第7話 異端者は誘われる
「嘘だろ……、アイツマジかよ……」
「何いってんだ。最弱職だぞ? そんな事ある訳ないだろ」
俺の後ろに並んでいた冒険者がガヤガヤと騒ぎ始める。
何というか、ちょっとだけ得意げな気分だった。
今まで何もできなかった俺がこうして、実力のみでやり返せた……。胸に張り付いたできものが剥がれ落ちたかのように感じる。
「……で、では確認させていただきますね」
冒険者証明書を魔法具の上に置いて、何やら操作をし始める受付嬢。
恐らく、冒険者証明書に保存されている討伐記録を確認しているのだろうな……。
小さなカードに見せかけて、この証明書には非常に強力な鑑定魔法が埋め込まれていて、討伐記録等が自動的に記録されていく。
それを調べることで、冒険者等級の昇格や降格等を判断するのだ。
「えっ、えっと……、ゴブリンロードの討伐を確認させていただきました! 報酬を用意させていただきますので、これを記入して少々お待ち下さい!」
あれ、これでも報酬がもらえるのか?
てっきりこの奇妙の大角だけだと思っていたけど、なら結構美味しいじゃないか。
俺はゴブリンロードが現れた場所などを正確に記入して、受付嬢が戻るのを待っていた。
「はぁ……、お待たせいたしました! 討伐報酬の50000ペルです」
「あ、あの、このレベルの魔物は討伐しただけでも報酬が貰えるんですか?」
「はい。ダンジョン産でなければ、こちら側が報酬を支払うことになっています。適正ランク銅級二位とはいえ、弱小な村などは壊滅しかねないので」
その割には少々報酬が少ない気もするけどな……。
まぁ、俺にとって大金であることには変わりないから、有り難くいただくことにしよう。
「ありがとうございました。これからも頑張りますので、よろしくおねがいします」
「こ……、こちらこそ、悪態をついてすみませんでした……」
冒険者証明書をしまった、俺は身を翻してそそくさと列を離れた。
憎まれ口を叩かれるのは日常茶飯事だったが、謝られるとは思っていなかったな。
誠意かは分からないけれど、それだけでも俺の底に溜まったドロドロとした感情が薄れゆく気がした。
「俺が求めていたものは……、これだったのかもな」
我ながら単純だけど、悪い気だけはしなかった。
俺は緊張をほぐし、少し口角を緩めると今度は素材売却カウンターへと向かったのだった。
☆ ☆ ☆
「あの、素材売却ができるのはこちらですか?」
「はいっ、こちらで承って――あっ!」
顔を上げた受付嬢はハッとして、動きを止めると俺をジッと見つめた。
見るとやはり、俺を冒険者登録してくれたその娘で間違いなかった。
「良かった……、無事帰ってこられたんですね」
「はい、何とか。でも案外大漁でしたよ?」
俺は肩がけのバックからゴブリンの角を十数個、そしてゴブリンロードの角を1つ取り出して、カウンターの上に置いた。
勿論、あの奇妙な形状をしたデカい角が出た瞬間、彼女の顔つきが急変するのも予想済みだ。
「こ、こ、これってゴブリンロードの角ですよね? まさか、倒したんですか!?」
「ええ、偶々と言ってしまえばそれまでですが、死に物狂いで……」
「凄い……【異端者】なのに。――あっ、いえ、別にノームさんの事を馬鹿にしたわけじゃないです! でも……」
受付嬢はなにかひらめいたかのように、懐から名刺を取り出して俺に渡した。
そこには女子らしく、丸っこい字でキエラ=ルメーユと、仕事用と思われる連絡先が書いてあった。
「この後、暇な時間はありますか?」
「あ、あぁ……、どうして?」
「貴方と少し、お話したいことがあるんです。ノームさんの職業関連で」
その受付嬢ことキエラは赤髪を丁寧に掻き上げると、目をそらさず真剣な眼差しで俺を見据える。
「無理なお願いなのは重々承知しています、ですが……、そのお願いできますでしょうか?」
俺は少しの間、顎に手を当てて一考した。
何かと強引だったが、目を見る限りでは、彼女に邪な考えがあるとは思えない。
それに彼女自身でも職業関連と言っているように、何かしら俺に関係があるものと見た。
「分かりました。どうせ後は宿を探すだけなので、構いませんよ」
「ありがとうございます! 私のシフトは後15分だから……、30分後にこの店で待ち合わせでいいですか?」
キエラは、この街でも若干高級そうな店の場所が書かれた紙を俺に渡した。
まさか、食わされるんじゃないだろうな? この店の食事を。
こんな貧相な格好をした俺なんかが行って大丈夫なのか? なんかおこがましくないか?
「構わないですよ」
「じゃあ、ここで決定ね……。それではこの話は後ほどに回すとして、これらの素材全て売却しても大丈夫でしょうか?」
「はい、お願いします」
その後、俺は素材を売却したことで21700ペル、報酬も合わせて合計71700ペルを手に入れたのだった。
そのうち、70000ペル分全てゴブリンロードによるものなのだから、驚いたものだ……。
そしてもっと驚きなのは――周りにいた冒険者たちの痛烈な視線だ。
さっきの騒ぎの後はそんなに視線を感じなかったのに、キエラと話している内にいつの間にか冒険者、特に男から睨まれていたのだった。
そんなに【異端者】が嫌いなの? と思わず呟いてしまうほど、居心地が悪かった。
「じゃあ、また後で……っ!」
ニッコリと笑顔の華を咲かせたキエラに見送られつつ、俺は気まずい素材売却カウンター付近から、足早に去ったのだった。
すみません、本当なら第7話でキエラの話まで終わらせてしまうつもりでしたが、結構話が長くなったのでここで切って投稿したいと思います。
前回同様短くて申し訳ない……。