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ぼっちなんだが、隣の転校生に心を読まれまくって困っている  作者: 志田 志摩
真夏のポーカーフェイス
9/17

違和感

新キャラ登場です

 夏の激辛カレーが作られていたキッチンは、混沌としていた。


 文奈と全力でこのカオスに挑んだのだが、そもそも妹と一緒にやろうとしたのが間違いだったのかもしれない。


 皿を割るだの鍋をひっくり返すだの、文奈がいろいろとヘマをしたせいで両親の帰宅に間に合わなかった。


 キッチンの有り様を見た母さんは、それはそれはビックリしていた。


 親父は母さんの爆発を恐れ、トイレに避難している。親父め、いかついのは顔だけかよ。


 文奈は凄く申し訳無さそうな顔をしている。それと恐怖に怯えて固まっている。


 この状況で母さんの爆発を食い止めることができるのは、俺しかいない。


 俺はすっと前に出、膝と手のひらと額を床にぺたっとつけた。これぞ、THE DOGEZA!


「母さん、ごめんなさい」

「渡?」

「この責任は全て俺にあります」

「お、お兄ちゃん……」


 なにやらキラキラした視線を感じる。何を勘違いしているんだ?


「どんな処罰も、我が妹が受けます」

「お兄ちゃんに期待したあたしがバカだった」


 キラキラした視線はトゲトゲに変わり、同時にため息も聞こえた。全く、勘違いも甚だしい。俺が文奈を庇う訳無いだろ。


「何を言ってんだ、どう考えてもお前が悪いだろ。それとお前は最初からバカだ」

「さっき全ての責任は俺にありますって言ってたのに! あとバカじゃない!」

「うるせぇバカ。責任を取って我が愛する妹を生け贄にするって言ってんだ。俺にとってはこれ以上ない重い処罰だぞ? ありがたく思えバカ」

「ツッコミどころが多過ぎるけど、とにかくバカって言うなー!」


 文奈が渾身のパンチを食らわせてきた。ちょっ、マジで痛いからやめて。


 そんな俺たちのやり取りを見て、母さんはフフフと笑う。俺たちにはそれが悪魔の微笑みにしか思えなかった。


 怖っ! というか何で俺たちはこんな状況でコントをしていたんだ、殺されるに決まってるだろ……。


 文奈が怯えてキュッと俺の服の裾を握る。当然俺も怖かったので、文奈の服の裾を握り返してやろうと思ったのだが、思いっきり叩かれた。


「ふふっ。二人とも、本当に仲良いわね」

『どこがっ!?』


 兄妹でハモってしまった。ってあれ? 母さん普通に笑ってない?


「これ片付けるのも面倒だし、仕方ないから今日は外で食べようか」

「えっ? ほんと?」

「ファミレスだけどね」

「ううん、全然いいよ!」

「あら? 文奈はそんなにファミレス好きなの?」

「あ、いや……そういう訳じゃ無いけど」


 多分、あっさり許してもらえたのが嬉しかったのだろう。俺もビックリだ。流石は母さん、滅多なことではキレたりしない。


 ということで、三人で近くのファミレスに行くことになった。


 席について、それぞれが注文を終えた。


「いやー、外食なんて久々だな!」


 おい、なんで親父がいるんだ。トイレに置いてきた筈だろ。


「ま、ファミレスだけどな」

「いいじゃないか、存分に食え。今日は父さんの奢りだ!」

「じゃないと困るんだが」


 テーブルに続々と料理が運ばれてくる。全員の料理が運ばれてきた所で、家族一同でいただきますをした。


 食事をしながら、月橋家の近況報告会が始まった。母さんと親父の職場の事、文奈の部活の事、そして、俺のリア充ハーレム生活の事。なんてものは存在しないので、俺の話題は特に無い。


「お兄ちゃんは友達できたー?」


 文奈がニヤニヤしながら聞いてくる。この妹め、バカにしやがってっ!


「あ? 当たり前だろ」

「だよね、できるわけないよね。考えてみればそれが当たり前だよね」

「誰が友達いなくて当たり前のクソぼっち童貞だって?」

「や、そこまで言ってないし」


 まぁ、この間まで正にその通りだったけど。ちなみに今は違う……よな?


