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ぼっち生活に終止符を その2

 迎えた翌日。


 俺と橋立は、俺の存在を皆に認知させるための作戦会議を開いていた。


「で、どんな作戦なんだ?」


 アホな橋立のことだ、どんな作戦が来ても驚かないように構えておこう。


「なにそのファイティングニモ」

「ポーズだ。ファイティングポーズ」

「ふーん、まぁいいや。それで、いろいろ考えてきたんだけど、まずはこれかな」


 そう言うと橋立は、カバンの中から何やら紙で作ったようなものを取り出して天に掲げた。


「てってれー! かーみーでっぽー」


 うわぁ、似てねえ……。


 はしえもんが取り出したひみつ道具は、どこかで見たことがあった。


「紙鉄砲?」


 紙鉄砲ってあれか? アホなガキがアホみたいなでかい音出して人をアホみたいに驚かせるアホみたいなおもちゃか?


「そう。私のお手製だよ」

「そんなもの、何に使うんだ?」

「何って、アホみたいな音を出すんだよ」

「そんな事して何の意味があるんだ。アホか」

「もー! アホアホうるさい!」

「お前も言ってただろ」

「うっさいアホ!」

「ほらまた」


 ソッコーで脱線したが、気を取り直して。


「で、アホみたいな音を出してどうするんだ?」

「ふっふっふ。私の研究結果によると、大きな音が鳴ったらみんなビックリして振り向くのだよ」


 橋立は半ば当たり前のことを、これでもかというほど得意げに言った。


「……で?」

「だから、わたりくんが大きな音を出す。みんながわたりくんに振り向く。そして認知される。どう?」

「どうって……」


 シンプルにやりたくねぇ……。だって超恥ずかしいよコレ。


「えー? なんで? 大丈夫だよ、わたりくんならできる! よっ! 影薄! 現実お兄ちゃん! 髪薄!」

「髪は薄くない」


 あと現実お兄ちゃんって何だ……。


「もっとマシな作戦は思いつかなかったのか?」

「他にもあるけど……でもせっかく作ってきたし……」


 そう言うと橋立は、急に紙鉄砲を大きく振りかざした。


 パァン! という破裂音が耳に響いた。


「うわっ、何だよ急に」

「いやぁ、威力を確かめたくて。まさかこれ程とは」


 橋立は自分で鳴らした音にビックリしていたが、やがて手に握った紙鉄砲をしみじみと見て、そしてため息を漏らした。


「でもわたりくんが嫌って言うならやめたほうがいいかな……」


 橋立はしょんぼりして自前の紙鉄砲を撫でている。


 おいやめろ。そんな顔されると罪悪感でてきちゃうだろ。何でこんなことで罪悪感を感じなきゃいけないんだ。


 すると橋立は俺の心を読んだのか、「はぁー」と今度はわざとらしくため息をついて、俺をチラチラと横目で見てくる。


 そんなにやって欲しいのかコイツ?


「ああもう分かったよ。紙鉄砲が可哀想だからやってやるだけだぞ? 月橋さんの器の大きさに感謝しろ」

「ほんと? ありがとう!」


 橋立は人気沸騰中のにっこり笑顔を俺に見せた。すると何故か、俺の中にやってよかった感が滲み出てきた。ひょっとしたら俺は、この笑顔を見たかっただけなのかもしれない。


「はいはい。で、いつ鳴らせばいいんだ?」

「えーっとね、ほんとは授業中にやっちゃって欲しいんだけど」

「それは流石にマズイだろ」


 と言うか、ハードル高すぎるだろ。


「だよねー。だから一時限目の終わりの挨拶の後に、ソッコーで一発かましたる! ってのは?」

「なんでそんな微妙タイミングに……」

「ほら、授業終わった直後ってみんな気が抜けてるでしょ? そんな時に急に大きな音が鳴ったらみんな驚くと思うの」

「……確かに」


 不本意だが納得してしまった。細かいところだけ妙に考えられている。ま、そもそもこの作戦に効果があるのか微妙なところだが。


「分かった。じゃあはしえもんを信じるからな?」

「はしえもんって誰か分かんないけど、信じちゃってくださいよ!」



 ◆



 そして一時限目の終わり――


「本日の授業はこれにて終了。はい号令」

「気をつけ礼」

『ありがとうございました』


 挨拶と共に、皆ぞろぞろと立ち始める。橋立は「今だ!」と言わんばかりの視線を俺に向ける。


「まじだるかったー」

「ほんとそれなー」


 脱力感溢れる会話が聞こえる中、俺はまだ迷っていた。


 こんな事をしたら、クラスのみんなに冷たい目で見られるかもしれない。いや、それでも、認知されないよりマシだ!


