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第8話 少年の決意

「わざわざ、すみません。こんな所にお呼びしてしまって……」


 受付嬢の制服ではなく、私服姿のキエラは店の前で待っていた俺に丁寧に頭を下げた。

 白いニットシャツに赤いフレアスカート、見た目は年相応の少女であり、俺なんかでは釣り合いそうにもなかった。


 流石にボロボロの服で行くのはマズいと思って、一応そこら辺の服屋で無難そうなのを調達してきたが、それでもやはりこの組み合わせ(カップリング)には、違和感を感じずにはいられない。


「じゃあ、早速入りましょうか」


 あっ、やっぱりこの店でご飯食べながら、話すつもりだったんですね……。

 これは全財産(今日の報酬)の三分の一を使って、服を買って着ておいて、正解だったかもしれない。


 シンプルながらもちょっと小洒落たレストラン……、こんな高級感溢れる場所に足を踏み入れたのは何年ぶりだろうか。

 【異端者】になってから、絶対無縁な場所だと思っていたのにな。人生どうなるかなんて分からないものだ。


「好きなもの頼んでいいですよ? お金は私が払いますから」


「えっ、いや、おごりは流石に申し訳ない気が……」


「私が呼び出したんだから、私が払うのが礼儀ですよ! こう見えても結構稼いでますから、遠慮はしないで下さい」


 そう言われたら断るにも断れないじゃないかよ……。

 金に人一倍煩い俺は若干後ろめたさを覚えつつも、仕方なくハッスルシュリンプのクリームソースパスタとかいう、イマイチ想像できない奴を注文したのだった。



「それじゃ、まず……。その、差し支えなければ、ゴブリンロード討伐に至った経緯を教えてくれませんか?」


「い、いきなり核心ついてくるんだな」


「勿論。【異端者(貴方の職業)】でゴブリンを倒すならまだギリギリ理解できます、相当難しいけど――でも、ゴブリンロードは理論的にもあり得ないじゃないですか! どうやって倒したか、気になるんです!」


 勢い付いたキエラはこれでもかと、俺は顔を近づけ、語気を強めて言った。

 意識せずとも、彼女の荒い息遣いが至近距離からしっかりと伝わってくる……。


「わ、分かった! 話すから、そんなに詰め寄ってくるな!」


「あっ、ごめんなさい。つい熱くなっちゃって……」


「…………ふぅ。えっと、どこから話そうかなぁ」


 この経緯を話すには、前提として俺が2つのEXスキルを入手し、成長しないという理論上では、辿り着くのが非常に難しいと言われている【異端者】レベル10に到達したことを教えなければならない。


 実はあまり言いたくないんだよな、この真実……。『見つけた宝は俺の物!』みたいな感覚なんだろうけど、他の誰かの手柄にされたくなかった。

 けれど、隠していたら改善される立ち位置や関係も、改善されなくなってしまう。


「少し長くなるけどいいか?」


「はい、よろしくおねがいします」


 こうして俺は自身の心情等も絡めながらも、十数分に渡って昨日から今日までの出来事を全て話した。

 キエラは時折、素っ頓狂な声で驚きつつも、俺の話を熱心に聞いてくれた。


 だけど、話が終わりに近づくに連れて、彼女の目は潤んでいき……、何故か泣きそうになっていた。

 そして挙げ句には、ハンカチで目頭を強く押す仕草を見せる。彼女に何らかの異常が現れたのは確かのようだった。


「――死にかけだったけど、それで何とか、ゴブリンロードを倒せたってわけだ」


「そっか……。うん、【異端者(貴方の職業)】でもそこまで強くなれたんだね……」


「あぁ。ところで……、さっきから大丈夫? 目にゴミでも入ったか?」


「あっ……。いえ、そういう訳じゃないんです。ただ、ずっと成長しない訳じゃないんだって、分かったら何か嬉しくなっちゃって」


 キエラは食事を食べるのを完全に止めて、ナイフとフォークをテーブルの上に置くと、深呼吸をした。

 そんな彼女の口から放たれた一言は――俺の斜め上をいっていたのだった。




「実はね。私のパパも、貴方と同じ職業だったの」




 雷に打たれたような衝撃が走った。

 動揺からかどんな言葉をかけてやればよいかも、分からなかった。

 彼女の瞳は哀情に濡れ、ただ俺の情けない姿を映し出している……。


「だから……、私にも分かる。貴方が今までどれだけ辛い生活を送ってきたか。だって、私自身もそうだったから」


「そうだった、って?」


「だって……、【異端者】の娘なんですよ? 虐げられて、当然じゃないですか。毎日、毎日虐められてました。職業を授かるその時まで、ずっと――」


 どこか遠くを見つめるような目で彼女は窓の外を見た……。

 哀愁を帯びた視線を、只々暗い空へと向けていたのだった。まるで、空の上にいる誰かを見つけ出そうとするかのように。


「パパは、私が生まれる前に殺されて、ママは迫害のストレスから自殺……。あり得ないですよね、たった1つの職業でこんなになるなんて――」


 とうとう耐えられなくなったのか、キエラは顔を抑えて泣き出した。

 そう、当人でもなく、何の罪もない彼女は両親を奪われたのだ――世間という絶対服従の支配者に。



 あぁ……、何で気づかなかったんだろうな。

 EXスキルを授かったことで、ドン底から這い上がれた。その事を俺は素直に喜んでいた……。

 だけど――それは運が良かっただけだ。


 下を見てみろ……。ドン底にはまだいるんだ、【異端者】として苦しんでいるやつが。

 過去を見てみろ……。ドン底で這いつくばったまま死んでいった【異端者】が沢山いるじゃないか。

 なのに俺だけが助かって、俺だけが喜ぶのか? それこそ、本当に不公平なんじゃないか?