「信じられないと思うが、俺にだって友達の一人くらいいるからな?」

「こんにちはー、橋立天乃でーす」

「そうそう、夜なのにこんにちはって言っちゃうアホな……ってええ!?」


 なぜか、月橋家が囲む長方形のテーブルの前に、ワンピース姿の橋立天乃、その人がいた。


「あ、そうだね。こんばんは、わたりくんのクラスメイトの橋立天乃と言います」

『……え? え!?』


 橋立はぺこりとお辞儀をした。

 俺を含めた家族全員が驚愕していた。


「あまのっちー、先行ってるよー」

「あ、うーん」


 どうやら、昼間の友達と来ていたらしい。なんだよ、てっきりサプライズかなんかだと思って俺の誕生日いつだったか確認しちゃったじゃねぇか。


「ええー!? お兄ちゃん彼女さんー!?」

「おい待て、そんなこと一言も言ってないぞ」


 文奈は驚きすぎて、恋愛右脳とアホ左脳をフル稼働させている。


「こ、これはこれは、その……渡がいつもお世話になっておりまする。渡の父でござりまする。以後なにとぞ、お見知り置きを」


 親父も驚きすぎて、大名の家臣みたいな口調になっていた。いや、テンパり方おかしいでしょ。


「…………」


 母さん、驚くのは分かるけどせめて何か喋ってくれ……。


 橋立は月橋家のメンバーをぐるりと見渡し、そして言った。


「あのー、ご家族でご飯食べているところ悪いんですけど、ちょっとだけわたりくんお借りしても良いですか?」


 片手で俺を追い払うような動作をしながら、親父は橋立の申し出に応える。


「あ、はいあげますよそれ」

「いや、俺の扱い雑過ぎでしょ」


 ……せめて返却期限は決めてくれ。


「わたりくん、話があるから、外行こ?」

「お、おお」


 話がある。なんかこのフレーズ、女子から言われる度にドキッとするよな。今初めて言われたけど。


「ちょ、ちょっと待って!」


 店から出ようとした俺たちを、文奈が引き止めた。


「えーっと確か……文奈ちゃんだよね?」

「あ、はい。あの……お兄ちゃんはこう見えて、思うほど悪くないというかまあまあというか……穴の空いた靴下くらいには役に立つというか……。だからその……」


 なんか文奈が俺を持ち上げようとしているが、全然上がっていない。だけど、文奈の思いは伝わってきた。


 俺たちは家族だ。俺に友達がいないのも文奈は知っているし、俺がどんな人間なのかも文奈は知っている。だからこそ、少しでも俺の良さを伝えようと、少しでも友達でいてあげて欲しいと思ってくれている。その気持ちが素直に嬉しい。


「うん、分かってるよ。文奈ちゃん」


 橋立も察したのか、文奈に笑って見せた。すると文奈は安心したようにそっと息を吐き、ゆっくりと頷いた。



 ◆



「良い妹さんだね。可愛いし」

「ん? まぁ俺の妹だからな」


 俺たちはファミレスから少し行った所にある、ベンチに座っていた。


「でも俺と違って超人気者らしいけど」

「へー、わたりくんの妹なのにね」

「ぐっ……さりげなくえぐってくる橋立さん、さすがっす……」


 天然、恐るべし。それにしても、本当に俺の妹とは思えないほど文奈は人気者だ。所属しているソフトボール部では、中学生とは思えないセンスでチームを好成績に導いてるらしいし、性格は俺の方からは何とも言えないが、まぁ明るい部類に入るだろう。それに容姿だって、俺に似てなかなかいい感じだし。俺に似て。


 あとは、もう少し兄に優しかったら完璧な妹だったのに……。俺としては、結構お兄ちゃん子に育てたつもりなんだがな。


「もうすでにかなりブラコンだと思うけどな」

「え? どの辺が?」

「うーん、何でもなーい」


 いやそれものすごく気になるんですけど……。


 ところで、話があるって言ってたよな?


「あ、そうそう忘れてた」


 ポケットの中から、スカイブルーのカバーをつけたスマートフォンを取り出し、橋立はニカーっと笑った。


「交換しよっ」

「お、おお!」


 メッセージアプリを起動し、フリフリする。すると『あまのさま』というユーザーが出てきた。追加ボタンをタップすると、『よろしくね〜』というユルいスタンプが送られてきた。それに俺は『よろしく!』と返信する。


 よ、良かったぁ……。一時はどうなることかと思ったが、これは正しく奇跡だ。激辛カレーが橋立の連絡先に化けた。サンキュー、文奈!


「あ、私とライン交換できてそんなに嬉しいんだー」

「え、ま、まぁそりゃな。初めての友達だし」

「とゆーことは私がわたりくんのライン友達第1号だね。はっはっはー、敬え敬え」

「ははー、あまのさまー」


 橋立は「あははっ」と可愛らしく笑う。あれ? なんか、いい感じじゃね? そんな手応えを感じた時だった。


「天乃さん……?」


 誰かが橋立の名前を呼んだ。声が聞こえた方向を見ると、そこには黒髪の乙女と言おうか、そんな少女が立っていた。


「す、すーちゃん!?」

「やはり天乃さんです!」


 二人は駆け寄り、両手を繋いでわーわーきゃーきゃー喜んで数年ぶりの再会感を醸し出している。ただ何というか、黒髪の乙女は全く笑っていない。というか、ほとんど無表情だ。


「またこの町に戻ってきてたのですね」

「うん! すーちゃんはずっとこの町に?」

「はい、今は○高に通ってます」

「○高!? 私もだよ!」

「そうだったんですか?」


 どうやら、昔からの友達っぽい。話からすると、橋立は昔この町に住んでいたそうだ。


「聞いたわたりくん? すーちゃんも○高なんだって!」

「いや、俺すーちゃん知らないし」

「天乃さん? 誰と話しているのですか?」

「へ? そこにいるわたりくんと……」


 すーちゃんとやら少女は、目をこすり、ぱちくりと瞬きをしてようやく俺を発見したようだ。


「あ、そんなところに弥勒菩薩(みろくぼさつ)像があったのですね」

「誰が弥勒菩薩だ」


 俺そんなに目細いか?


「紹介するね、私の友達の月橋渡くん」

「友達? あなたが?」


 すーちゃんは邪険な声を発し、明らかに俺を嫌がっている。しかし、表情は変わらず無表情のままだ。


「ほら、すーちゃんも自己紹介して?」

「……どうも、紐時(ひもとき)すすきです。天乃さんの親友です」

「ど、どうも」


 なんか、物凄く圧力を感じる。俺なにかしたっけ?


「ささ、天乃さん。こんな男は放っておいて私のと一緒に帰りましょう」


 そう言って紐時すすきは橋立の背中を押して俺から離れていく。


「あ、うん。それじゃあね、わたりくん」

「お、おー」


 歩いて行く二人の会話が聞こえてくる。その会話は特に何の変哲も無い会話だったが、俺は何か違和感を感じた。しかしその違和感の正体は、いくら考えても分からなかった。

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