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第5話 VSゴブリンロード 前編

 牙を剥き出しにした赤き鬼は、足を止めて俺をジッと見下ろすと、大気をビリビリと揺さぶる咆哮を上げ、俺を威嚇してきたのだった。


 ゴブリンロード――適正等級は銅級二位とかなりの強敵だ。

 鉄級四位の冒険者がまともに戦って勝てるような、舐め腐った相手ではない。


 ゴブリン系の魔物を弱い順から並べると、ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンフィーロ、ゴブリンロードだ。

 ゴブリンと強さを比較するまでもないほど、豪腕で、狡猾で、頭も回る。

 どう考えても、現時点で戦ってはならない魔物だった……。


 けれど……、どうしてだろうか。

 今の俺なら倒せるんじゃないか? って思ってしまう。

 理性では過信だと分かっているのに、どうしても更なる強敵に挑みたくなってしまっている自分がいた。


 ――ええい、ままよ! どうせ逃げても、他の誰かが戦うことになるんだ。ならここで倒しちまってもいいよなぁ!?


 歯を食いしばり、イザラギを構えた俺はゴブリンロードと対峙する。

 体格差は一目瞭然、少しでも攻撃が当たれば死亡確定だろう。けれど、寧ろ相手の身体が大きいということは、こちらが攻撃をしやすい事を意味している。


 僅かなMPを使い、鑑定した所、相手のHPはどうやら約800のようだ。

 倒すのに相当時間がかかりそうだが、相手の体格が並外れて大きい分、如何にして攻撃時間を稼ぐかが勝負の命運を分けそうだ。


 それに幾つか試したいことがある――それが上手くいくのなら、倒せない相手ではないだろう。


 俺は肺に溜まっていた空気を吐き出すと、名刀イザラギに鑑定魔法に掛ける。


 ―――――――――――

 名 前:イザラギ

 武器種:剣

 耐久値:1093

 

 《ステータス補正》

 攻撃力 1.07倍

 魔 力 1.07倍


 《特殊効果》

 【MP回復Ⅴ】

 【付与適正Ⅶ】

 【不死特攻】

 ―――――――――――


 現在の攻撃力は小数点以下まで含めると5.35、だがステータスの表示は四捨五入されているため、実際は5.35のダメージを与えていても、5と表示されるはずだ。


 だから俺もそれに習って、大体5でいいだろう。

 攻撃力が5、つまり単純計算約16秒間、敵に物理攻撃を仕掛ければ、俺の勝ちというわけだ。


 だが……、正直気になった点が幾つかある。

 それはスキル【多段攻撃】の説明に記されていた攻撃の定義に関してだ。


 今までから推測するにあの説明に書かれていた攻撃中とは、刀で敵を斬り裂いている最中や、拳で敵を殴っている最中のことらしい。


 もしこの定義であっているのだとすれば、魔法攻撃でもその効果が適用されてもおかしくはない。

 魔法が敵に当たっている最中、攻撃中と見なされるのなら――それこそかなりのダメージ稼ぎとなる。


 ただ、俺はステータスから考えても、クソみたいな魔法しか使えない。

 火球とか作ってみろ、直径2センチも満たない物しかできないぞ。こんなの唯の照明用だ!


