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情報交換

火曜日

 俺はいつも通り、職場の食堂でパンをかじりながら、ボンヤリと時間を潰していた。


 ゲームの影響と夢見の悪さのせいで、今日も頭が重い。朝食代わりのエナドリも全く効果が無い。ウトウトしながら、なんとなくモニターのニュース番組を眺めていた。


 ニュースは、完全に日常の一部と化した猟奇殺人事件や通り魔事件を幾つか報じた後、とっくに見飽きてる大手動画サイトの面白動画を、さも最初に見つけたみたいに大げさに紹介して、海外のトピックスに移った。

 オーストラリアのグレート……何とか砂漠で、大規模な土地開発を行っていたリゾート企業が、どっかのカルト教団のフロント企業だった事が発覚して、現地政府とトラブルになってるとか何とか……


 マジ、どーでもいいわー。あまりの退屈さに、このままテーブルに突っ伏して寝てしまう所だったが、パーソフォンが振動して、メールが届いた事を知らせてくれた。何だ? Stormか、通販サイトのDMか?


 画面を開いてみると、Stormの俺のアカウントにメッセージが来た事の通知だった。Stormのアカウントにアクセス……。アルベルトからだ。コズミック・ラビリンスを教えてくれた事への礼が書いてあった。で、サキトもお礼が言いたいらしいから、今夜Stormのラウンジで会おうとの事だった。


 こりゃ、サキトのヤツ、怒ってるだろうな。苦笑しながらアルベルトに今夜会おうと返信して、紙コップのコーヒーを一息に飲み干した。さあ、あと四時間の辛抱だ。頑張るぞ!


 今日も残業無しで定時に退社。いつもの中華屋で晩飯を食って、鳥小屋に戻ってシャワーを浴びて、さあ、Stormにログインだ。


「よう」


「やあ」


「おう」


 お馴染みの三羽烏が、何時ものラウンジで挨拶を交わすなり、いきなりサキトが俺の頭を脇に挟んでグリグリし始めた。


「この野郎! オレがホラー苦手なの知ってて、ステキなゲームを紹介してくれるじゃねぇか」


「悪い悪い。お前のホラー嫌いをコロッと忘れててさ。まぁ、一杯おごるから許せ」


「ここの酒かよ! まあいいか。アルベルトも付き合え」


「はいはい。サキトも程々に。ラウンジ(ここ)じゃ、どんな理由でも暴力行為は御法度(ごはっと)ですよ。デコピン一発でBANされた人だって居たそうですから、用心しないと」


「おっと、いけねぇ。じゃあ、ここの酒とゲーム一本で勘弁してやんよ、ガリンペイロ」


「はいはい」


 何時もの軽口の応酬を交わしながら、今や俺たちの特等席と化している隅っこのソファーセットに腰かけた。今日は俺が率先して、マティーニを頼む。コズミック・ラビリンスに出会ったあの夜と同じ、記念すべき最初の一杯。

 乾杯して、一口舐める。……前回と違って、ジンの辛さと強いエタノールの刺激を微かに感じた……様な気がした。はは、まさかね。


「で、あのゲームどうだった?」


 俺が例のゲームについて聞いてみると、まずサキトが顔を露骨にしかめながら答えた。


「一応、最初の方だけやったけどよ。なんか入り口と棺桶が並んでる所で色々調べてたら、全部の入り口から、ゾンビか獣人みたいなモンスターがこっちに殺到して来てよ。慌てて強制ログアウトしたわ! 二度とやんねーよ!」


 やっぱり大廊下で時間を掛けすぎると、そうなるのか。俺が納得して頷いてると、こんどはアルベルトが感想を述べる。


「結構、手応えのあるゲームですね。VR脳力開発を謳うだけの事はありますよ。でも、今は黒いスフィンクスの所で手間取ってて……」


「待て! それはまだ俺の知らん所だ。……ちぇっ。流石に脳力開発やってるだけあって、俺より先に進んでるみたいだな。俺はまだ変なヘドロ野郎の所で手間取っててさ」


「ヘドロ……ああ“落とし仔”の所ですか。あれこそ、注意深く調べれば簡単に脱出出来るイベントですよ」


「マジで? まだ見落としてる所があるのかな……」


 俺とアルベルトの情報交換の間で、蚊帳の外に置かれた形になってて、少し退屈気味だったサキトが、ここぞと口を挟む。


「だから言ったろ。普段から脳力鍛えとけって。エナドリやサプリを変えるだけで、かなり改善するぞ。とりあえず、オレのオススメはだな……」


 アルコールの効果は勿論、味も香りも無いハズのカクテルを何杯も呑みながら、俺たちはまるで本物の酒に酔ったかのようなテンションで、安居酒屋みたいに、周囲を気にせず大声で雑談を続けていた。


「粘土板? それは知りませんでした。早解きに固執してたのが不味かったのかな? 今の所、何の支障も無いし、それはクリアに必要の無い“オマケ要素”なのかも知れませんね。とりあえず、一旦クリアしてから、また最初からプレイしてみますか」


 ゲームの進捗率で先を行かれてしまったアルベルトに、ようやく一本取る事が出来て満足した俺は、上機嫌で何杯目かのカクテルを飲み干す。でも、ゲームの進展に関係ないんだとしたら、あの粘土板は何に使うんだろう?


「では、お礼に軽いお役立ち情報を一つ。知ってましたか、ガリンペイロ? 最初の方で拾ったナイフは、鞘に付いてる金具でベルトに下げる事が出来るって事を」


「マジで!? それは知らんかったわ! これで一々バックパックからナイフを取り出さなくっても良いって訳だ」


「あと、拳銃のホルスターも入手出来るんですが、教えましょうか?」


「……いや、それは今はいいや。何でもかんでも教えて貰ったら、このゲームの意味が無いやな」


「なぁ、もうそのゲームの話はいいだろ? それより、今度出る“ランナー・イン・ザ・シャドウ:212O”ってのが、サイバーパンク系の良さげな……」


 そんな感じで雑談に夢中になっていた俺達だったが、ラウンジの入り口で、何やらザワついた声が上がったので、俺たちは一先ず会話を中断してそっちの方を見た。オートマタのウェイターの制止を振り切って、誰かがこっちに向かって来る。ラウンジにいる他の常連連中は、困惑した感じでソイツを遠巻きに見守っていた。


 まあ、俺が奴等だったとしても、ソイツに声を掛けたくは無いわな。何せソイツはゾンビみたいにヨタついた足取りで、何やらずっとブツブツと何か呟いていて、見るからにアブナイ雰囲気を漂わせている訳で。

 俺達もどうして良いか判らずに、ソイツが近づいて来るのをただ見守っていたが、両者の距離が狭まったお陰で、ようやく何て呟いているのかが聞き取れた。


「ガリンペイロ……ガリンペイロ……ガリンペイロ……ガガガリンペイロ……ガリンペイロ……ガリンペイロ……ガガ……ガリンペイロ……ガガガリンペイロロロロロロロロロロ……」

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