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不愉快なレビュアー

月曜日

 ようやく昼休みになったので、俺は食堂の片隅で自販で買ったパンをかじりながら、壁に掛かった大型モニターのニュース番組をボンヤリと眺めていた。


 結局、昨日の休みも頭が重くて、一日の殆どを寝て過ごしてしまった。続けて変な夢を見るし……内容は覚えて無いが……今日も重い頭を抱えて午前中の仕事をどうにかこなしたばかりだった。


 ここは、俺が今勤めているバイト先の工場で、出稼ぎや移民の何(じん)とも判らない人たちに囲まれて、何に使うのかも判らない機械の部品の製造に携わっている。


 AIの発達により、人間様の大半は予想通りに二十一世紀のには仕事の大半を奪われたのだが、失業率の急激な増加を重く見た各国政府は、企業に対して一定数の人間を雇用する様に義務付ける法律を発した。俺たちのやってる仕事は、実際の所、二十世紀のロボットでも出来る単純作業なのだが、この法律の為に重要度の低い生産ラインでは、あえて手作業で出来る箇所を残していると言う訳だ。


 これも、このディストピア社会に溢れる数多の規制の一つなのだが、これは企業の効率を下げ、利益を侵害する一方で、俺達みたいなプレカリアートにとっては命綱みたいな存在になっている。“規制利権”なんて言葉が在るように、一つの規制にも得をする人間と、そうで無い人間が存在するのだ。


 なら、VRゲームを規制して得をするのは誰だ? ……まあいいか。頭が重くて考えられん。


 で、そこまでして人間様の為に空けて戴いた雇用枠なのだが、それなりにキツい工場勤務のせいか日本人はほとんどおらず、大半はさっき言ったように出稼ぎの外国人や移民が占めている。実際、この食堂も大半の席を彼らが占めていて、何語ともしれない大声の雑談が飛び交っている。そして俺を初めとする少数の日本人は、こうして隅っこで大人しくモニターを眺めてるか、パーソフォンを弄って時間を潰している。逆に自分達が見知らぬ外国に出稼ぎに来たみたいな気分だ。


 ……だが、俺は別に彼等に虐げられている訳じゃないし、差別とか何とか考えた事もない。実際に彼等は気さくで良い人達だと思う。よく働くし、仕事の事や簡単なコミュニケーションなら、普通に日本語が通じる人が大半だ。ただ、俺みたいなネット弁慶は、彼等の旺盛なバイタリティや押しの強さに勝手に圧倒されてしまうのだ。


 そんな事を考えながら、モニターのニュース番組をボンヤリと眺める。ニュースは、冥王星で大規模な生命活動の痕跡が見付かったとか言う、NASAの報告を特集で報じていたが、食堂にいる大半の人達と同じく俺にとっても、どーでもいいニュースだった。


 冥王星なんて遠い星よりも、まず地球をどうにかしてくれっての! ……等と心の中で毒づきながら、パーソフォンを手にする。Stormにアクセスして、昨日自分が書いた二本のレビューをチェックした。


 ドラゴンテイルファンタジーのレビューは、二十人中、十人のユーザーが“参考になった”と好評価をしている。それなりに注目度の大きいRPGだったし、こんなモノだろう。


 で、コズミック・ラビリンスの方は……三人中、好評価が二人に非評価が一人か。まあ、RPGとFPSが幅を効かせてる昨今において、ホラゲーに関心を持つユーザーもそんなに居ないか。そんな事を考えながらレビュー欄を見ると、新着レビューに見覚えのある名前が有るのに気付き、思わず「ゲッ」と声が出てしまった。


 …………


 レビュー:アレコレと無いものねだりの理想論を振りかざす、某懐古趣味者のG氏が珍しく強くオススメしているゲームなので、どんなモノかと試しにプレイしてみたものの……イヤハヤ。


