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ぼっちなんだが、隣の転校生に心を読まれまくって困っている  作者: 志田 志摩
真夏のポーカーフェイス
17/17

日焼け

 プールの帰り道。美波さん、筒美さんと別れ、橋立天乃、紐時すすき、そして俺の三人。


 夕日を全面に浴び、プール後の独特の重力を感じながら歩く。


「わたりくんはまたチャンスを逃しちゃったねー」


 そう言いながら、橋立は背中をペチペチと叩いてくる。


「日焼けとのコンボでめっちゃ痛いからやめてくれ」

「チャンスって、なんのことですか?」

「わたりくんが他人にちゃんと認識されるチャンス」

「あー、そんな人もいましたね」

「真横にいますよ」

「今日はいろはちゃんとちさちゃんの二人と知り合いになれる筈だったのになー」


 そう言って、橋立はため息を漏らす。


「二人とも、わたりくんのこと完全に忘れてたって言ってた」

「それ以上言わないでくれ……」


 涙が堪えきれなくなる。


「それにしても、月橋さんはほんとにダメですね。女の子四人と男子一人でのプールなんて滅多にないのに、何も起きないなんて」

「いやそれは……」


 起きてないとも言えなくもないんだよな。橋立とウォータースライダーを滑った後のあれ。橋立はどう思っているのだろうか。


「ヒモ男から、非モテ男にレベルアップしましたね」

「それは多分レベルアップじゃねーしそもそもヒモじゃねぇ!」


 非モテは潔く認めよう。僕は非モテです。


 ふと思った。


 当たり前かもしれないが、モテる男って存在感あるよな。モテる=存在感あるという法則じみたものがあるのかもしれない。


「なぁ、どうやったらモテると思う?」

「モテたら存在感上がるかもって?」

「そういうこと」


 橋立は少し黙ったかと思うと、下を向きながら言った。


「み、身近な女の子に優しくする……とか……かなぁ」

「身近な……」

「ほ、ほら! 身近な女の子に優しくすれば周囲の印象も良くなるんじゃん!」

「良くなるじゃんと言われてもな……」


 でも確かに、誰かに親切にしている人を見ると好感が持てる。というのはあるかもしれない。


「身近な女子か……」

「そう! わたりくんの一番身近な女の子!」


 一番身近な女子……今までで一番多く接している女子……母さんか? いやあれは女子じゃないな。ならば……


「文奈か」

「えっ……あっ」

「え?」

「あ、いや……そ、そう! 文奈ちゃん! まずは文奈ちゃんに優しくしないと!」

「お、おう」

 

 橋立の顔は、夕日だか日焼けだかで朱に染まっているように見えた。


「じゃあ、文奈に優しくしてみるか」

「うん、それがいいよ……」


 その後、特に会話も無いまま十字路に差し掛かった。


「では、私の家こっちなので」

「おう、じゃあな」

「私も、今日はここで」

「え? 橋立の家ってここ真っ直ぐじゃ……」

「ちょっと……買い物したいんだ。じゃね、二人とも」


 小さく手を振り、橋立は向かって右側の道を歩いて行く。


 買い物って……そっちになにか店あったか?


「月橋さんは……非モテですね」

「いや分かってるって」

「ならいいのですが……それでは」


 お辞儀をして、紐時は向かって左側の道を歩き始める。


 ……俺も帰るか。


「……今日は」

「ん?」


 立ち止まり、後ろ姿で紐時が何か言った。


「……楽しかったです」

「……そうか」


 言いたい事を言ったのか、再び紐時は歩き始めた。


 彼女の小さな姿は、やがて陽炎にのまれ見えなくなった。



 ◆



「ご飯よー」


 家に着くなり、母さんの声が耳に入った。時刻は7時を回っている。


 手を洗い食卓につく。


「いただきます」

「いや、誰だお前」

「え?」


 親父はポカンと口を開けている。


 ああ、この日焼けのことか。まぁこんなにがっつり日焼けしたのも久しぶりだしな。


「アメリカ人!?」

「違う」

「体育教師!?」

「違う」

「湘南人?」

「いや湘南人ってなんだよ……」


 イメージだけで物を言う文奈節が炸裂する。特に湘南人って……。湘南の人が皆サーファーって思ってやがる。


「ただの日焼けだ」

「日焼けだと……」

「日焼けしたお兄ちゃんなんて初めてみたよ……」

「初めてってことはないだろ」


 親父は未だに半信半疑だが、文奈は「めずらしー」とか言いながらジロジロ観察してくる。いや珍しくないから。毎年少しくらいは日焼けしてるから。


「まぁいいじゃない。渡だって日焼けくらいするわよ」

「母さん……」


 流石母さん。息子が日焼けしたくらいで騒いだりしない。


「それで、どこの日焼けサロンに行ったの?」

「行ってねぇよ! プールで日焼けしたんだよ!」

「プールぅ!?」

「あーもうめんどくせぇ! この話終わり! もう質問とか受け付けねぇ!」


 俺の言葉を境に、その後の食卓に会話は無かった。だがそれでいい。この家族はめんどくさい。


「お兄ちゃん」

「なんだ」

「からし取って」

「おう……どこだ?」


 食卓を見渡しても、からしはどこにも無い。


「冷蔵庫の中」

「それは取ってじゃなくて取ってきて……分かったよ」

「え?」


 冷蔵庫を開け、中からからしを取り出す。それを食卓に戻り文奈に渡す。


「ほらよ」

「あ、ありがと……どうしたの?」

「どうもしてねーよ」


 身近な女子には優しくしないとな。存在感アップへの第一歩だ。


「そういえば文奈、そろそろ夏の大会じゃない?」

「うん」

「調子はどう?」

「いい感じだよ。やっぱり最後だから、今みんなでーー」


 文奈は、所属しているソフトボール部のことについて母さんと話し始めた。


 ……へぇ、最後の大会か。

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