そして最後は神頼み
前と時間が空いてしまい申し訳ありません。
テスト期間も過ぎたので次から以前の投稿ペースに戻していきたいと思います!
これからもよろしくお願いします!
ラッシュ!
ラッシュ!
ラアアアアアアッシュ!!
俺は何も考えず、ただひたすらに力任せに石斧をルーシュと呼ばれていた少年に向けて振り下ろす。
でかい石斧による猛烈な連打だ。
少年は俺の攻撃を器用に躱し、或いは絶妙な剣技で払いのけ続けるが、俺と彼とでは生物としての圧倒的な開きがある。武器の扱いに少し覚えのある程度の少年が俺の猛攻にいつまでも耐え続けられるはずもなく、ようやく少年が持った武器を弾き飛ばした。
「しまった!!」
武器を無くし壁際まで追い詰められ武器を失った少年に俺の一撃に対処する術などあるはずがない。俺はにやりと笑いとどめとばかりに腕を振り上げるがここで―――
「炎の矢!!」
『ブウウウウウウウ!!』
―――振り上げた腕に再び爆音と衝撃、少し遅れてすさまじい熱が襲い、思わず石斧を落としてしまう。あまりの痛みに見悶え、その間に少年は俺の前から消え武器を拾いあげていた。
クソが! またこれか!
いい加減同じことの繰り返しに嫌気がさしてくる。苦労して追い詰めても追い詰めても、いいところでこうして後ろに控えた女が邪魔してくるのだ。
前衛が盾となり後衛の詠唱の時間を稼ぎ、前衛が崩される前に後衛が高威力の一撃をたたみこみ、そして敵がひるんだ隙に立て直した前衛がまた盾となって後衛を守る。彼らの戦法はとても、とても単純でRPGのゲームでもありふれたものだ。
にもかかわらず俺はいつまでも経っても彼らを殺すことができないでいる。
なぜだ、とは思わない。理由は明白で、単純に俺の力が足りていないのだ。
彼らの連携を崩すのに必要なのは、魔法を撃ち込まれる間もなく少年を殺せる圧倒的な強さ、もしくは彼らが思わらず連携を崩してしまうような未知の攻撃手段であり、俺はどちらも持っていない。ただそれだけのことだ。
もしも彼らのどちらか一方と一対一で戦えば間違いなく俺が勝っていただろう。しかし整えられた装備と仲間、そして連携という人間の武器を前に、俺という少し強いだけの一匹の魔物は太刀打ちできずに一方的にやられていた。
「炎の矢!」
「ブギギャアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
少女の叫びとともに顔全体に燃え上がるような感覚が広がったかと思うと、聞くに耐えない断末魔のような声が聞こえてきて、数秒後それが自分の口から出た声だと気づいた。
今まで何発もの魔法をまともに受け続けてきた体も、今のでとうとう限界を迎えたらしく膝から崩れていく。
立とうと体を無理矢理動かそうとするがこの巨体を支えるほどの力はもう残っていないようで、四つん這いになるのが精一杯だった。
ここで彼らが俺の無様な姿に油断して近づいてくれれば一発逆転の目もあるのだが、そう都合よくはいかないらしい。
彼らは近づく素振りすら見せず、むしろ少し今まで以上に距離をとり詠唱を始めた。
どうやらこれまで以上の威力の魔法を離れた場所から撃つつもりらしい。
なるほど、徹底してやがる。反撃の余地がねえ。
いやまずは落ち着け俺! 今までだってなんだかんだ言って生き延びてきたじゃないか! 今回だってきっといける! だから最後まであきらめんな!
そう自分に強く言い聞かせるが、情けないことに俺の小さーいキャパシティではみるみると少女の頭上で炎の塊が膨らんでいく光景を受け入れることなどできるはずがなかった。
無理無理無理無理無理無理!!
これ死ぬって!
今まで何度も死ぬ死ぬ言ってたけど今回ばかりはホントにマジ無理!
端的に言って今俺は完全にパニックになり、冷静に思考を働かせるなど不可能な状態に陥っていた。
今まで深く考えたことがなかったが、バトル漫画とかの主人公ってすごいんだな~て思う。だって、こんな絶望的な状況で最後まで諦めず冷静に生き残る手段を考えられて、しかもギリギリ死ぬ前にちゃんと思いついて実行に移すとか普通は無理だろ。少なくとも自分はできる気がしないわ。
というかなんで俺が毎度毎度こんな目に合わなくちゃいけないんだろう?
しかもそんな現実逃避までする始末である。
それに普通は転生した主人公になんかすごいボーナスがあるのが定番だろ!?
チートでも転生特典でもスキルポイントでもいい! とにかく誰か助けてください! 神様ヘルプミイイイイ!!
そして最後は神頼み。
一分一秒を争うこの場面で俺はこんな不毛なことに貴重な時間を費やして、俺って本当に小物だなーて思う。
しかし現実ってやつは何がどんなふうに転ぶのか分からない。
あの叫びがこの絶望的な状況を突破しうる光となるとは、叫んだ俺が言うのもなんだが、全く予想していなかった。
【スキルポイントのご利用ありがとうございます】
【現在あなたが取得できるのは《戦士》のジョブスキルと《オーク》の種族スキルです】
【現在のあなたが所有するスキルポイントは《4172》ポイントです】
【あなたが取得できるスキル数は《123》個です】
【すべて表示いたしますか?】
どこかで聞いたような女性の無機質な声が脳内に響き渡る。
まじで? あんのかスキルポイント?
え? いつからあった? まさか俺が気づかなかったというだけで最初からあったとかいうオチですか?
もしかして・・・・・・今まで俺はしなくてもいい苦労をしていたということですか?
まっさかー、そこまで俺はバカじゃないぞ~?
うん、たぶん最近使えるようになったんだろう。そうだ、そうに決まっている。俺の精神衛生上そういうことにしとこう!
突然脳内に響いたアナウンスに混乱する俺であったが、ふと違和感に気づく。
さっきまで聞こえていたはずの長ったらしい詠唱が終わっていたのだ。
見上げると少女の頭上にはどでかい炎の塊が浮遊しており、あれはもう火の玉というより星のように思えた。どういう理屈かこれだけ離れた俺でさえ肌が伝わってくる熱でピリピリと痛むのに、至近距離にいる二人は汗1つかいていない。
少女は天井に向けて構えていた杖をゆっくりと俺のいる方向に振り下ろすと炎もまた主人の命令に従う猟犬のように俺に向かって落ちてくる。
圧倒的な光景だった。まるで自分が神に逆らった罪人のように錯覚してしまう。
・・・いやいや、そんなこと考えてる場合じゃねえだろ! 早くスキルだ!
ここまで来てようやく俺は我に返る。
急いでスキルの一覧を表示させ、片っ端からスキルを取得していく。
長ったらしいスキルの名前や効果などいちいち確認しない。そんな暇などない。もう炎は俺の皮膚を火傷させるほど近くまで迫ってきていた。
取るのは高いポイントのスキルだ。
消費するポイントが高いということはそれだけ強力なスキルということである。この状況を打開するためのスキルである可能性も高い。
そんな理屈でスキルポイントが高い順からとっていき、そして、
【そのスキルを取得するためのスキルポイントが足りません】
そんな無慈悲なアナウンスとほぼ同時に、俺はこれまでとは比較にならないほどの高熱の炎の濁流に飲み込まれていったのだった。