第6話 VSゴブリンロード 後編
「グガアアアア!!」
ゴブリンロードは両手持ちで棍棒を何度もフルスイングし、俺を身体ごと撃破しようと迫ってくる。
森の木々が容赦なく倒れていくが、そんな事に構わず俺はひたすらと攻撃を躱し続けていた。
勿論、攻撃に当たってもアウトだし、それが派生した爆風や強力な波動をその身に受けてもアウトだ。
如何にして攻撃を回避し、受け流すか……俺はそれだけを考えて、一つひとつ相手の動きを読んでいく。
「ゴアアアアアアッ!!」
攻撃が一度も当たらず、遂に怒りを顕にした赤鬼は顔を真赤に染め上げると、その巨体で空中に飛び上がったのだった。
「クソッ、これ食らったら次は死ぬぞ!」
俺は急いで体勢を整えると、動作1つたりとも見逃さないようゴブリンロードを睨みつけた。
そして、俺が息を止めた次の瞬間、ゴブリンロードの渾身の一撃が地面に炸裂する。
「今だ……ッ!」
棍棒が叩きつけられるのとほぼ同時に、俺は飛び上がると、地面に衝撃波魔斬を叩きつけて、暴風と共に虚空へと舞い上がった。
身体にダメージが入らぬよう、素早さと反作用を生かして、衝撃吸収を試みたのだった。
「はぁ、はぁ……。よし、これなら……」
ゴブリンロードよりも遥か上空を浮遊した俺は、大木の上に着地する。
そして、ゴブリンロードの肩の上に飛び乗ったのだった。
イザラギの刃をゴブリンロードの皮膚に突き立て、馬鹿力で一気に押し込み、長時間ダメージを与えるように仕向けたのだった。
「グア……、ゴアアアアアアッ!!」
肩に激痛が走ったのか、ゴブリンロードは棍棒を投げ捨てて大暴れし始める。
更に肩の上に乗っている俺を血眼で睨みつけると、払い除けようと大きな左手で肩を強く叩きつけた。
しかし、僅かに俺の速さが上回り、直ぐ様右腕を滑るように降り始めたのだ。
勿論、イザラギはゴブリンロードに突き刺したまま、赤色の皮膚を大きくえぐるようにして斬り裂いていく。
「ガ……、ギャアア、ギャアアアアアアアアアアッ!!」
苦痛で顔を歪ませた赤鬼、彼は目をギュッと瞑って大きな叫び声を上げたのだった。
自分よりも小さな生物にここまで痛めつけられるとは、少しも思っていなかったのだろう。
俺が地面に降りた後も、ゴブリンロードは右腕をキツく抑えて、何度も何度も呻き声を漏らす。
「当然、痛かっただろうなぁ……。何せ10秒以上に渡って、お前にダメージを与えたのだから。残りHPももう大して残っていないだろうよ」
骨の髄まで痛む全身を動かして、俺はイザラギにありったけの魔力を込めた。
そして、助走をつけて大きく薙ぎ払い、紫の波撃をゴブリンロードの顔面に向けて10発放つ。
俺は弱い、捻り潰されたら一瞬で死んでしまうほど、弱々しい生物だ。
だけど――世の中にはこんな言葉がある。
「一寸の虫にも五分の魂。よく覚えておけ……」
ゴブリンロードの顔が衝撃波によって血まみれになると同時に、俺はそう吐き捨てて、イザラギを丁寧に鞘に収めたのだった。
☆ ☆ ☆
「はぁ……、マジで死ぬかと思った」
無事にゴブリンロードの遺体から、長さ30センチにも及ぶ巨大な角を回収し終えた俺は、げんなりとして本音を呟いた。
やっぱり、こんな強敵と戦うもんじゃないな。命が幾つあっても足りないよ……。
今日は爆風でHP3持っていかれた以外は、上手く避けきれたかもしれないけど、次が成功するとも限らない。
「けれど……、経験値は美味しかったかな」
レベルが14まで上がったステータスを見て、汗だくながらも俺はほくそ笑むのだった。
もしレベル10毎に自由ステータス値が割り振られるのなら、後レベル6か……。ちょっと先は長いかもしれないが、やり甲斐はあるかもな。
ともかくこれからは頑張るとして、俺はこの戦いを通じて――ただ1つだけ、心に決めたことがある。
「もう二度と、この森には来ねぇからな」
ゴブリンロードの死体を一瞥した俺は、一人虚しく悪態をつくと、隣町のギルドに向かって歩き始めるのだった。
既に日は暮れかかっている、赤鬼とスリル満点の時間を過ごした後は、適当な宿で久しぶりに水魔法代用ではない本物のシャワーを浴びたいな……。いや、浴びれるといいな……。
「幾らになるかなぁ、このゴブリンロードの角……」
腹の足しになれば、いいけど……。
☆ ☆ ☆
日が暮れて、夜の帳が下りた――
ギルドは昼と違って、帰ってきたばかりの冒険者たちで賑わっていた。
面倒事には巻き込まれたくない、そう思った俺は、相変わらずお粗末な鑑定遮断魔法を全身にかけると、誰とも話さず、できだけ影薄く討伐報告カウンターの列へと向かった。
ゴブリン程度の討伐ならこっちに並ぶ必要はないのだが、流石にゴブリンロードともなると報告しないわけにもいかない。
ステータスに討伐記録を記載されているだろうし、証拠品もある。後は、あの受付嬢が俺にどの様な感情を抱くかだな……。
「はい、次の方どうぞー」
ようやく順番が回ってきたらしく、俺は無言で頷くとニッコリと笑う受付嬢に冒険者証明書を渡した。
朝とは違う受付嬢、か――いや、彼女もギルドの役員なんだ。人を不快にさせるような対応はしないはず……。
「あっ……? 【異端者】?」
……と、思っていた時期が俺にもあったとさ。
さてと、この面倒事、どう切り抜けようかねぇ。
「あの、ノーム様? 失礼ですが、こちらのカウンターは貴方のような人が並ぶ場所じゃないんですけど?」
「そう……、ですか。では俺がゴブリンロードを倒していたとしても、そう言い切ることはできますでしょうか?」
「はぁ……? 何言ってんのコイツ、頭おか――――はぇっ!?」
俺がバックから堂々とゴブリンロードの角を取り出したその瞬間、その受付嬢の動きが完全にフリーズしたのだった。
前編後編分ける必要性なかったですね……。
短くて申し訳ないです!