舞っとく。


 これで準備は完了だ。……後は覚悟だけ。これまでに落とし仔に殺された記憶が甦って、思わず身震いしたが、ここに留まってても同じ事だ。祭壇の傍に立って深呼吸を繰り返す。脳内にロータスの香りをイメージする。……よし、大分気持ちが落ち着いた。


 ……行くぞ!


 箱を右手でひっ掴むと、一気に鉢に向かってダッシュする。鉢の中から、早くも落とし仔がゆっくりと膨らむ様に姿を現す。予想通り、すぐには出て来ない。

 行ける! そのまま床をスライディングする様に鉢の下に潜り込むと、一息に穴に飛び込む! 着地に失敗して、尻餅をつく形になったが、頭上に気配を感じて素早くその場を離れる。


 間髪を入れずに、つい今まで自分がいた辺りの床を目掛けて、落とし仔の鉤爪付きの偽足が数本飛び込んできた。あと少し動くのが遅かったら、きっと捕まっていただろう。

 偽足は俺を探すかの様に床をまさぐってるが、ヤツは思ったよりも早くこっちを追って来てる。すぐに本体が降りてきて俺を見つけるに違いない。そうなる前に逃げないと。


 懐中電灯は、一直線に伸びる通路を照らし出した。他に道は無い。俺は通路をダッシュで進む。背後からは何か湿った音が悪臭と一緒に近づいて来る。振り向く暇も無く、必死で通路を逃げる。

 それにしても、ここまで自分でも驚く位、機敏に行動出来ている。一昨日までの自分じゃこうは行かなかっただろう。単にロータスが効いてるのか、それとも本当に俺の脳力も成長してるのか……


 などと感慨に耽る俺の眼前に、また青銅製の両開きの扉が現れた。だが、落とし仔の広間の入り口のとは違って、今度は完全に閉じられている。


 チャプター1のラストと似たシチュエーションだ。なら、ひょっとして近くの壁に……あった! 落とし戸を作動させるレバーだ! ……多分!

 引っ掛けのワナかも知れないが他に手も無いし、南無三! 俺は全力でレバーに飛び付いて、一気に引いた。次の瞬間、轟音と共に落とし戸が落ちて、背後の落とし仔と俺とを遮断してくれた。一瞬遅れて、落とし戸にビシャッ! と大きな不定形の物体がぶつかる音がした。


 間一髪で助かった。これでチャプター2もクリアか。……と思ったが、クリアを知らせる表示が現れない。まだ何かあるのか? と辺りを見回すと、落とし戸の隙間から悪臭を放つヘドロが、どんどん沸き出して来るのが見えた。

 そうか。不定形だから隙間から入って来れるんだ。まだチャプターは終わってない。俺は目の前の扉を開けようと力を込めた。だが、鍵こそ掛かってはいないが重く錆び付いた扉は、俺が通れる程度の隙間が開くまでには、多くの時間が掛かりそうだった。

 後ろを見ると、落とし仔は身体の半分近くをこちらに侵入させていた。もう時間が無い。じゃあ、どうすればいい? 結局、この小箱が頼りか? 開ける手掛かりを何か見逃したか? この錆び付いた蓋をどうやって開ける? どうすれば良いってんだよクソァ!


 ヤケになって小箱を床に叩きつけると、錆で腐食した箱は呆気なく砕け散った。……ああ、こーゆーので良かったんだ。


 バラバラに砕けた箱から、何か小さなモノが俺の足元に転がって来た。それは奇妙な五芒星の彫刻が施された、薄い灰色の小さな石だった。

 これは! 考えるより早く俺はその石を拾って、落とし仔に突き付けた。“神話”をかじった人間なら、この石が何を意味するか考えるまでもない!


 期待通り、落とし仔は怯えたかの様に身体を波打たせると、出てきた時よりも素早く、身体を隙間から退出させた。そして落とし戸越しに、ヤツが這いずりながら遠ざかる音が聞こえて、そのまま俺の視界が暗くなって行く……


 ……


 CHAPTER2:CLEAR!


 セーブしますか? (YES/NO)


 ……


 ……やった。俺は安堵のあまり、その場にくずおれた。まあ、とりあえずセーブするか。


 ……


 ゲームを続けますか? (YES/NO)


 ……


 どうするかな? まあ、まだ時間的にも心理的にも余裕はあるし、もう少しだけ進めるか。YESで。

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