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ぼっちなんだが、隣の転校生に心を読まれまくって困っている  作者: 志田 志摩
真夏のポーカーフェイス
13/17

プール

 橋立天乃、そして紐時すすきと共に買い物に行ったあの日から、数日が経った今日。


 俺は、沢山の人が出たり入ったりで忙しない、とある出入り口で、一人呆然と立ち尽くしていた。


 熱帯地域顔負けの暑さにも関わらず、なぜこんなにも多くの人がこの入り口へと入っていくのか。その答えは一つ。この先に、この暑さを緩和するどころか打ち消し、それどころか人々を最高のエンジョイタイムへと(いざな)う、魔法のオアシスがあるからだー! ……あー、暑い……。


 俺は今、地元の駅から数駅行った所にある、大手アミューズメント会社が経営している巨大アミューズメントプールに来ている。


 なぜこんな所に一人で突っ立っているのかというと、それはあの日――三人で買い物に行った日の帰りまで遡る。


 あの日の帰り、橋立は、電話で友達と遊びに行く約束をしていた。そこまではいい、問題はその後だ。電話を切った後、橋立はにこにこしながら、俺と紐時に「一緒にプール行こ?」と誘ってきたのだ。


 俺はすぐに察した。これは「(私の友達と)一緒にプール行こ?」だということを。そしてその友達とやらは、女子だということを。


 橋立大好き人間の紐時は、その誘いにすぐに乗っかったが、当然俺はそうは行かず、最初は遠慮していた。しかし自宅に帰ってから、橋立からチャットアプリで猛アタックを喰らい、渋々OKをした。


 その後、プールの場所を伝えられ、日時を伝えられ、持ち物等を伝えられ、メンバーを伝えられ……気付いたらこの場所で絶賛待ち合わせ中……って何ちゃっかり乗せられてんだ俺……。


 ちなみにメンバーは、橋立、紐時、そして橋立の友達の美波(みなみ)さん、筒美(つつみ)さん、そして俺、月橋 渡(つきはしわたり)くんの5人。


 美波さんと筒美さんは俺と同じクラスらしいが、クラス全員の名前を覚えている訳ではないので誰かは分からない。故に、男子か女子かも分からないのだ。誘われた当初は、橋立の友達というのだから女子だとばかり思っていたが、それはあくまで固定観念に過ぎない。ということは、美波さんと筒美さんはもしかしたら同性かも知れない。


 橋立と電話していた声は明らかに女子の声だった。なので男子だとしたらどちら一人だ。まぁ、男子がいたところで何も変わらないか。影が薄い俺はぼっちで水遊びか、せいぜい水中ドッチボールとかいう訳わからないスポーツの審判をやらせて貰うくらいだ。あぁ、やっぱり来なければよかった……。