「あほくさ……」



「えっ……?」



「あほくせぇよ……。自分だけ助かって、自分だけ喜んで、自分だけ強くなった気でいて……。他にも苦しんでいる奴なんて山ほどいるっていうのに、手を差し伸べられなかった人だっているはずなのに……」


「…………」


 俺は【異端者】だ。

 他の何者でもない【異端者】なんだ。


 本来なら、その運命を背負ったその時からずっと【異端者】という虐げられるべき存在として、生きていかなければならない。

 だけど、俺は違った。2つのEXスキルを授かり、最弱の世界を抜け出すことに成功した。



 なら俺のやることは……、なんだ?



 剣豪の夢を追いかけることか? いや、違う。



 その最弱の世界に取り残された奴らを、救い出すことじゃないのか?



「なぁ、キエラのお父さんが殺された理由ってあれ(・・)か?」


「はい……、ママから聞いたことなので確証はないですが、赤い満月(ブラッド・ムーン)の夜です」


「やっぱりそうだよな」



 赤い満月(ブラッド・ムーン)の夜――それは【異端者】が虐殺される夜のこと。


 赤い満月の夜は魔の瘴気がとてつもなく濃くなる、よって魔物が最も力を増す不吉な夜だと言われている。

 だから、その夜に被害者が出ないことを祈り、古代の人々は動物などの生け贄を捧げていたという。


 その風習が、あらゆる種族が人族によって迫害される戦乱の世で転じて、迫害すべき種族を生け贄として、殺戮する夜になったのだ。

 そして現在――種族間抗争がなりをひそめた今、そのターゲットは数十年前に現れた最弱職【異端者】に向けられたのだった。


 世界で最も権力を持つ国、アストレア帝国は十年前になって、帝国を含む世界五大国とその風習を制限する宣言を掲げたが、規制までには至っていない……。


 俺が覚えている限りでは、4年前赤い満月の夜の日に、世界中にいた【異端者】5人が街や村の役人などに処刑された。

 そして、【異端者】は消えるべきという文面と共に、新聞紙に書かれ、大体的に報道されたのだった。



 分かっているさ……、当時は赤の他人だった俺も今では当事者であることぐらい。

 だから素直に喜んだのさ。力を得ることによって、その殺戮を免れられることに。



「……ノームさんもターゲットになっちゃうんですよね?」


「だろうな。赤い満月(ブラッド・ムーン)は5年に一度、今から6ヶ月後だ」


 6ヶ月後の夜、俺を含めた全【異端者】が殺戮のターゲットにされる。

 けれど……、今の俺は殺されるつもりなんて更々ない。そして――



「君の話でようやく目を覚ましたよ」



 涙を拭きながら俺の言葉にキエラは首を傾げた。しかし構わず、俺は続ける。



「強くなれるって分かった今、俺にできることは――他の【異端者】を助けることだ。そして、6ヶ月後の地獄の夜を乗り切って、今の風習を断ち切ってみせる!」



 俺の意気込んだ宣言をキエラは、ポカーンと口を開けて眺めていた。

 だが次の瞬間、何故かおかしそうに笑ってみせたのだった。



「……なにがおかしい?」


「だって、凄く堂々と言い張るんだもん。……そうだよね、こんな差別あってはいけません。ノームさんがやるなら、私も協力します!」


「そうか、そりゃ助かる! ていうかなんか……、凄い話がそれちゃってゴメンな」


「いえいえ、私は誰もやり遂げられなかったことをやり遂げたノームさんが、どんな人なのか知りたくって誘っただけですから……。私の話が結果的に、役に立ってくれたのなら幸いですっ!」



 そう言うと、キエラはニカッと歯を出して最高の笑顔を俺に見せてくれた。

 そして俺もそれに応えられるように、心の底から笑ってやった。



 それは同じ運命を歩んだ俺と彼女の心が一つになった瞬間――理不尽な世間に立ち向かう決意をした瞬間だった。

『余談』


ノームは裕福な家庭ではなかった為、そもそもパスタやシュリンプという単語を知りません。

それぐらい分かるだろって思うかもしれませんが、田舎暮らしだった彼にとって都会料理は最も縁のない物なのです。



これにて、プロローグ部となる第1章は終わりです。ここまで読んで下去った方、本当にありがとうございました! これから邁進して参りますのでよろしくお願いします。

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