 どう言い繕った所でこれは単なる操作性の悪い、只の古臭いVRゲームの域を出ないシロモノで御座いましょう。懐古趣味を拗らせて、カビの生えたホラーゲーム(これまた絶滅危惧種のマイナージャンル)に反射的に手が出てしまった、と言う所でしょうか。


 まぁそれにしても、ユーザビリティを無視した不親切なゲーム設計と、難易度を取り違えた輩の何と多い事か。VRゲームに人を呼び戻すには、かつてのソシャゲに負けない程の親切設計と、お手軽さが必須だと言うのに。VR脳力開発のごときは、正しい時代の流れに逆行する、単なる愚行であると申せましょう。


 よって、懐古趣味者とVR脳力開発論者の方々の目を醒まさせる為にも、評価は星一つ。本来ならばゼロかマイナスが必要なのですが、そこは仕様なので致し方無し。

 あと、理想を追い求める余りに、節操無くVR脳力肯定派に鞍替えしたG氏におかれましては、在りもしないVR脳力よりも、まずは知性を鍛える事が必要かと存じます。


 追記:とは言え、一応最後までプレイせずにレビューを完結させるのはレビュアーの名折れ。一応最後までプレイして、もし評価を改める要素があれば訂正、もしくは追撃レビューを掲載する所存で御座います。


 追記二:それともう一つ思い出したので追記をば。このゲームのジャンルは“ホラーRPG”等と銘打っておりますが、“ホラー”ではあっても、続くジャンルは“ADVアドベンチャー”か“ACTアクション”であって、少なくとも“RP(ロールプレイング)(ゲーム)”では無いでしょう。人気ジャンルから検索しやすい様にした狡辛(こすから)い努力なのでしょうが、かかる恥知らずなジャンル詐欺を平然と行う辺りも、減点材料の一つであります。(投稿者:清論亭九玄太)


 (十人中、八人が、このレビューが参考になったと評価しました)


 …………


 清論亭(せいろんてい)九玄太(くげんた)……。名前の通り“正論”に基づいて“苦言”を呈する、との触れ込みで気に入らないゲームを叩きまくる、所謂“名物レビュアー”の一人だ。

 俺は、あの和服姿の通人(つうじん)気取りが、Stormのラウンジでデカい顔をするのが、元々気に入らなかったのだが、ある時、VRゲームの嗜好の違いから激しい口論になって以来、お互い犬猿の仲となっている。


 それ以来、ヤツは俺の評価したゲームに“逆張り”するかの様な評価とレビューを投稿し続けている。恐らく、俺のレビューに非評価を叩き込んだのもコイツだろう。案の定、ゲームの評価は星一つだし。


 それにしても、不愉快なレビューだ。俺はVR脳力開発自体には、懐疑的だと書いたのに、このレビューだけを読んだ者は、俺が熱烈な脳力開発肯定派であるかの様な印象を受けるかもしれない。VRゲーム界が縮小しているこの御時世に、わざわざゲームのレビューを小まめに書く人間はごく限られている。読む人が読めば、“VR脳力肯定派に節操無く鞍替えした、某懐古趣味者のG氏”が俺だと言うのは一目瞭然だろう。


 ラウンジでは澄ましたツラをしている癖に、レビューではこう言う陰険な真似を仕出かしてくる。ここはヤツに対して反論のコメントをStormの掲示板に書き込んでやろうとも思ったが、きっとヤツは、俺のそうした反応を見て悦ぶに違いないのだ。こう言った構ってちゃんには無視が一番だ。俺は自分にそう言い聞かせると、パーソフォンをポケットに仕舞い込んだ。


 さあ、そろそろ午後の仕事だ。嫌な事は忘れて、チャチャっと片付けて定時で帰ろう。そうして早く帰宅して、コズミック・ラビリンスの続きをするんだ。俺は再び自分にそう言い聞かせて、残ったパンの欠片を怒りの感情と共に、無理矢理呑み込んだ。

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