 俺は決意を固め、紙鉄砲を力の限り振りかざした。


「パァン!」と巨大な破裂音が教室に響いた。衝撃で紙が破ける程の爆音に、教室にいるほぼ全員がビクッと反応する。


 手応えあり。


 俺は、一部のマニアから『ナイス爆裂!』と言われそうな爆音に、手応えを噛み締めていた。


 しかし――


「うおっ⁉︎」

「なに? 今の音」

「ビックリしたー」

「もーうるせぇなー」


 そんな会話が聞こえてきたが、誰も俺には振り向かない。


 え? 嘘でしょ? 鳴らしたの俺だよ? みんな振り向いて?


「あれれ? お、おかしいなー」


 橋立は困り顔で周りをキョロキョロ見ている。すると俺を気遣ったのか、大きな声をあげた。


「ねーみんなー、今の音何かなー」


 こいつ演技下手すぎだろ。ほぼ棒読みじゃねえか……。


 しかしその声に、男子達が応じる。


「あー他クラスのやつらじゃね?」

「最近イキってるしなー」


 イキってねーし! てか他クラスでもねーよ……。どんだけ薄いんだ俺……。


「……だってさ」

「いや、だってさじゃなくて……」


 橋立は申し訳なさそうな顔をして、俺を見る。


「失敗しちゃったね……」

「ああ、俺もまさかここまで影が薄いとは……」

「もっとわたりくんの影の薄さを信頼してあげれば良かった……」

「そんな信頼いらんわ」


 そんな訳で、紙鉄砲作戦は見事に失敗した。もちろん、橋立のせいでは無い。決して悪くは無い作戦だった。だが強いて問題点をあげるとするならば……


「これ、紙鉄砲じゃなくて良かったんじゃね?」

「え?」

「いや、わざわざこんなことに紙使わなくても、俺が大声で叫べばいいだけの話だったんじゃないかと思って」

「あ……」


 つまりはエコロジーの精神が欠けていた。それだけだ。


 だからこの作戦の失敗は橋立のせいでは無い。当然、振り向かなかったクラスのやつらのせいでもない。


 そう、この作戦が失敗した原因は他でもない、俺の影の薄さのせいだ。


 俺の影の薄さも、ここまで来ると異常だ。もしかしたら、橋立と同じような超能力的なものの一種なのかもしれない。


「あ、それはあるかもね」

「ねーよ」


 俺は破れてしまった紙鉄砲でぺちっと橋立の頭を叩く。


「いたっ! 今自分で言ってたんじゃん!」

「俺のモノローグは約8割が戯言だ」

「ほぼ全部じゃん」

「おう。だから俺が心の中でお前のこと可愛いとか考えたとしても、本気にしない方がいいぞ」


 って、何言ってんだ俺。影の薄さに対するショックで頭がおかしくなったのかもしれない。


「べっ、別に本気にしたことなんかないし!」


 橋立は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 なんだその反応、可愛いんだが。


 あ、やべ。


「い、今のも戯言だからな?」

「ん? 今何か言ったの?」


 あれ、気付いてないのか?


「ああ、いや……何でもない」

「え? なになに? どうしたのー? まさか、エッチなこと考えてたのー?」


 橋立は態度を一変させ、小麦色の髪をぴょんぴょんと跳ねさせながら、ニヤニヤ笑って迫ってくる。さっきとはえらい違いだ。


「な、何でもないって」

「ほんとにー?」

「ほんとだよ! い、いいから次の作戦行こうぜ」

「あ、そうだった」


 そう言って橋立はカバンの中からメモを取り出す。ふぅ……こいつがチョロくて助かった。


 それにしても、一つ目の作戦からこのザマとは。先が思いやられるな……。



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