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ドラゴンテイルファンタジー(レビュー)

 まあ、ディストピアとか言っても、ビッグブラザーとか偉大なる将軍様とか、あるいは大富豪の大統領とかを称える、プロパガンダ一色のポスターもモニュメントも無ければ、面倒くさい全員参加の勤労奉仕(ボランティア)団体行事(マスゲーム)も無い。食料を含む生活物資も、今の所は配給制にはなっていない。


  ……もっとも俺みたいな底辺のダメ人間には、逆に配給の方が有り難いんだが。


 で、バイトを転々としている俺みたいな下級国民でも、働いてさえいれば、こうして狭い鶏小屋でVRゲームに(うつつ)を抜かせる程度の生活を、この国は与えてくれる。勿論、出世も結婚も望めないが、路上で野垂れ死ぬ事も無い。まったく有り難い事だ。


 もっとも、この生活が詰むギリギリのレベルで、何者かに飼い殺しにされている様な感じが、逆にディストピア感を醸し出しているとも言えるのだが……


 頭を振って、嫌な考えを無理矢理脳から振り落とすと、リサイクルショップで買った凹み傷だらけの冷蔵庫から、常備しているエナジードリンクを一缶取り出して、鎮痛剤や栄養剤の錠剤と一緒に喉に流し込んだ。


 VR空間に長くいると、どうしても心身が消耗する。そんな時には、食欲も減退するモノだが、かと言って何も食べないでいると、身体が衰弱して最悪死に至る。大袈裟じゃなく、そんなケースが過去に何件も起きている。


 すると、またマスゴミやVRメディア規制派共が「俗悪VRゲームの新たな犠牲者」とか何とか大袈裟に騒ぎ立てて、都合良く自分達のプロパガンダに利用するのだ。やっとゲームを含む、VRメディアに対する大幅な規制緩和の議題が、議会に上がり始めたこの時期に、それは大きなマイナス材料になってしまう。

 俺が死んだ後の事なんて、どうでも良いじゃないか……と言う人もいるだろう。だが、俺の何と言うか……オタクとしての信念が、それを許さないのだ。ほら、あれだ。「立つ鳥跡を濁さず」ってぇの?


 へへっ、俺って良いヤツ?


 ……自分で自分を誉めても虚しいので、エナジードリンクと安酒の空き缶だらけのテーブルから、電網接続携帯端末(パーソフォン)を掴んで、ゲーム配信販売サイトにアクセスすると、俺は今のゲームのレビュー欄に、今の自分の思いの丈を思いっきり叩きつけた。


 …………


 タイトル:ドラゴンテイルファンタジー


 メーカー:バンナム・エニクセア


 ジャンル:アクションRPG


 価格:五千円


 評価:⭐⭐   (五段階評価)


 レビュー:一言で言えば“良く出来た凡作”と言ったところか。公正に言って、この大規制後の時代にあって、ここまでのリアリティを出せたのは評価に値するし、あえてソロプレイに徹したゲームシステムも、決められたセリフしか返せない、お粗末な会話プログラムを積んだCG人形(オートマタ)の存在が、逆にリアリティを()ぐと言う、我々ヘビーユーザーの意見を尊重してくれたが故の配慮であろうと言うのも理解している。


 全くのVRゲーム初心者や、細かい事に拘らないライトユーザーならば、これでも満足出来るだろう。だが、僅かにでも大規制前のVRメディアを知っている者にとっては、やはり物足りなさを感じてしまう。


 大規制前のVRゲーム、とりわけVRMMOは偉大なジャンルであった。そこは、今の腑抜けたVR空間ではとても望めない程のリアリティに溢れ、冒険を共にする戦士や魔術師は、無機質なオートマタでは無く、中身は血肉の通った生身の人間だったのである。


 企業が作った有限の仮想世界とは言え、そこは現実世界の狭い生活範囲とは比べ物にならない程広大なフロンティアであり、血の通った仲間たちと、何処へでも行けて何でも出来る、電脳空間の黄金郷(エルドラド)だったのだ。


 高度なリアル表現と、同一ゲームへの複数人の同時接続という、両翼をもぎ取られた現状では、いくら頑張ってもテーマパークの参加型アトラクションレベルの、スリルと満足感しか得られないのが現状だ。


 こう言う事を書くと、すぐに


「何も日本だけに限った話じゃない」


「大規制下の制限された製作環境で、むしろ良くやっている方」


「今の与党がいる限り、何も変わらない」


「懐古趣味者の無い物ねだり。現状でもゲームとしてのクオリティは保たれてる」


 などの擁護レビューが大量に付くのである。ここはネット掲示板時代の偉大なる先達の言葉を借りて「業者乙!」と言わせてもらおう!


 お前らは解っていない! 年々悪くなるばかりの社会情勢。完全に常態化した異常気象。毎年の様に現れる新種の奇病に凶悪犯罪。地球規模のカタストロフが予測されていると言うのに、世界は結束するどころか二つの陣営に別れていがみ合い、戦争の噂さえ聞こえてくる。これだけの危機が明らかになっていながら、我々下級国民には何も打つ手がない!


 こんな御時世だからこそ、我々には現実を忘れられる、圧倒的な仮想現実世界が必要なんだ! クソみたいな現実を上書きする、ファンタジックな仮想現実世界が!


 確かにこれは現実逃避だ。しかし、俺たちに他に何が出来る? ただ面白いだけのゲームがしたいならパーソフォンで死ぬまでテトリスかマリオでもやってるわ!


 ……かなり脱線したが、これが全てだ。さっきも書いたが、VR空間のリアリティに拘らない層にはオススメ。システムやストーリーに破綻は無く、難易度もそこそこだから、暇潰し程度にはなると思う。


 あと、製作側に言いたいのだが、本編よりも重厚な追加シナリオや、真面目にプレイする気を削ぐ程の強力な装備やアイテムを課金販売する、あからさまな金持ち優遇システムは、いい加減にやめた方がいい。只でさえオワコン化してるVRゲームに残ってる僅かなファンさえ、失ってしまっても良いと考えてるなら話は別だが。(投稿者:ガリンペイロ)


 …………


 ……よし。俺はレビューの全文をもう一回見直して、差別用語や具体的な罵倒語が無いのを確認して、投稿するのスイッチをタップした。変な演説調の長文は、まあ、俺の持ち味って事で。


 さて、俺はレビューがちゃんとサイトのレビュー欄に掲載されたのを確認すると、パーソフォンの画面端の時刻を確認した。まだ宵の口だ。さっきのエナジードリンクと栄養剤が身体に活力を与えてくれたらしく、もう一本か二本はゲームをする余裕が出てきた。明日もバイトは休みだし、最悪夕方まで寝てしまっても問題ないだろう。


 俺は床に転がったVRヘッドセットを拾って、頭に被り直した。

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