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ぼっちなんだが、隣の転校生に心を読まれまくって困っている  作者: 志田 志摩
真夏のポーカーフェイス
15/17

炎天の下で

更新遅くなりました。


訳あって、堤さん→筒美さん に変更しました。読み方はつつみのままです。

 プールから一度上がると、身体からポタポタ水が流れ、水も滴る良い男感が醸し出される。


 大きめのパラソルが点々と設置されている休憩ポイントへ行くと、紐時すすきが体育座りをしてプールを眺めていた。下にはシートが敷いてある。


「よ、何やってんだ?」

「わっ、月橋さん。……別に、ちょっと休憩していただけです」

「ふーん。他のみんなはどこ行ったんだ?」

「またウォータースライダーに行きましたよ」

「紐時は行かないのか? あ、さてはお前、ウォータースライダーが怖かったんだな? なんか悲鳴上げてたし」


 俺がそう言うと、紐時はジト目で睨んできた。


「あれは違います。ただちょっとびっくりしただけで」

「つまり怖かったんだろ?」

「怖くなんてありません! あなたみたいな言語の意味も理解せずただぴーぴー叫ぶだけの下等生物とは一緒にしないでください! しかも……そんな下等生物が天乃さんと一緒に滑るなんて、この私が駆除します!」


 紐時は手をグーに握り、無表情ながらも確実な殺気を垂れ流す。下手したらウォータースライダーより怖いぞこれ。


「い、いやあれはその場の流れというか、知らないお兄さんのせいというか。もし俺じゃなくて紐時が、橋立の後ろに並んでたら、橋立はお前と滑ってたと思うし、だから変な意味は無いから。な? 分かったらそのグーをチョキかパーにして?」


 俺が頑張って釈明すると、紐時は「……分かりました」と言ってグーに握っていた手をゆっくりと降ろした。あ、チョキにするんだ。


「理解が早くて助かるよ」

「物事には道理というものがあるのです。普通に考えて、天乃さんがあなたの様な下等生物ランキング上位者と好んでウォータースライダーを滑るとは考えられません。つまり、天乃さんは嫌々あなたと滑ったのです。本当の気持ちを隠しながら……ああ、可哀想な天乃さん」

「もはや俺が一番可哀想だよ……」


 下等生物ランキング上位者って何だよ。なんかちょっと面白いよ。


「今日はやけにいじめてくれるな。俺の心はよく耐えてるぜ」

「何を言ってるのですか。その心は何のためにあるのですか」

「……少なくとも、いじめられるためじゃねえよ?」

「そうなのですか!?」

「そうだよ!?」


 驚かれてしまった。これは根底から俺へのイメージを変える必要があるかもな。


 それにしても、暑い。


 プールから上がって間もないというのに、身体を流れていた水滴は既に蒸発しきっていた。無防備になった俺の肌を、太陽はギラギラと照りつける。


「紐時、そのパラソルの中ーー」

「ダメです」


 速攻で拒否されてしまった。まだ言い切っていなかったのに。


「このスペースは天乃さんとその他大勢が座るためのものなのです」

「その他大勢って言うな……」


 失礼極まりない。


 やはりこの少女は、橋立だけしか見ていないのだろうか。


「プール、楽しめてるか?」

「……はい。天乃さんと遊ぶのは、やはり楽しいです」


 天乃さんと、ねぇ……。


「美波さんと筒美さんとはどうだ?」

「……まあまあです」


 言葉とは裏腹に、紐時は少し俯いていた。


 俺は、紐時は美波さん、筒美さんと仲良くしているように見えた。だが紐時はそうは思っていないようだ。


 決して、紐時が二人を嫌ってる訳ではない。二人とも気さくで、親しみやすいように思うが、どうも紐時はのびのびとしていられないようだ。理由があるとは言え、今もこうやって孤立してしまっている。


「本当は……天乃さんと二人で遊びたかったです」

「おお、第三者がいる前ではっきり言ったな」

「欲張りだってことは分かっています。意地が悪いってことも分かっています。でも、それでも、私は天乃さんと一緒にいたいです」

「…………」


 言葉にはしなかったが、その気持ちはよく理解できた。


 友達とは、一緒にいたいものだ。俺もついこの間、初めてそう思えた。だからその気持ちは、痛いほど分かる。


「でも天乃さんは私を置いて、いつも私以外の人と、どこかへ行ってしまいます」


 言いながら、紐時は俺を見つめてきた。


 え、俺なの?


「まぁ、友達はみんなのものだからな。独り占めはできないんだよ。それと、別に紐時を置いて行ってる訳じゃないと思うけどな」

「それは……分かっています」


 確かに、あんまり友達多いタイプじゃなさそうだしな。でも、だからと言って、紐時は孤立するような奴には思えないけど。


 やはり、橋立に固執し過ぎているからだろ

うか。決して悪いことでは無いが、紐時ならもっと広い関わりを持てると思う。


「……好きな友達とずっと一緒にいたいのなら、他の友達とも仲良くなる必要があるのかもな」


 気付いたら、そんな言葉を口にしていた。


「え?」

「い、いやほら、もし好きな友達が他の友達と何かをする時、他の友達とも仲良くなっていれば、仲間に入れるだろ?」

「確かに……その通りです」

「そしたら、次はその友達のことも好きになれるかもしれないし。何というか、友達の連鎖?」


 乏しい語彙力で何とか言葉を紡いで行くが、紐時の表情はパッとしない。


「確かに、普通の人ならそうなるのかもしれません。でも私は、普通なんかじゃないのです」

「え?」


 普通じゃない? なんだよそれ。どういうことだ?


「月橋さんも、分かっているはずですよ」

「え? な、何が?」


 紐時は一息置いて、いつも通りの、としか言い表せない声音で、言葉を漏らした。



「私には、表情が無いのです」



 しばらく、耳を刺すような沈黙が続いた。


「ーーは?」


 動揺が、声となって表れた。


『表情が無い』


 その言葉は、俺の胸を深く突き刺した。


 表情が一切無い人間なんて、いる訳が無い。


 そう強く否定したかった。してやりたかった。しかしできなかった。


 何故なら今、目の前に座り込む紐時すすきの表情はーー


 いつもと何ら変わりの無い、無表情だったのだから。

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