 ネガティブ思考に陥りかけた、いや陥っていた時、向こうから橋立と紐時、そして女子二人が歩いてくるのが見えた。この瞬間、俺の淡い期待は無残にも砕け散った。


「あれー? あまのっちが言うてたわたりくんはどこにおるんー?」

「もう来てると思うんだけどな」


 いや、すぐ目の前にいますよー。


 紐時とチラッと目があった。


「どこにもいませんね、遅刻でしょうか?」

「おい!」


 さらっと無視しやがって。


「わたりくん! いつ来たの?」

「いや、ずっといたって……」


 俺の出した声でやっと気付かれた。このまま一生気付かれないかと思ったぜ。


 美波さんと筒美さん、どっちがどっちかは分からないが、二人とも見覚えがあった。同じクラスなんだから当たり前か。


「どうも、月橋渡です」


 一応、ノーマルに自己紹介をする。すると、二人とも返事をしてくれた。


「君がわたりくん? ウチは美波いろは! よろしゅうな! 君、友達一人もおらへんやって? ほんならウチが友達になってあげんで?」


 一人はいるけどな。


「はじめまして月橋くん。私は筒美千紗(ちさ)。よろしくね」


 はじめましてじゃ無いけどな。


「それにしても男を誘うなんてなー。やるやん! あまのっち!」

「え? なにがやるの?」


 美波さんは、関西出身なのか、関西弁で話している。その容姿はギャル感満載で、肌は小麦色に焼け、髪の毛は金髪、おまけに胸がでかい。まさに関西ギャルだ。


「ねー、私もビックリしちゃったよ」

「え? なんで?」


 筒美さんは清楚なイメージで、綺麗な顔立ちに黒髪ロング。男子からの人気も高そう。


「私もまさかこんな色男を呼ぶとは思いませんでした」

「え? 色男? 俺が?」

「間違えました。ヒモ男です」

「誰がヒモだっ!」


 紐時はいつも通りだ。橋立以外の女子からどんな反応をされるのか気になっていたが、とりあえず嫌な感じではなさそうだ。


「あのー、男が来てよかったの?」


 しかし向こうからすると、やはり女子がお望みだったのだろうか。なんかすいませんね。こんな男が来ちゃって。


「ウチはかまへんよ? 男が襲ってきたところで殴ればいいだけの話やし」

「いや、襲わないって」

「うん、私も平気だよ」

「あ、ありがとう」

「調子に乗らないでください月橋さん。私は月橋さんなんて――」

「あー、お前はいいから」


 おお、女子三人相手に、なんとか対応してるぞ俺。すげぇ……。


「おしゃべりはその辺にして……いざ行こう! オアシスへー!」

『おー!』


 橋立が入り口を指差しながら声を上げ、他の三人がそれに応える。


 テンション高いな……。俺はこれについていけるだろうか。



 ◆



 更衣室で着替えを終え、いざプールへ出た。屋外なので日差しは強いが、それよりも俺は、巨大なウォータースライダーに目を奪われた。


 高ぇ……。ありゃ100メートルはあるな。まさかあれを滑るなんてことはないよな? 俺、多分死ぬよ?


「わー! すっごい大きいね!」


 橋立の声が聞こえた。振り向くと、女子軍団が着替えを終えて登場していた。


 橋立の水着はこの間買っていたものだ。一応おさらいをすると、フリルのついたイエローのビキニだ。


「せやな〜、ありゃ100メートルはあるわ」


 美波さんは紺のビキニ。シンプルだが身体のラインが強調されている。胸なんてもう犯罪レベルだ。あれ見て死なない男子は俺くらいしかいないだろう。


「流石にそんなないって〜」


 筒美さんは白のワンピースタイプ。清楚でおしとやか感が醸し出されている。男子にトキメキをプレゼントしてくれるタイプだ。


「せいぜい20メートルといったところでしょうか」

「へーそんなもんか。ところで紐時、なんでお前はスク水なんだ?」


 紐時の水着は、スク水だった。おいおい、一言で終わっちゃったよ。


「あなたが私の水着をとやかく言う資格なんてありませんから」

「まぁそうだが……」

「すーちゃんはプールとか海に行く時、いつも学校の水着だよね」

「はい、もちろんです」


 紐時はえっへんと言わんばかりに胸を張った。変なところにこだわってるな……。


「でも紐時、それはお世辞にもオシャレとは言えないんじゃないか? 自慢のファッションセンスとやらはどこに行ったんだ?」

「何も分かっていませんね。ファッションとはオシャレかどうかではなく、いかに自分に似合うかなのです」

「た、確かに……」


 普段の鬱憤を晴らそうと、少し煽ったつもりだったのだが、正論を返されてしまった。


「えーこと言うなぁすーちん!」

「確かに紐時さん、スクール水着似合ってるね」


 確かに、紐時の小柄な身体に、スク水は結構似合っている。というか、これほどスク水が似合う人を、俺は見たことが無い。少しイケナイ感じもするが……。ちなみに俺はロリコンでは無い。


「じゃーそろそろ泳ごっか! 色んなプールがあるけど、どれから入る?」


 橋立がそう言うと、美波さんが空の方を指差し、一切の迷いなく言い放った。


「あれに決まっとるやろ!」


 その指差す先は、あの巨大ウォータースライダーだった。


「ほんまかいな……」


 思わず関西弁で呟いてしまった。美波さんが聞いたらエセ関西弁とか言われてしまいそうだが、俺はそのくらい絶叫系が嫌いなのだ。


 ここはさりげなく、「じゃー俺はみんなのジュース買ってくるよ」とか言いながら離脱しよう。そう思っていた俺の背中を、誰がぺちっと叩いた。振り返ると耳元に橋立がいた。


「男の子があれくらいで絶叫なんてしちゃダメだよ?」


 橋立は耳元でそう囁き、にっこり笑った。

 逃げ道を塞ぎにきたということは分かっているのに、不覚にもドキドキしてしまった。


「じゃーウォータースライダー行こー!」


 橋立はそう声を上げ、ウォータースライダーに向け歩き出した。他の皆も、その後について行く。


 くそ、行くしかねぇのか……。


 激しい日差しが肌を照り付ける。


 ここで照り焼きチキンになるのを待つより、向こうで流しそうめんになった方がマシだよ。神様がそんな訳の分からない理屈を囁いた気がした。


 俺はタイルにへばり付きそうになっている足を何とか動かし、先を歩く勇敢な彼女たちの後を追った。

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