 けれど、そんな俺でも1つだけ、まともに使える魔法がある。

 いや、魔法というよりは魔法剣術といったほうがよさそうだな……。



 お互いの間に沈黙が流れ、風の音だけが鼓膜を震わせる。

 そして、そんな睨み合いを切り上げ、戦いの火蓋を切ったのはゴブリンロードだった。


 強靭さが窺えるその太い脚を一歩前に踏み出すと、赤鬼は地面すれすれの位置で、怒涛のごとく棍棒を横に薙ぎ払った。


 今までの俺だったら避けられていたかどうかも分からない。

 けれど身体力が高くなった影響で、俺の動体視力は向上し、より瞬時に物事が判断できるようになっていた。


 背後に飛び退く時間はない――ならいっその事、飛び越えるか。


 俺はタイミングよく、地面を強く蹴って飛び上がると、近くにあった木の幹を使って三角跳びをする。

 そこから宙返りで身体を大きく反らし、ギリギリで棍棒を躱したのだった。


「いきなり、死ぬかと思ったぞ……ッ!」


 しかし、図体がデカい分、攻撃後の隙が非常に大きい。その瞬間を突く以外に、安全かつローリスクで攻撃することはできないだろう。


 イザラギを構え直し、絶えることがないであろう魔力をそれに注ぎ込む。

 比較的魔力を付与することに適したイザラギは、間もなく紫色のオーラを纏い、輝き始めた。


 剣豪になりたいなら、最低限これは使えるようになっておけ。

 そう何度も、特訓させられてきた魔法剣術だ。



衝撃波魔斬(マジックスラッシュ)――ッ!」



 刀を薙ぎ払った瞬間、魔力が解き放たれ、音速を超えた衝撃がゴブリンロードに襲いかかる。

 その後も俺は続けざまに、強化された身体力で刀を9回ほど連続で振ってみせ、合計10発の衝撃波を放ったのだ。


 一発の威力は魔力が5しかないせいで、そこまで強くはない。

 だがしかし――もし俺の仮説が正しければ、敵が食らうダメージは5程度ではすまないはずだ。



「グオオァアアアアアッ!?」



 全身から血が吹き出したゴブリンロードは、鼓膜を突き刺す叫び声を上げると、体勢を崩し大きく後退した。

 直ぐ様、鑑定魔法で確認してみると、敵のHPは700代前半まで大きく減少していた。


 それはつまり、今の一撃のみで約100ダメージを与えたことを意味している。

 5×10を大きく越している、ということは恐らくこの衝撃波にも物理攻撃の基準は適用されているらしい。


 よっしゃ! これで仮説が正しいと証明された。

 それなら、後は適当に距離を取りながら、この衝撃波を当てるだけで――




 ――という訳にも行かなそうだった。




 何故なら、そう簡単にゴブリンロードが俺に魔力を溜めさせる隙を、与えてくれるとは思えなかったからだ。

 現に既に棍棒を天高く掲げているいる奴は、俺の頭上目掛けて、それを振り下ろした。


「うお……っ!?」


 俺が飛び跳ねて回避したと同時に棍棒は叩きつけられ、地面が大きく割れた。

 強力な振動からか近くの大木は何本も無残に倒れ、木の枝が遠くへと吹き飛んでいった。


 そして、ある程度距離を取っていたにも関わらず、俺も例外なくその暴風の被害を被った。


「ぐ……、や、ヤバいっ!」


 虚空を舞う俺は、たった一本の棍棒が作り上げた大気の振動で吹っ飛ばされる。

 風が身体に叩きつけられただけで、骨がミシリと軋み、全身に凄まじい激痛が走り抜けるのが分かった。


 それはまさにHPが減った合図だった。


 痛みに耐えつつも、受け身をとって地面に着地した俺は恐る恐るステータス画面を起動する。


 ――――1/2――――

 種 族:人間

 名 前:ノーム=アテナム

 職 業:異端者

 レベル:10

 H P:2/5

 M P:4973/5000

 (以下省略)

 ―――――――――――


 嘘だろ……? 今の衝撃波だけでHPが3も弾け飛んだって言うのかよ!?


 あぁ、分かっていたさ。これが俺の唯一の弱点だということぐらいな。

 だって、防御力1なんだぜ? 攻撃自体は直接当たっていないとはいえ、衝撃波を受けただけでもダメージを食らってしまう。

 それだけ、ペラペラな防御力なんだよ俺は。


「へっ、無様だな……。こんな風1発でダメージを受けてしまうとは」


 自嘲気味に鼻で笑うと、俺は立ち上がり、服についた泥を払い除けた。

 既にゴブリンロードは次なる攻撃を仕掛けようと、木々を薙ぎ倒しながらこちらに駆けてきている。



「いいか? 全部躱すんだ……、攻撃も、衝撃も、魔法も、ダメージの要因になるものは全部……」



 自分に言い聞かせるように呟いた。


 無理? 不可能? 現実味がない?

 そんなの、やってみなきゃ分からないだろうが!

『余談』

・【多段攻撃】(魔法)について


ちょっと分かりにくかった人向けに、この場で追加説明をさせていただきます。

今回、ノームは衝撃波魔斬でゴブリンロードに攻撃しましたが、この衝撃波にも”物理攻撃時”における0.1秒毎に攻撃判定が繰り返されるスキル効果は適用されました。

つまり、素手であろうと、武器であろうと、魔法であろうと、ノーム自身が物理的に敵に力を及ぼせば、このスキル効果は発動するわけです。

例えば、今回の衝撃波は小説には書いていませんが、約0.2秒間ゴブリンロードに力を与えた事になっています。なので衝撃波は2回分、攻撃判定が繰り返され、5×2の10ダメージをゴブリンロードに与えたわけです。(更にそれが10発分なので、100ダメージである)


なんか余計分かりにくい説明になってしまいましたが、端的に言えば物を何秒間押すか、そんな感覚で考えて頂けるとありがたいです。

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